*この記事は、「パラレルキャリア支援サイト もんじゅ」からの転載です。


角間惇一郎さん




「夜の世界で働く女性達」の就職・起業支援、住宅支援等を行い、女性の自立支援と課題の顕在化を目指して活動する角間惇一郎さん(Grow as people代表理事)に話を聞いた。


角間惇一郎
1983年新潟県生まれ。大学中退後、昼間デザイン事務所で働きながら、建築専門学校に通う。専門学校卒業後、ゼネコン、設計事務所等での勤務を経験。働きながら埼玉県越谷市を拠点としたまちづくりNPOまちたみ設立・運営し、地域のコミュニティを活性化するイベントや大学生のきっかけ支援を行う。10年まちたみの活動を通じ、「立場を知られる事を恐れ、相談や支援を受けられない女性達」の存在を知り、仕事を辞め、対象者へのインタビュー活動を開始。12年(社)GrowAsPeople設立。現在は「夜の世界で働く女性達」の就職・起業支援、住宅支援等を行い、女性の自立支援と課題の顕在化を目指して活動中。


■プロローグ

煌めく夜の街に連なる風俗店。 何気なくビルを見過ごして生きている私達は、「夜の世界」という言葉にどのようなイメージをもっているだろうか。

「何か、やばそう」「お金欲しい人が働いているんでしょ」「怪しいから、近づきたくない」

私達がなんとなく接触をさけ、気づかないふりをしているこの世界。 そんな、夜の世界で働く女性達の話を直接じっくり聞き、サポートするべく動き出した1人の男性がいる。 自分の学生時代の混沌とした想いから、今の課題に出会うまで、創り出してきた道を辿った。

■蛇口の水を出しっぱなしにするような学生時代

「あの頃は、自分が何がやりたいのかも分からず、将来に対して何のビジョンも全く持てなかった。その上自分がどんな人間なのかも正直、よく分からず生きていたように思う」 角間は自分の高校時代を、こう振り返る。中学時代には上位だった成績も下位に転げ落ち、今のようにネットで情報を集めることも、盛んではなかった時代。未来の自分のイメージを見いだすことが出来ず、どんどん自信喪失して日々を過ごしていたと言う。

大学も、自分にとっては「何となく行かなきゃ行けないらしい」位の場所。 自分の実力で入れる大学に何となく入り、「あぁ、このまま将来は公務員にでもなるのかなぁ…」と毎日、栃木の実家から都内の大学へ電車に揺られた。

■誰かの役にたちたい

そんなある日、いつもの電車に貼られていた1枚の広告が、角間の目に留まった。タイトルは「青年海外協力隊募集」
「特に国際協力に関心があった、ということではありません。ただ、『青年が海外で協力する』というその文字を見て、自分も途上国に行ったら、誰かの役に立てるのかもしれない、とふと思ったんです」

帰宅後、じっくりと募集要項を確認してみることにした。 求められている人物は、医療従事者、看護婦、歯科衛生士、農業従事者、スポーツの指導者など、どれも「専門知識」を求める要項ばかり。
「困っている人がいるフィールドがあって、役に立てる人を求めているという現実がある。でも、自分はそんな人たちへ『どうやって』役立ったら良いのか分からない。今の自分が、具体的に出来ることなど、何もないんだ」

そのまま、最後の募集要項に目を通す。

土木・建築技術者。
「これなら、今から勉強すれば、身につけられるのかもしれない。人に役立てる、自分のコアな分野として、建築を選び、いつか途上国へ行こう」 漠然と、そんな想いが湧き上がって来た。通っていた大学では建築系の分野を学べる学部はなかったため、角間は通っていた大学をわずか半年で、すっぱり辞めた。

■未来に進むための経験

大学を辞めた角間は、昼間は建築事務所に勤務し、夜は建築の専門学校に通う、そんな生活を2年程続けた。 夜間の専門学校には、ゼネコン勤務の人など社会人が多い。 本来なら角間は、大学に通っている年齢であったが、昼夜とも社会人が周りにいる環境に身を置き、「役立てる自分になって途上国へ行く」という目標へ突き進んでいった。

「2年後、建築士の資格も取得出来、ゼネコンに入社出来ることになりました。『やったぞ』と思いましたね。『自分が目指している像に近づくことが出来ている、このまま経験を積んで行くぞ』と思っていました」

自信をつけた角間は、この時期にパートナーと結婚。JICAの青年海外協力隊にはまだ、応募せずにいた。

■明日、きっと本気になる

そんなある日、Twitterを通じて見つけたある勉強会に参加した。内容は、海外で事業を興している何名かの活動をプレゼン形式で紹介しあい、その後交流会をするというもの。

当時、順風満帆にゼネコン勤務をしていた角間だったが、プレゼンターの人たちの話を聞いて、激震が走ったという。

「その場にいたのは、どんなに小さい活動であっても、自分が出来ることで、社会へアクションをおこしている人たちばかり。自分にはそんな人たちがとても眩しく、世界が違う人に見えた。交流会ではまるで、『共通の言語が見つからない』という感じ。話しかけられても、何と言葉を返したら良いのか分かりませんでした」 。

