福岡県北九州市に、食料支援を通じて子どもの養育環境を改善する活動を行うNPOがあります。「子どもたちに愛情を注ぎ、彼らが大人になった時に胸を張って生きられる社会をつくりたい」と話すのは、そのNPOの代表を務める原田昌樹さん。彼自身も、幼い頃愛情に飢え、劣等感に悩んだ時期がありました。彼が目指す社会とは。(JAMMIN=山本 めぐみ)

食料支援通じ、生活困窮世帯とつながる

フードバンク事業の様子。事務所にて子育て世帯へ食料個配の準備を行う

福岡県北九州市を拠点に活動するNPO法人「フードバンク北九州 ライフアゲイン」。品質や安全性には問題がないのに、印字ミスや箱が壊れたといった理由で廃棄されてしまう食品や余ってしまった食品など、いわゆる「食品ロス」を引き取り、生活困窮世帯へ無償で届ける活動をしています。現在は121の企業から寄贈される食料を、85の生活困窮世帯と87の福祉施設、さらには行政の生活困窮者支援の窓口を通じて必要な家庭に届けています。

「食料支援はきっかけの一つ」と話すのは、代表の原田昌樹(はらだ・まさき)さん(53)。

お話をお伺いした原田昌樹さん

「食料支援で日々の生活を支えながら、家庭と密につながることで、それぞれの家庭が必要としているその他の支援へとつなげていくこと、そのための新しい社会システムの構築が大きな目的」と活動のビジョンを語ります。

「食料を届けながら、ボランティアの寄り添いチームが常にご家庭と連絡をとったり定期面談したりしながら信頼関係を築き、悩みを聞いて、その都度必要なサポートを届けられるよう日々努力しています。3年間このかたちで事業をしてきましたが、どうしても表には出づらい家庭の課題を可視化して、そして適切な支援につないでいくためのネットワークや仕組みづくりに力を入れていきたいと思っています」

表には出づらい家庭の問題、大切なのは、つながり続けること

事務所の前にある空き店舗を利用して週に3回運営している子ども食堂「もがるかホーム」にて、ある日のメニュー

「何か困ったことがあった時に『助けて』と言える先があることが大切」と語る原田さん。

「たとえば食料支援していた家庭に経済的にゆとりができて支援をやめたとして、じゃあその家庭がもう問題が何もなくて支援の必要がなくなるかというと、そうではありません。食料支援を受ける必要はなくなったとしても、そこからまた様々な課題が家庭に訪れることがある。大切なのは、本当に困ったときに『助けて』といえる先があること。だから、私たちはとにかく『つながり続けること』を大切にしています」

必要に応じて、様々な支援を行う。「もがるかホーム」で開催している無料学習支援の様子

「家庭の問題は非常にセンシティブで、表に出ないこともたくさんあります。つながらないと、ご家庭の本音はなかなか出てこない。知らない人には打ち明けられないような繊細な問題も、つながりや信頼があれば『相談してみよう』と思ってもらえるきっかけにもなります。定期的に励ましの手紙を送ったりしながら、小さくてもつながりを持っておくことで、5年後でも10年後でも、何かあった際に『相談しよう』と思ってくれたら」

持続可能な支援の仕組みをつくる

北九州市のモデル事業としてスタートし、毎月第2・第4水曜日にオープンしている子ども食堂「尾倉っ子ホーム」にて。子どもたちもボランティアの調理スタッフの皆さんも、みんなで「いただきます!」

「地域にある他の団体や企業、自治体とつながり、さらにそのネットワークを可視化していくことで、困っている方たちに行き届いた支援を提供していきたい」と原田さん。現在は、地域全体で生活困窮世帯をサポートできるネットワークづくりを進めています。

「包括的な支援と見守りは必須ですが、自分たちだけで1から100まですべてを支援するには限界があります。生活困窮世帯への聞き込みやフォローアップ、地域のネットワークづくりも1〜2年で構築できるものではなく、10〜20年後を見据えての活動ですが、ここでしっかりとした関係さえ築くことができれば、たとえば今食料支援しているご家庭のお子さんが20歳、30歳になって何か困ったことがあった時にもサポートができる。将来にわたり支援できる、持続可能な仕組みができると考えています」

