こんにちは。女性と子育て研究所代表兼SMCネット主宰の高田真里です。前回は実際に選択的シングルマザーを選んだ女性(SMC)と、選択的シングルマザーを希望する女性(SMC Thinker)たちについて、いくつかのケースを紹介しました。連載3回目となる今回は、選択的シングルマザーになるために必要な3つのことについてお話ししたいと思います。(女性と子育て研究所代表/SMCネット主宰=高田 真里)

選択的シングルマザーになるために必要な3つのこと

■精神的な自立

子育てをする上で、親の精神的な自立は重要です。夫婦であれば補い合うことができますが、SMCの場合は夫を必要としないで育てると決めたわけですから、精神的な自立は大前提です。

精神的自立とは「はじめから他者に頼るのではなく、自分で判断して責任を持って行動する」ことではないでしょうか。「誰かが何とかしてくれる」というような他力本願的な考えが強い人や自分の行動や発言に自信がなく、すぐに誰かを頼る人は、精神的な自立ができていない状況にあります。

親が精神的に自立していなければ、子どもの人生に責任を持つことはおろか、育児さえも困難になってしまいます。子どもの健康に関わることや教育方針など、SMCは人生の様々な岐路で重要なことを自分で判断して行動しなければなりません。SMCになることを検討するのであれば、まずは自分自身が十分に精神的に自立できていることが大切です。

■経済的な自立

生きていく上で経済的な自立はとても重要です。経済的自立とは「稼ぐ力」だけではなく、「自分にとってどの程度の経済が必要か」を理解する力も含みます。

幼稚園3歳から高校3年生までの15年間、全て私立に通った場合の学習費総額は約1,770万円、公立に通った場合は約540万円必要だといわれています(※文部科学省「子どもの学習費調査」平成28年度より)。さらに大学へ進学となれば、私立大学は4年間で約424万円(※入学金は含まず)、公立大学では4年間で約216万円(※入学金は含まず)必要です(※文部科学省「学生納付金調査」平成28年度より)。当然教育費だけでなく、衣食住や医療費も必要です。子どもを育てるためは、まずはこういったお金が必要であることを理解しておかなければなりません。

出産のために必要なお金は、出産(入院)費用だけではありません。出産する際にはどうしても仕事を休む時間が必要ですが、福利厚生が整った勤務先であれば、産休育休などの制度を利用できる可能性があります。

しかし、非正規雇用や職場の制度が整っていない場合は、出産前後に数週間〜数ヶ月休職しても生活ができる十分な蓄えが必要です。

いまの日本では一度キャリアを中断した女性が、子どもを抱えて再び働くのはとても難しく、自分一人の収入で自立するためには、出産後も企業が雇用したいと思うようなスキルや資格が必要です。SMCになることを検討しているのであれば、妊娠前から資格取得やスキルアップをしておくことも必要です。

ちなみに低所得のひとり親世帯向けの社会保障制度として「児童扶養手当」があります。しかし、その多くがやむを得ずにひとり親となった世帯に支給されているもので、社会的合意もこのような状況になった世帯への支援として理解されています。この手当は婚姻によらないで生まれた児童のいる世帯も対象ではありますが、自立が前提となるSMCははじめからこのような支援を当てにするのではなく、また支援がなければ生活が成り立たないような状況にあるならば、SMCになることは考え直すことも必要だと思います。

■計画性

SMCはシングルで子どもを育てるわけですから、事前に将来をしっかりと計画することが必要となります。その時にまず重要なのは子どもと自分の将来を予測することです。もちろん全てが計画通りにはいきませんが、しっかりと計画を立てた上で起こる想定外のことと、無計画に進めた上で起こる想定外ではその後の対応に違いが出ます。

仕事と育児の両立は想像以上に大変です。理想と現実のギャップもあるでしょう。だからといって、出産してから「こんなはずじゃなかった」では取り返しがつきません。親としての責任と自覚を持って、子どもと自分が安定した生活をおくるためには、しっかりとした計画が必要です。

