衆議院議員の杉田水脈氏が新潮45(2018年8月号)に寄せた論考を受けて、LGBT法連合会は7月23日、抗議声明を発表した。杉田氏の寄稿では 「LGBTに対する差別は存在しない」、「LGBTは子どもを作らないために生産性がない」 などと書かれており、同団体は、「困難の現実を無視した差別的論考で、大変に問題がある」と指摘した。「人権侵害であるだけでなく、同氏が所属する自由民主党の方針にも反するものである」と強調した。声明文は下記。(オルタナS編集長=池田 真隆)
2018年7月19日に衆議院議員の杉田水脈氏(以下、杉田氏という)が新潮45(2018年8月号)において、「『LGBT』支援の度が過ぎる」(以下、本件論文という)を寄稿した。本件論文は、全体として正確性に欠けるとともに、性的指向および性自認等により困難を抱えている当事者の置かれている状況を全く考慮していないことに加え、法制度に対する正確な認識を欠いている。
また、性的指向および性自認等により困難を抱えている当事者に対して侮辱的・屈辱的とも取れる内容であり、このような主張は許容することができない。当会は、本件論文の性的指向および性自認等により困難を抱えている当事者の権利を侵害するこれらの主張について強い遺憾の意を表明する。
杉田氏は本件論文にて以下のように主張している。
「最近の報道の背後にうかがわれるのは、彼ら彼女らの権利を守ることに加えて、LGBTへの差別をなくし、その生きづらさを解消してあげよう、そして多様な生き方を認めてあげようという考え方です。しかし、LGBTだからといって、実際そんなに差別されているものでしょうか。もし自分の男友達がゲイだったり、女友達がレズビアンだったりしても、私自身は気にせず付き合えます(本件論文57頁~58頁)」
上記の主張は、LGBTの当事者に対して差別は存在しないと述べ、社会における差別・ハラスメントの実態が存在しないことを内容としている。しかし、LGBTの当事者が、学校や職場、医療・福祉の現場、地域等において、カップルのみならず個人としても、さまざまな差別やハラスメントを受けていることは、当会の困難リスト(264事例)で列挙されている。また、2017年10月の内閣府「人権擁護に関する世論調査」において49%の人が「差別的な言動をされること」と回答していることをはじめ、様々な統計調査において、差別の実態が明らかにされているところであり、不公正が存在していることを示すこのようなデータに対する認識が欠如している。
また、何より杉田氏が所属する自由民主党がまとめた「性的指向・性自認の多様なあり方を受容する社会を目指すためのわが党の基本的な考え方1」において「当事者の方が抱える困難の解消をまず目指すべきであること」と述べられていることから、杉田氏の主張は、自由民主党の方針にも反するものであると指摘できる。
さらに、杉田氏は以下のように主張している。
「LGBTのカップルのために税金を使うことに賛同が得られるものでしょうか。彼ら彼女らは子供を作らない、つまり『生産性』がないのです。(本件論文58頁~59頁)」
上記主張は、LGBTの当事者は子供を作らない、そしてそのことで生産性がないと二重に断定したうえで、生産性がない者に対して、税金を投入することについて疑義を唱えるものである。しかしそもそも、LGBTに限らず広く人権の観点、また少子高齢化社会における人々の支えあい、という観点からも、「生産性」を引き合いに出す上記主張は問題である。
またその背後に、日本の租税法制への認識にも問題があると指摘せざるを得ない。杉田氏の上記主張の背後には「税金は支払ったものだけがそれに見合ったサービスを受けることができるものである」という前提が存在すると思われる。しかしながら、1985年3月27日に最高裁判所の大法廷2が判決を言い渡しているところ、判決の理由のなかで「租税は、国家が、その課税権に基づき、特別の給付に対する反対給付としてでなく、その経費に充てるための資金を調達する目的をもつて、一定の要件に該当するすべての者に課する金銭給付」と述べ、租税は「国家の財政需要を充足するという本来の機能に加え、所得の再分配、資源の適正配分、景気の調整等の諸機能をも有しており、国民の租税負担を定めるについて、財政・経済・社会政策等の国政全般からの総合的な政策判断を必要とする3」としている。
すなわち、必ずしも自身が得る受益・利益に応じて租税が賦課されるわけではないのであり、杉田氏の主張は、日本の租税法制を全く考慮していない。またこのことは、「自助自立する個人を尊重し、その条件を整えるとともに、共助・公助する仕組を充実する」「政府は全ての人に公正な政策や条件づくりに努める4」という、自由民主党が綱領に掲げている「政策の基本的考え」にも、杉田氏の主張は反しているといえる。
また、杉田氏は、LGBTの存在そのものに対して生産性がないものとしているが、仮に生産性を論ずるとしても、経団連などが指摘するように5、研修や性的指向・や性自認に関する差別の禁止規定・支援制度の整備を進めることで、差別をなくし多様性を尊重する風土を醸成することこそ、個々人の生産性を向上させるものと指摘されていることが考慮されていない。
杉田氏は以下のように続ける。
「一方、LGBは、性的嗜好の話です。以前にも書いたことがありますが、私は中高一貫の女子高で、まわりに男性がいませんでした。女子高では、同級生や先輩といった女性が疑似恋愛の対象になります。ただ、それは一過性のもので、成長するにつれ、みんな男性と恋愛して、普通に結婚していきました。マスメディアが『多様性の時代だから、女性(男性)が女性(男性)を好きになっても当然』と報道することがいいことなのかどうか。普通に恋愛して結婚出来る人まで、『これ(同性愛)でいいんだ」と、不幸な人を増やすことにつながりかねません。(本件論文59頁)」
「『常識』や『普通であること』を見失っていく社会は、『秩序』がなくなり、いずれ崩壊していくことにもなりかねません。私は日本をそうした社会にしたくありません(本件論文60頁)」
性的指向および性自認等により困難を抱えている当事者が性的指向・性自認をまるで任意によって選んでいるかのように述べられており、性的指向・性自認等により困難を抱えている当事者を「普通でない」存在としている。しかし、これらは事実に反するだけでなく、「性的指向・性自認とも、本人の意思の問題ではなく、本人にも選択できるものではない」「さまざまな侮蔑的な表現や『~であることが普通』といった表現により人知れず傷つくことが多い」とした、自由民主党の「議論のとりまとめ6」にも反するものである。
以上のように、本件論文における杉田氏の主張は、性的指向および性自認等により困難を抱えている当事者等の人権を侵害するだけでなく、現実に存在する「性の多様性」を無視し、与野党、並びに行政や各種団体が進めている性的指向及び性自認等により困難を抱えている当事者等に対する施策の実施に反するものであり、国会議員としての氏の資質に疑問を抱かざるを得ない。
当会は杉田氏の本件論文における主張に対して、強い遺憾の意を表明するとともに、杉田氏の上記主張が自由民主党の方針にも反すると考えられることから、厳正な対応を求めるものである。
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1 自由民主党政務調査会性的指向・性自認に関する特命委員会 「性的指向・性自認の多様なあり方を受容する社会を目指すためのわが党の基本的な考え方」 2016年5月27日
2 最高裁判所民事判例集39巻2号247頁所収
3 前掲 1985年3月27日 最高裁判所大法廷判決
4 自由民主党、「平成22年(2010年)綱領」2・(3)・(6)
5 日本経済団体連合会「ダイバーシティ・インクルージョン社会の実現に向けて」2017年5月16日
6 自由民主党政務調査会性的指向・性自認に関する特命委員会「議論のとりまとめ」2016年4月27日