宮城県石巻市で、農業を通した若者の就労支援が活発化している。人付き合いが苦手な若者でも、農作業に取り組むことで会話が生まれるという。この取り組みを主催するイシノマキ・ファーム代表理事の高橋由佳さんに話を聞いた。(オルタナ総研コンサルタント=室井 孝之)
仙台市出身の高橋さんは、東日本大震災直後の2011年3月にこころに病のある人への就労・就学支援を行う認定NPO法人Swichを立ち上げた。同団体による就労支援の施策の一つに農業があった。
普段はコミュニケーションが苦手の若者でも、農作業になると人と話すようになり、かつ、毎朝休まずに一生懸命働く姿に、「農業には彼らをリカバリーする力がある」と確信する。2016年8月にソーシャル・ファームの理念のもと、一般社団法人イシノマキ・ファームを設立した。
ソーシャル・ファームとは1970年代にイタリアで誕生したと言われている概念。就労困難者の雇用を創出するもので、導入が広がるヨーロッパでは、就労困難者の就労先として確立させる法整備が進んでいる。
イシノマキ・ファームでは、クラフトビール作りに使用するホップを育てる農業体験を行い、宿泊希望者には古民家「AOYA」も提供している。コミュニケーションが苦手な若者、就農希望者、ボランティア200人が利用している。
農家の高齢化による後継者不足や耕作放棄地の増加は、イシノマキ・ファームのある石巻市北上町も同じだ。一方で、自分らしい職業選択として、地方での農業に関心を持つ若者も増えているという。
イシノマキ・ファームが石巻市から運営を受託している「石巻市農業担い手センター」では、農業を目指す移住者の受け入れを行う。提携農家での研修、高齢農家の継承マッチング、居住ハウスの提供を行っている。
高橋さんは、「これからの時代をどう生きるかを考えるとき、一次産業でもある農業は、私たちの暮らしにもっと身近なものとなっていくのではないだろうか」と話す。