また、計画しておくべき重要なことのひとつとして、出産後に自分が働いている間は子どもを誰に預けるのか?ということも考えておく必要があります。昨今の厳しい保育園事情を考えると預け先を探すのも容易なことではありませんし、資格を持ったベビーシッターに依頼するには高額な費用が必要です。

出産してから慌てるのではなく、出産前から比較的保育園に入りやすい地域に引っ越すことや、ベビーシッターを手配しておくなど、準備をしておきましょう。

SMCの育児イメージ(未就学段階)

そして、子どもを一人で育てることにはリスクもあります。「もし自分が病気で働けなくなったら?」「もし勤務先が倒産したら?」「もし自分が死んでしまったら?」など、人生には様々なリスクが存在しています。

そこで、最悪の事態も想定して危機管理をしておく必要があります。ポイントは「いざというときに頼れる存在」を備えておくことと、金融商品としての「保険」です。よく、SMCは自分が自立さえしていれば実行できると思われがちですがそれは違います。

例えば、子どもが保育園や小学校に通うようになって、熱を出すたびに仕事を休むわけにはいきませんし、自分自身が体調の悪い時もあります。身近に頼れる親族がいれば心強いですが、そうでない場合は複数のいざという時の為の準備をしておくことが必要です。

そして保険については、学資保険(子ども保険)や終身保険が一般的ですが、学資保険の多くは、万が一親(契約者)が死亡した場合には、それ以降の保険料が免除になり、終身保険であれば死亡保険金が支払われます。

そのため、親に万が一のことがあった場合でも、子どもの教育費をある程度カバーすることができる点がメリットです。実際に私の知るSMCには、自分が死亡した時には、子どもが成人するまで毎月30万円支給される保険に入っている人や、自分でローンを組んで一戸建てを購入している人もいます。

最後に

よく聞かれる認知や養育費についてもお話ししておきます。一般的に認知や養育費は女性(母親)が男性(父親)に求めることのできる権利であると理解されていますがそれは違います。

実は認知や養育費は子どもの権利なのです。しかし、子ども自身が判断できる年齢に成長するまで待つことが難しいため、日本では母親が代わって判断するケースが一般的です。海外の精子バンクなどを利用する場合は別ですが、恋愛など直接的な人間関係で妊娠に至った場合は避けて通れない問題です。

SMCは婚姻関係を結んでいないので、相手が自分の戸籍に配偶者として記載されることはありませんが、認知をすることで子どもの父親として名前が記載されます。もしも認知をしなかった場合は法律上は赤の他人となり、血縁関係はあろうとも法的な義務や責任は生まれません。

一般的に認知は養育費や遺産相続など、子ども(母親)にとっての金銭的なメリットばかりが議論されがちですがデメリットもあります。それは認知をすることで法的にも親子関係が成立するために、将来父親の介護が必要になったり、経済的に困窮した場合は、子どもに対して扶養を求められることがあるからです。

そして、父親が負債を残して亡くなった場合は、一定期間に相続を放棄しなければ負債を相続することになり返済義務も生じます。他には、認知をして法的な父親となると、男性側にも親権を主張する権利が発生します。

そして、裁判となり、男性に十分な養育能力が認められれば、子どもの親権が父親に移る可能性もあり、そうならなかった場合でも定期的な面会を求められることもあります。認知にはメリットとデメリットがあることを理解した上で、妊娠前から相手の男性と話し合っておく必要があるでしょう。

このように誰もが簡単にSMCを選べるわけではなく、精神的な自立、経済的な自立、計画性など、SMCになるためには相当な力と計画が必要です。安易な気持ちでSMCになれば、子どもにとっても自分にとっても大変困難な人生になってしまいます。

SMCになることを考えている人は、まずは他者の支援をあてにするのではなく、本当に自分自身で子どもを育てる力や計画性があるのか、時間をかけてよく考えてみることが必要です。


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