「18トリソミー」という病気をご存知ですか。人にある23の染色体のうち、18番目が3本あることで様々な合併症状を併発させる障害です。胎児の段階で流産や死産になることが多いとされており、生まれた後、数年前までは出生児の1年生存率は10%程度といわれていました。そんな中、「ポジティブなメッセージを伝えたい」と各地で18トリソミーの子どもたちとその家族の写真展を開催する団体があります。(JAMMIN=山本 めぐみ)
30カ所以上で写真展
18トリソミー児を持つ親やその家族を支援する任意団体「Team(チーム)18」。全国各地で18トリソミーの子どもたちの写真展を開催しています。
「展示を希望する家族から写真を募り、各開催地在住の家族が中心となって運営しています。2008年10月に初開催し、これまで30カ所以上で開催してきました」と話すのは、団体の代表を務める岸本太一(きしもと・たいち)さん(34)。
長女の心咲(みさき)ちゃん(7)は、18トリソミーで生まれてきました。生まれる前から、お医者さんに「長く生きられない」と告げられたといいます。
18トリソミーは生きることが難しい病気。活動を始めた当初は「これだけ頑張って生きている子がいるということを知ってほしい」という思いや「たとえ短い命でも家族との幸せな時間があるんだということを当事者の家族同士共有したい」という思いが根底にあった、と原点を振り返ります。
染色体異常により、様々な合併症を持って生まれる
18トリソミーとはどのような病気なのでしょうか。岸本さんに聞いてみました。
「18番染色体の異常により様々な合併症を併発させる重い障がいです。ダウン症は、23ある染色体のうち21番目の染色体が通常の2本より1本多い3本あるということがよく知られていますが、18トリソミーも同じように、18番目の染色体が通常より1本多い3本あることでその名前がついており『エドワーズ症候群』ともいわれています」
「多くの子に合併症があり、呼吸器系の障がいや口唇口蓋裂、手や足の奇形、内臓のヘルニアなど、重い合併症を持って生まれてくることがほとんどです。特に多いのは心臓の合併症で、それが原因で生後予後も悪くなり、1歳になることができるのは10〜30%といわれています」
「18トリソミーは体の発達だけでなく、知能にも遅れをもたらします。中には知能的に遅れがない人もいますが、9割以上の子どもが、自分で立ったりしゃべったりすることが難しく、酸素や人工呼吸器を必要とする子がほとんど。視覚や聴覚に障がいを持っている子も少なくありません」
出生前検査の広まりを受けて、「生きるヒント」届けたい
最近になって、「社会一般にこの病気のことを知ってもらいたいという思いがより強くなった」と話す岸本さん。背景には近年、出産前に胎児の異常を調べる「出生前検査」が広く知られるようになったという事実があるといいます。
「出生前検査を受けた人が子どもに障がいがあると診断を受けた後の選択として、例えば私たちが『こんな家族もあるよ』『自分たちはこんな家族だよ』ということを発信することができれば、迷っていたり困っていたりする人に何かポジティブなメッセージを届けられるのではないかと」
「Team18にもよく妊婦さんから相談がありますが、傾向としては『相談する=産みたい』と思っている人たちがほとんど。もう心の中では方向性が決まっているけれど、その一歩を踏み出す勇気が持てない部分もあるのではないかと感じるので、その気持ちを察し、診断を受けた人がどんな選択するのか、そしてその後の心構えや準備を進めるときに、何らかのヒントを届けることができたら」
「出生前検査を受けた後の指導や助言は、医療関係者にとっても容易なことではありません。最終的には自分たちの意志で未来を決めることになりますが、いざ陽性という結果を受けた時、一体誰に頼るのか。Team18はその頼る先として、寄り添っていける団体でありたい」
「こんな家族もあってもいいんだ」:ポジティブなメッセージを感じてほしい
活動の輪が徐々に広がり、最近では「お腹の中にいる我が子が18トリソミーと診断された」と写真展を訪れる人や、団体へ直接相談を持ちかける人もいるといいます。
「新しい命が誕生しようとしているわけなので、まずなによりも『おめでとうございます』という気持ちを伝えて、状況を聞きながら同じ地域に暮らす家族とつないだり出産後の事例を紹介したりと、自分にできる範囲での支援をしながら『一人じゃないよ、私たちがいますよ』というメッセージを送っています」
