インターンやアルバイトでNPOに関わりを持っていた学生が企業に就職するとある違和感を覚えるという。NPOのように社会性の高い理念を掲げる企業も増えてきたが、視点の違いから、入社後に居心地の悪さを感じてしまう。「NPOインターン」のあり方から若者に選ばれる企業を考える。(オルタナS編集長=池田 真隆)
■人間性無視の育成方針に3カ月で休職
都内の大学に通うAさんは就職活動で3社から内定を得た。その内の1社である経営コンサル会社で働くことを決め、今年4月に入社した。しかし、入社して3カ月後に休職を申し出た。
理由は、「自分の生き方、自分らしさを否定され続けたから」と話す。Aさんは大学3年から岩手県陸前高田市で活動するNPO法人SETで活動していた。祖父母の年齢に近い地域住民との触れ合いを通して、高齢者世代のエンパワメントに関心を持った。
経営コンサル会社に就職を決めた要因は、「あらゆる世代を活かす」という趣旨のビジョンと、若手でもチャレンジできる組織風土、そして、人だったという。ビジネスモデルや会社の方向性については、不満はなかった。が、直属の上長とのコミュニケーションが合わなかった。
NPO活動を通して多様な世代の地域住民と交流し、困りごとを解決してきた。そのときは「しっかり一人の人として向き合ってくれた。人としての成長を感じられた」。しかし、会社ではそうではなかったという。
もちろんAさんは、会社として存続していくためにノルマがあることは理解している。しかし、売り上げを伸ばすことだけを求められる育成方針に違和感を覚えたのだ。Aさんは近く退職を考えている。
■社会全体で育成を
SETでは、都内の大学生らを対象にした東北での宿泊研修を行っている。この研修からSETの学生メンバーになる人も少なくない。現在加盟している学生メンバーは110人に及ぶ。
同団体の代表理事の三井俊介さん(29)は、「企業と学生の間で価値観のミスマッチが起きているのではないか」と考察する。三井さんは、「NPOで活動するとビジョン先行型になりやすいが、企業ではビジョンよりもスキルを求められがち」と話す。
現在、ソーシャルグッドなビジョンを重視する企業と協力して、インターンシッププログラムを開発中だ。三井さんは、「価値観が多様化した社会では、1社・団体だけで人を育てることに限界がある。大きな目線で、人間力の成長につながるプログラムを社会全体で考えたい」と意気込む。
三井さんは2012年3月に法政大学を卒業後、単身で岩手県陸前高田市広田町へ移住し、活動を続けてきた。三井さんに続き、後輩たちが毎年、広田町へ移住している。実際昨年9月にも、東京で携帯電話の販売会社に務めていた野尻悠さんが移住した。新卒で入社して5カ月後のことだ。
野尻さんは広田町の古民家を改修して、カフェ「彩葉」をオープンさせた。資金はクラウドファンディングを利用し、121万8000円を集めた。野尻さんが会社を辞めたのはネガティブな理由からではなく、「広田の人に惹かれたから」とのこと。「畑仕事や漁業など見た目は地味でも、生きがいを持っている人と触れ合うことで、心からかっこいいと思えた」。
■「立ち止まる勇気持って」
三井さんは進路を選ぶアドバイスとしては、「迷ったら一度立ち止まってもいい」と断言する。日本の就職活動は、新卒一括採用が主流で、多くの大学生は4年生になると一斉に就職活動を始める。
だが、三井さんは、「ギャップイヤーで海外に行ったり、興味のあることを学んだりと、自分自身で豊かさを明確にするための期間を意図的に取った方がいい」と主張する。
「人生100年時代といわれている。1~2年程度、自己投資する期間が必要ではないか。立ち止まって考える勇気を持ってほしい」と力を込めた。