冬眠を迎える前のこの季節、クマたちは餌を探し求めるため、各地でクマ出没のニュースが相次ぎます。クマによる人身事故や農作物被害が報告される一方で、九州では野生のクマが絶滅、四国でもほぼ絶滅状態にあるという事実をご存知ですか?人とクマとの共存をはかり調査や啓発活動を行う団体に、日本に暮らす野生のクマの現状について、話を聞きました。(JAMMIN=山本 めぐみ)
クマ出没の理由の一つは冬眠前の餌探し
「日本クマネットワーク」(北海道)は、クマの調査・保護・管理に携わる研究者や一般市民で構成された市民団体です。副代表であり酪農学園大学(北海道江別市)教授の佐藤喜和(さとう・よしかず)さん(47)によると、人とクマとの軋轢を少しでも緩和できるよう、クマの普及啓発活動や、クマ分布の実態調査や農業被害・人身事故を減らすための調査、各地のクマ事情を交換し合うネットワークとしての活動を主に行っています。
クマ出没のニュースをよく目にしますが、この背景について聞いてみました。
「たとえば、本州のツキノワグマの場合は、冬場4~5ヶ月間冬眠する。その間、食べたり飲んだりすることはないため、冬眠に備えて、秋にたくさん餌を食べて十分な脂肪を蓄える必要がある。主にブナやミズナラ、コナラなどのどんぐりを食べるが、これには豊凶があり、凶作だった場合には餌を求めていつもより広い範囲を動き回り、時には人里に出てくることも」
「秋以外にも様々な理由で人里に出没する。初夏には独り立ちしたクマが親元を離れて新しく棲む場所を探す時に経験不足から人目につく場所に出てしまうこともある」
多い年では、年間4〜5千頭のクマが駆除される
人里へのクマの出没が、人との間に軋轢を生む原因だと佐藤さんは指摘します。
「この時に人と出くわしたり、農作物を食べてしまったり、人身事故に遭ったりといった人とのトラブルがニュースとなって出てくる。クマの人身事故は多い年には年間100件を超え、また多い年では1年間に4千頭を超えるクマが駆除される」
「森の中でクマが暮らしている分には問題ないが、十分な出没防止対策をしているにもかかわらず畑や民家に繰り返し出没してしまった際に、駆除という選択はやむをえない。調査・研究を通じ、また地域の人たちとの折り合いをつけながら、その地域に50年後も100年後もクマが暮らし続けられる環境を作っていくことが大切」
北海道や東北〜中部地方にかけて勢いを増すクマ
クマは、北海道から本州までの広い範囲に生息しています。「北海道や東北・中部地方ではほぼ飽和状態にあり、すべての森林にクマが住んでいるという状況」と佐藤さん。一方で、九州ではクマは絶滅、四国も絶滅寸前という状態にあるといいます。
「日本という国土は南北に長く、人間の自然利用の歴史が地域によって差があるので、日本のすべての地域で増加傾向にあるということではない。九州や四国、西日本の各地は、江戸時代よりもっと古くからエネルギー源として木炭や薪を得るために森の利用が多い地域だったため、森林は伐り尽くされていて、明治以前の時点でクマの数もかなり減っていた」
「一方で北日本は、禿山になるまで木が切り倒されるということは少なく、森林に人の介入が少なかったという背景がある。時代が変わりエネルギー源は石炭から石油へと移行し、山からエネルギーをとらない時代になった。また都市化が進み中山間地域で人口減少や高齢化が顕著になり、狩猟者が減少したり、里山利用が減少したりしていった。これにより、他の野生動物と同様にクマの数が増え、勢いを増している地域が増えてきた」
九州のクマは絶滅、四国は絶滅寸前
絶滅、あるいは絶滅寸前という九州・四国のクマの現状について聞いてみました。
「九州地方に関しては、残念ながらクマは絶滅したと言われている。本当に絶滅してしまったのかを我々でも調査したが、結局クマを見つけることはできなかった。四国に関しては現在も調査を続けているが、十数頭ほどしか確認されていない」
「四国では広い範囲で天然林を伐採し針葉樹を植林しているため、そもそもクマの住める森が狭まっていた。さらに植林している木の皮をクマが剥いでしまうため、害獣として駆除されてきた歴史がある。植林という人間活動が生息域を狭め、その結果生まれた軋轢を埋めようとクマを駆除するという方向に舵を切った結果、個体数が減ってしまった」
「四国のクマは、このまま放っておくと絶滅する。研究者集団として、クマが増えない原因を明らかにしながら、彼らを保全するためにより積極的な方法、たとえばクマが住める森林を増やしたりつなげたりする、餌が足りないのなら餌を与える、繁殖がうまくいかないのなら他の地域からクマを入れるなど、今のうちに考えられる具体的な方法と、それを実現するための課題を整理し、国に提案するための策を練っている状況」