1人で帰り道、悔しさをにじませながら歩く。 今まで、「勉強している」ということを言い訳に、「今の自分が出来ること」を探すことからは目をそらしていたのだ。 途上国も自分で直接、行ってみたこともなければ、他の人から情報を集めようと努力した訳でもない。

「きっと行くから。きっと明日は本気になるから」
そう自分に言い聞かせて。

■今、自分に出来ること

その後もいくつか、コミュニティビジネスや、社会起業のイベント、勉強会に出席した。更に刺激を受けた角間は、「今、自分に出来ること」をとにかく実行しよう、と躍起になる。

「当時は結婚をして、越谷に住み始めていました。試しに地元のNPOへヒアリングを行ったところ、『若者はどんどん都会へ行ってしまい、そこでインターンや、NPOの活動に従事したりする。地元に目を向けてくれる若者は少ない』という話をよく聞きました。そこで、自分は今、住んでいる場所をもっとよくするために、何か出来ないかなと考えたのです」

こうして、現在のGrow as peopleの前身団体NPOまちたみを設立し、サラリーマンを続けながら地域活性化のための活動を展開していった。

「特定の分野の課題に対してアクションを興す、という視点ではなく、とにかく今、少しでも必要だと思ったことで、今の自分に出来ることをやる。というスタンス活動をしていました」

地元の大学生に対して、将来を考えるきっかけづくりとして、都内で知り合った起業家の方を呼び、勉強会を開く。成長が早い子どもの服を、捨てずに地域で循環させるためのスペースを地元のショッピングモールの一角に作る。

どんなに小さくても、1歩ずつ着実に。 ある日、角間は、活動の一環で、社会起業と呼ばれる分野で活動している人を呼び、地元のライブハウスで活動のプレゼンテーションをしてもらう、というイベントを開催した。 イベントは盛況のうちに終わり、人が帰りだした頃、一人の青年から、突然声をかけられる。

「今日は、どうもありがとうございました。僕は、越谷で風俗店を経営している者です。この後、少しお話できる時間はありますか」

■「夜の世界」へのいざない

数十分後、角間は地元のマクドナルドでその男性と話をしていた。

「正直に言って、その時は身構えたし、『何で風俗店を経営している人が、自分のイベントに来たんだ?』と疑問符が頭を渦巻いていました」

その男性は、自分のお店に勤務している女性が、誰の子か分からない子を産んだり、子どもを施設に預けたままにして勤務を続けているということ。勤務している女性がお店をずっと、卒業することが出来ないでいるということ。そして、勤務している女性は素性を知られたくないため、誰にも相談せずに生きているということ。 そんな、自分の店で起こっている現実を話してくれたという。

「風俗嬢が子どもをアパートに置き去りにして餓死をさせてしまった、というニュースを見たこともあって、今日何となくこのイベントに来てみたんです」

男性は、角間にそう伝え、その日は別れた。

その後3ヶ月の間、角間はぐるぐると考え続けた。

「何となく、自分は今まで途上国に行けば、困っている人たちが居るのだろうと思っていた。けれども、今、ここで、まさに自分の地元で、人知れず困っている人たちが居るんだ。そして、そのことを今まで、自分は知らずに生きてきたのだ」

あの世界が気になる。けれども、少し怖いなぁ。でも、気になる。
別のタイミングも重なり、その時会社を辞めることになった角間は、 まさに会社を辞めたその日、本屋の駐車場で彼に電話をした。

「何か、自分に出来ることはありませんか」

こうして、角間は、越谷の風俗店に出入りすることになった。

■安心して相談できる場所を

「最初は何をする訳でもありません。ただ、お店に『居た』それだけです。店を移転する際の内装を、仕事として手がけていたので、店でただ図面を書いている、とか。そうして、勤務していた女性と、対「人」として話をする内に、徐々に、実情が見えてくるようになったのです」

延べ600名程の女性と話をしてみて、まず、判明したのは、「この世界でないとやっていけない」という人が多いという事実。 業界にはどうしても、「お金が欲しい人が働いているんでしょ」というマイナスイメージが付きまとう。

中卒、施設育ち、シングルマザー、など事情があって、ここでなければ働くことが出来ない。または仕事があったとしても生活出来るだけの収入が得られず、やはりここで働くしかない。そういった女性も多数いるにも関わらず、世間のイメージはその事実に蓋をし、見ないように、気づかないようにしてしまう。

さらに角間は、こう続けた。
「最も多かった声は『安心して相談出来る場所がない』ということ。この世界の女性は、40歳前後になると仕事を続けていくことが、非常に難しくなります。40歳はまだ、人生の半分じゃないですか。次の道を探したい、とその時に考えたとしても、 『自分の立場を明かせない、知られたくない』という女性が次を探すことは、並大抵のことではありません」

実際に女性は、誰かに相談をしようとしても、「風俗で働くことを辞めろ」と言われるばかり。
そんな聞き飽きた台詞には、うんざりだと女性達は、誰にも相談しないのだという。

辞めたくても、辞めることが出来ない事情があることに、世間の目はまだ、向いていない。

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