「カヌー乗ってみたい?」 「うん」 その一言から西日本豪雨の被災地で子どものためのカヌー体験プロジェクトが始まった。企画したのは、カヌートレックガイドとして四万十塾を主宰する木村とーる氏。阪神大震災から災害ボランティアにかかわり続け、西日本豪雨では岡山へかけつけカヌーで85人と猫一匹を救助した。車にカヌーを詰め込み支援に向かった愛媛県西予市で出会った子どもと交わしたのが冒頭の会話だ。(文・写真=福地 波宇郎)
8月2~3日の両日にわたり、西日本豪雨により甚大な被害を受けた愛媛県西予市野村町の子どもたちが四万十川でカヌー体験を満喫した。これは木村氏が理事としても名を連ね、西予市社会福祉協議会と連携して現地で復旧活動に当たっている緊急災害支援ネットワーク、一般社団法人OPEN JAPANが「保養プロジェクト」として主催したものだ。四万十市が後援に就いた。
夏休みに入ったものの、子どもたちが楽しみにしていた夏祭りや花火大会、プールなどが災害の影響ですべて中止となった。避難所で暮らす子どもは自分たちの学び舎である小学校で暮らし、子どもたちなりに周囲に気を使いながら暮らしている。そんな子どもたちに少しでも楽しい夏休みを過ごしてほしいと企画した。
日帰りプログラムで二日間、両日とも20人ずつの募集をしたところ、初日が21人、二日目に20人が集まった。OPEN JAPANの現地事務局には連日保護者からの問い合わせがあり、「片付けで子どもたちになにもしてやれず、どっかに連れていくにも行けなかったのでぜひ詳細を聞きたい」と切々と話していた。
当日、子どもたちは四万十市が出したバスに乗り込み四万十川を目指した。野村からは車で2時間ほどの距離だ。日本有数の景勝地、四万十川のほとりについた子どもたちは四万十塾のスタッフからライフジャケットの着方、パドルの使い方、カヌーの乗り方をつぎつぎと教えてもらいながらも、一刻も早く川に入りたいとうずうずしている様子だった。
ほとんどの子が初めての体験だったが、カヌーに乗り込み川へ出ると思い思いにパドルを漕ぎ、爆発するかのような元気さで川遊びを満喫していた。
「たのしー!」「めっちゃきもちいい!」と笑顔で叫びまわる子どもたち。今まで知らないうちに押さえつけられていたものが一気にはじけるかのようだった。
木村氏は「水害で怖い思いをした子どもたちを川に連れて行くのはどうか、という声もあったけど生きていく上で水は切り離せず、そのありがたさ、楽しさも伝えたかった」「地域の子どもが笑顔になったら周囲も明るくなって力が湧き出します。復興の力になれば」と語った。
翌日には事務局に子どもたちが遊びに来ていた。「子どもが帰ってきたらもうカヌーの話ばっかりしおるんよ」と母親が笑顔で話してくれた。同団体では今後も同様の企画を実施していきたいと考えているとのことだ。