官民が連携して社会的課題を解決する「ソーシャルインパクトボンド」をテーマにしたセミナーがこのほど開かれた。基調講演には、未来投資会議で成果連動型民間委託の推進をリードした竹中平蔵氏(東洋大学教授)と米国で豊富な実績を有するサードセクター・アジア創業者のKevin・Tan氏が登壇した。当日の模様を寄稿してもらった。

セミナーの様子

8月1日、「ソーシャルインパクトボンドセミナー2018:成果連動型公共事業の海外最新動向と日本における今後の展望」が開催された。基調講演は、竹中平蔵氏(東洋大学教授)と米国で豊富な実績を有するKevin・Tan氏(サードセクター・アジア創業者)が最新動向を共有した。

後半のパネルディスカッションでは、松岡洋平氏(RIZAPグループ グループマーケティング推進ユニット長)、幸地正樹氏(ケイスリー代表取締役)及びファシリテーターの工藤七子氏(社会的投資推進財団常務理事)を加え、新たな社会課題解決の在り方について議論した。(寄稿・鈴井豪=ケイスリー)

■成果連動型民間委託の普及へ

竹中氏は、6月に閣議決定した「未来投資戦略2018」に成果連動型民間委託(Pay for Success:以下PFS)の普及・促進と内閣府が推進体制を整備するなどその実現に向けた具体的な行動が記載されたことを挙げ、今後のPFS普及を加速化しうるエポック・メーキングだと評した。

■「予算の効果的な活用が重要」

欧米とアジアのPFSに関する最新動向を報告したTan氏は、データと成果に基づいた資金の配分とイノベーションが必要とし、PFSが単なるコスト削減ではなく、事業の成果に基づいた事業コストの効果的な活用だと強調した。

欧米では現在、ビッグ・データの活用、継続的な金融イノベーションなどが模索され、資源・事業・データの新たな活用がPFSを次のレベルに押し上げると述べた。PFSを組成するためには、仕組みをできる限りシンプルにして想定外を想定するよう心掛けることの重要性を上げ、PFSを組成するプロセスの価値を強調した。Tan氏はアジアでも徐々にPFSの案件が組成されており、その可能性に期待をにじませた。

パネルディスカッションでは、日本のソーシャル・インパクト・ボンド(以下SIB)の先行事例の成果と発展の方向性についても議論された。松原氏はRIZAPと伊那市の成果連動型健康増進プログラムが成果を上げたことを述べ、幸地氏は八王子市SIBに触れ、合意した成果目標の1つを達成し、近く資金提供者への初回の支払いが行われる見込みであると述べた。

一方で、両者とも課題としていかにSIBやPFSを日本の他地域に広げていくかを挙げた。幸地氏は規模拡大のために広域化する際、自治体それぞれが個別にデータを持ちデータ収集・統合に大きなコストがかかることを課題として挙げた。

Tan氏は、アメリカでは中央政府からデータを標準化して集めることを義務付けた州政府への資金提供などがあることを事例に挙げ、新たなデータ収集ではなく既存データの結合の重要性を上げた。

最後に、パネリストは来年に向けた目標を述べた。幸地氏はビッグ・データやブロックチェーンなどの先端技術を活用したPFSの事業化、評価・支払などの効率化、Tan氏は規模の大きいPFSの案件組成、竹中氏はより良い事例の蓄積、松原氏はRIZAPならではの手法と国との連携を検討していくことを挙げた。今後のPFSの動向が注目される。

※成果連動型民間委託(PFS)やSIBについて


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