クマの実態を調査すると同時に、一方でその地域で暮らす人たちにとってのクマの存在を調査することも大切だと佐藤さんは話します。
「地域に暮らす人たちにとって、すでにクマは疎遠な存在となっている。そのような中でクマの保全活動が行われてクマが増えれば、地域の人たちにとっては今までなかったクマの出没や被害など新しい不安要素が増える。つまりデメリットだけでメリットのないものになってしまう。クマの保全活動がそのようなデメリットだけの押しつけにならないようにしていくために、こういった調査も必要」
山間の村の過疎・高齢化も、軋轢を生む一つの原因
九州・四国の現実は別として、「自然破壊によりクマが減っている」という認識はひと昔前の話だと佐藤さんは訴えます。
「確かに過度な自然利用によってクマの数は減少した。しかし『自然破壊によって姿を消したクマを保護する』という時代から30〜40年が経過して、自然は少しずつ回復してきている」
「北日本では、クマの数は飽和状態にある。クマがどんどん勢いを増していく一方で、それとは対照的にクマが暮らす山間部の生活は過疎化や高齢化が進み、どんどん勢いを失っている。山間の村で人が住まない場所が増え、山に入る人が減ったことで、クマと人との生活範囲の垣根が曖昧になり、人里にクマが出没しやすくなり、様々な軋轢が生まれている」
「多くの地域でクマが増えていることは紛れもない事実。そしてそのクマたちが今後、人里に出没するであろうことも予測できる事実。ならば、出てくるクマをどうやって地域に入れないようにしていくか、軋轢を生まないよう生活範囲をどう線引きし、それぞれの生活を守っていくかを現実的に考えていく必要がある」と佐藤さん。
「電気柵を張ってクマの侵入を防ぐ、見通しの悪い場所は草刈りをして見通しを良くする、集落の中にある柿や栗の木を、猿やクマが来る前に切っておく…。そういった地域づくりをしながら『回復して勢いをつけてきたクマとどう付き合っていくか』という意識で、共存を図っていく必要がある」
50年後も100年後も、互いに存在していくために
大学で初めて野生のクマを目の当たりにし、その魅力に引き込まれたという佐藤さん。「動物園のクマやシンボルとしてのイラストやぬいぐるみのクマとはまた印象が異なって、しなやかで力強いけれどふさふさの毛並みや、風が吹くと毛が揺れて、金色の毛が光る姿に惹かれた」と当時を振り返ります。
「まずは、クマのことを正しく知ってもらいたい。クマが今どういう状況に置かれていて、どうして人との間に軋轢が生まれてしまうのか。それを知った上で、互いに50年後も100年後もその場所に存在していくために、事前に備えることが必要になる。現在、日本には約1.5~2万頭のツキノワグマと約1万頭のヒグマがいる。先進国の中で、豊かな自然があり、これだけ大きいクマのような動物がこれだけの数存在する国はない。この状況を、うまく守っていきたい」
人とクマとの共存を目指し、クマの啓発・調査を応援できるチャリティーキャンペーン
チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「日本クマネットワーク」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。
「JAMMIN×日本クマネットワーク」コラボアイテムを1アイテム買うごとに700円がチャリティーされ、日本クマネットワークが人とクマとの共存に向けて実施している啓発活動や調査のための資金になります。
「具体的には、クマの生態を知ってもうらための「トランクキット」製作のため、またクマの生態把握に必要な自動撮影カメラ購入のための資金を集めることができれば」(佐藤さん)
JAMMINがデザインしたコラボアイテムに描かれているのは森と都会の街並みをバックに、肩を並べるクマの親子の姿。人とクマとか、互いを尊重しながら幸せ生きる世界を表現しました。
チャリティーアイテムの販売期間は、10月22日~10月28日までの1週間。チャリティーアイテムは、JAMMINホームページから購入できます。
JAMMINの特集ページでは、日本のクマの現状について、佐藤さんへのより詳しいインタビューを掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。
山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしています。2018年9月で、チャリティー累計額が2,500万円を突破しました!
【JAMMIN】
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