「問題の根っこは同じ」、夜回りや里親の経験を通じて感じたこと

笑顔でご飯をおかわりする子ども

これまでに里親として8人の子どもを育てきた原田さん。また、この活動を始める前は、牧師として個人的に夜回りや子ども支援、親への相談支援を行っていたといいます。

「それぞれ別の活動でしたが、活動しながら気がついたことがありました。『みんないろんな問題を抱えているけれど、根っこは同じ』ということです。夜回りで知り合った刑務所を出たばかりの70過ぎのおじいちゃん、愛情を与えられないお母さん、自傷行為など問題行動を起こす子ども…。皆、幼い頃に家庭が壊れてしまっていたんですね」

夜回り活動をしていた頃の原田さん。「マイクで5分語り、そのあとで声かけをしていました」(原田さん)

「十分な愛情を受けられず、それによって空いてしまった心の穴を埋めようとずっともがき苦しんでいる。『ここにメスを入れないと、根本的な解決にはつながらない』と感じました」

「子どもにとって、本能で『私は大切にされている』と感じられる環境が必要。そんな環境に早ければ早いだけ出会えることで、後々の影響も最小限にすることができるのです」

「私自身、本当はずっと寂しかった」、薬物依存症を乗り越えて

「生きる力を育てたい」と、「尾倉っ子ホーム」では子どもたちと料理も行う。「お味噌汁づくりでの1枚です。一緒に調理しながら、食のありがたみを感じてもらえたらと思っています」(原田さん)

一人でも多くの子どもに愛情を届けたいと精力的に活動する原田さん。活動の原動力について尋ねてみると、幼少期の体験を語ってくれました。

「私自身、ずっと劣等感のかたまりでした。自分が何をしたらいいのか、夢も自信もなかった。両親はいましたが、自営業で二人とも一生懸命働いており、いつも一人でご飯を食べていました。気持ちが歪み、大学生の時に薬物依存症になって苦しみました」

「薬物依存症からの回復を目指す中で『なぜこうなってしまったのか』と自分と向き合った時に、本当はずっと寂しかったんだと気がつきました。幼い頃を遡ってみたら、本当はお母さんの膝にのりたかったとか、一緒にしゃべりながらご飯を食べたかったとか、愛情に飢えていたことに気づいたんです。いつも100点以外のテストは、家に持って帰る前に溝に捨てていました。母の喜ぶ顔が見たかったから。でも本当は、ありのままの自分を愛してほしかった。本当の思いを隠してきた結果、もがき苦しんでいたんです」

フードバンク北九州ライフアゲインが運営する、子どもの自己肯定感を育む子ども会「もがるかキッズクラブ」にて稲刈り体験。「お米が八十八の手間をかけて育つことを学びました」(原田さん)

「薬物依存症から回復して、ある時、ある方が『原田くんは、価値がある』と言ってくれた。その一言が、とてもうれしかったんです。それが原動力ですね。人には、必ず生まれてきた意味や価値があります。うなだれている人、死にたいと思っている人、行き場を失った人…。そんな人たちに『あなたは生きているだけで価値がある』と言いたくてたまらないんです。非行に走ろうが何をしようが『あなたは傑作品なんだ』ということを、まずはその子の親が、もし親が出来なければ周りの大人達が伝えていく必要があるし、そんな社会をつくっていきたいと思っています」

生活困窮世帯への持続可能な支援を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「フードバンク北九州 ライフアゲイン」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。「JAMMIN×フードバンク北九州 ライフアゲイン」コラボアイテムを1アイテム買うごとに700円がチャリティーされ、フードバンク活動を続けながら、すべての子どもたちが愛情を受けながら健やかに育つ地域の仕組みづくりのための資金になります。

「JAMMIN×フードバンク北九州 ライフアゲイン」1週間限定のチャリティーアイテム。写真はベーシックTシャツ(全11色、チャリティー・税込3,400円)。他にもボーダーTシャツやキッズTシャツ、トートバッグなどを販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインに描かれているのは、生まれたばかりの小さな芽を守るように、その周囲をあたたかく囲む動物や植物たちの姿。子どもが健やかに大きく成長できるように、大人たちが手を取り合いながら見守る社会をつくっていこうというメッセージを表現しました。

チャリティーアイテムの販売期間は、3月11日〜3月17日の1週間。チャリティーアイテムは、JAMMINホームページから購入できます。

JAMMINの特集ページでは、原田さんへのインタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

「食べ物の命は、人の命につながっている」。食料支援を通じ、子どもの健やかな未来をつなぐ。元薬物依存症・ある牧師の挑戦〜NPO法人フードバンク北九州ライフアゲイン
 

山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。創業6年目を迎え、チャリティー総額は3,000万円を突破しました。

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