「アップサイクル」という言葉をご存じだろうか?「デザインなどの力で付加価値を高めて再利用する」というリサイクルの一歩先をいく概念だ。愛知県に拠点を置くMODECO(モデコ)はインテリアや自動車関連の各メーカーから提供された産業廃棄物をバッグに「アップサイクル」して販売するエコブランド。名称はMODE(モード)とECO(エコ)を掛け合わせて付けられた。(水野 恵美子)*名古屋発、新世代のエコブランド(後編)はこちら

使用済みの消防服から作られた人気の「Fireman」

注目すべきは使用済みの廃材だけでなく、一度も使用されずに廃棄されてきた未使用の廃材も積極的に活用しているところだ。

現在は4つの廃材を使ったファッションバッグを作っている。

■BLACK LEAGUE
自動車工場で品質基準を満たさなかった未使用のシートベルトと、使用済みタイヤのインナーチューブを利用したビジネススタイルのバッグ。

未使用シートベルトから作られた「BLACK LEAGUE」

シートベルトのバッグ 制作時の苦労を全く感じさせない美しい仕上がり

■flooring bag
高級ホテルなどの建物の床に使われるフローリングの端材を利用した木目が特徴のレディーススタイルのバッグ。塩化ビニル製なので丈夫で撥水性に優れ、手入れがしやすい。

フローリングの端材から作られた「flooring bag」のポーチ

■Fireman
実際に消防士が着用していた消防服を各地の消防署から買い取り、カジュアルなバッグに作り替えたもの。消防服の色が地域によって違うので様々なデザインが楽しめる。

素材となる使用済みの消防服 地域によって色が異なる

「Fireman」煤や傷、現役当時の消防服の名残りが残っている

■With Spira
スウェーデンのテキスタイルブランドSpira(スピラ)社から提供された余剰在庫(売れ残り)の布地を利用したデイパックなどのバッグ。

北欧のデザインが魅力の「With Spira」(写真提供 MODECO)

【特殊な作業工程】
どの素材も元々縫製向きに作られていないので完成までには長い時間がかかる。回収から始まり洗浄、消防服の場合は解体を経て、縫製に入る。

シートベルトは見た目が同じでも、膨大な種類の化学繊維の糸を使って色んな織り方で丈夫になるよう作られているので1本1本仕分けてから改めて複雑な縫製工程に入る。

最も扱いづらいのはフローリング。2D(平面)の使用を前提に製造されるので、バッグのような3D(立体)にするには強度など自分たちが手探りで試さなければならない。硬い塩化ビニル製なのでミシンで縫うための工夫も考える。現在の形になるまでに6年を費やした。

フローリングの端材が職人の手によって丁寧に仕上げられていく(写真提供 MODECO)

デザインはMODECO代表の水野浩行さん(34)が手がけ、熟練した職人たちと相談しながら素材の特性を見極めてハンドメイドで仕上げていく。

「デザインの部分では『こういうものを描きたい』とかじゃないんです。この廃材にとって一番活きる形“素材の声”を聞いてあげるような感覚なんですね。ずーっと見つめて『こいつはこの素材と合うよな』とか最適解を見つけることがすごく重要なんです」(水野さん)

【アップサイクルの利点】
人気商品の「Fireman」は素材の消防服に余計な手を加えない。火災現場を生き抜いた消防士の「ストーリー」を大事にしたいとポケットや煤(すす)の汚れ、傷もそのまま残す。消防士本人からの注文を受けることもあり、退官を機に自身の消防服を(消防局の許可を得て)MODECOでポーチにリメイクしてもらい、部下に配って喜ばれたこともあるそうだ。

また消防服は燃えにくく作られているため、使用済みのものは焼却できず費用をかけて埋め立て処分をしてきた。しかしMODECOが買い取りアップサイクルすることで処分の量は減り、消防局の経費削減につながっただけでなく埋め立てによる環境汚染を最小限に抑えることもできた。

【地元・愛知のネットワーク】
2010年にMODECOの活動をスタートさせて最初に廃材を提供してくれたのは大手インテリア会社のサンゲツ。その後MODECOの取り組みを聞きつけて、シートベルトを生産する東海理化や、名古屋市や豊田市の消防局など素材提供に協力する愛知県内の企業や団体が増えていった。

「幸い愛知はこういうデザインをやっていく上で相性のいい場所のような気がします。隣の隣の人に聞くとすぐキャッチアップできちゃうみたいな(笑)。東京だとやろうと思っても北関東の方に行かなきゃいけないとかノイズが多いかもしれません」(水野さん)

【エコ文化は海を越えて】
商品の一つ『With Spira』は海外のテキスタイルブランドSpira社とのコラボによるもの。先方が「自社の廃材も使ってもらいたい」とMODECOの活動に共感を示したことで実現した。同じマインドを持つ人たちが集まり「エコロジー」という言葉が国境を越えられることをMODECOは作品を通して伝えようとしている。
(後編に続く)

MODECO公式サイト 

六本木ヒルズ・森美術館で開催中の「カタストロフと美術のちから展」のショップコーナーでは消防服を素材にしたバッグ「Fireman」を販売中(今月20日まで)


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