「私たち患者家族の中には、障がいのある子どもの出産を前向きに迎えた家族もいればそうではない家族もいるし、生まれてから障がいが分かった家族もいる。みんなが同じ気持ちで出産を迎えたわけではないんですね。だからこそ『こんな家族があっていいんだ』『こうやって変化することもあるんだ』ということを感じてもらえたらと思っています」
「心咲は、僕の人生のすべて」
岸本さんの長女の心咲ちゃんは、妊娠36週目、生まれるまであと1カ月という時に18トリソミーと診断されました。
「胎児が小さいという理由から詳しい検査をして発覚しました。『生まれてきても、生きることが難しい。お腹の中で亡くなるのを待ちましょう』とお医者さんから告げられた時は、絶句して言葉が出ませんでした」
「お腹の中にいる胎児が動く音を聞いたりもしていたし、私たち夫婦は授かった命に対して、短命だからとか、障がいがあるからとか、そういう理由で命の見方を変える判断はどうしてもできなかった。奥さんとも話し合い、どんなことがあっても我が子と一緒に歩みたいという気持ちは変わりませんでした」
診断を受けてから他の病院を紹介してもらい、出産。「生まれる前にわかった分、担当の先生が生まれてからの道筋を立ててくれて、その指標に沿って歩んでくることができた」と岸本さん。退院した心咲ちゃんは2歳を前に心臓手術を受け、今年で8歳になります。
「心咲の病気を公表するまでは、公表した後で友人との関係は大丈夫だろうかとか、『かわいそう』『大変なんや』というイメージを与えてしまうのではないかとか、周囲の目を気にして自分の心配ばかりしていたんです。『でもそれは違うんじゃないか』とも感じていました。僕自身、心咲と一緒に過ごす中でどんどんポジティブになったんです」
「心咲は、人生のすべてといえる存在。生まれてきてくれたことで人生も拓けたし、想像もしていなかったことですが、彼女が生まれてきてくれたことでこの7年は大きく変わりました。心咲がいてくれるからこそ、目指すものが明確になって、そこに対してチャレンジできています」
「世界は、やさしさにあふれている」
先日、心咲ちゃんと二人でアメリカ・フロリダへ観光に訪れたという岸本さん。
「心咲が海外を旅行するのは2度目です。現地まではシカゴ経由、3時間のトランジットを入れて16時間、この間も二人でぴったりと息のあった移動でした。人工呼吸器と吸引器、何かあった時のために病院の紹介状を持っていきましたが、水とオムツは現地調達にして、荷物は大きめのリュックとスーツケース1個のみ。気は張り詰めていましたが、世界へは行くことができるんです。時差が16時間あったので、飛行機の中で水分量や服薬の調整もして、無事にアメリカに到着しました」
「『I can do it』、やればできるという気持ちでやれば、大概のことはやれてしまうのではないかと思っています。外に出てわかることですが、世界は本当に、やさしさにあふれていました」
18トリソミー児とその家族の外出の一歩を応援できるチャリティーキャンペーン
チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「Team18」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。「JAMMIN×Team18」コラボアイテムを1アイテム買うごとに700円がチャリティーされ、18トリソミーの子どもとその家族の外出への一歩を応援するための資金となります。
コラボデザインには、「世界はやさしさにあふれている」という岸本さんのポジティブなメッセージをそのまま落とし込みました。テーブルに置かれたコーヒーとドーナツ、スプーンとフォークという何気ない風景は、よく見ると数字の「18」になっています。さらに「心を癒す」という花言葉を持つクランベリーの実を3つ描き、18トリソミーを表現しています。
チャリティーアイテムの販売期間は、3月18日~3月24日の1週間。チャリティーアイテムは、JAMMINホームページから購入できます。
JAMMINの特集ページでは、岸本さんへのインタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。
・「出会えた奇跡をありがとう」。多くの人に、様々な家族のかたちとポジティブなメッセージ伝えたい。18トリソミーの我が子との挑戦〜Team18
山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。創業6年目を迎え、チャリティー総額は3,000万円を突破しました。