私たちが普段、当たり前に履いている靴。身近すぎてあまり深く考えることがないかもしれませんが、フィリピンやカンボジアでは、貧困のため靴を買うことができず、裸足で生活する子どもたちがいます。10年前、旅行先のフィリピンでゴミ山の上を裸足で駆け回る子どもたちの姿を見て「この子たちのために何かできないか」と、日本国内で履かなくなった靴を集め、それを届ける活動を始めたNPOを紹介します。(JAMMIN=山本 めぐみ)

日本の子どもたちが履かなくなった靴や衣類を途上国の子どもたちへ

フィリピン・ミンダナオ島にあるディゴス市サンミゲル小学校での靴の寄贈風景

埼玉を拠点に活動するNPO「SB. Heart Station(エスビーハートステーション)」。フィリピンやミャンマー、ベトナムなど発展途上国の子どもたちに、日本の子どもたちが成長とともに履かなくなった靴や着られなくなった衣類を届ける活動をしています。

代表の小川喜功(おがわ・きよし)さん(69)が旅行でフィリピンを訪れたのは10年前。ゴミ山で、裸足で遊んだり、お金になるものを拾っては集めたりしている子どもたちの姿を見て、「何かしてあげることはできないか」と帰国後、活動を始めました。

SB. Heart Station代表の小川さん(左)と事務局スタッフの南澤さん(右)

2011年には初めて靴を届け、その後、2012年にNPO法人を設立。これまでに62,382足の靴と60,764枚の衣類、86,056個の文房具類のほか、2,000近い楽器、サッカーシューズやサッカーボールなどを届けてきました。靴や衣類は全国各地から、個人の方だけでなく小学校や企業からも寄贈があるといいます。

配送はコンテナをチャーターすることも。輸送のための安定した資金集めが今後の課題

フィリピン・セブ島のゴミ集積場で靴を配布した際の1枚。子どもたちはゴミ回収車で運ばれてくるゴミの中から、プラスチックや金属などお金になるものを拾い生計を立てている

日本で集めた靴や衣類は、年に2〜3回、各国へと届けています。

「量がたくさんある時は、20フィート型コンテナ(長さ約6m×幅約2.4m×高さ約2.5m)のコンテナで運びます」と話すのは、スタッフの南澤正久(みなみざわ・まさひさ)さん(59)。

「昨年ベトナムに届けた際にはコンテナを利用し、6,582足の靴と1,295足のサンダル、419足の長靴、176足のサッカーシューズのほか、衣類2,650枚、サッカーボール37個、バレーボール18個、鉛筆7,000本、ボールペン500本、ノート2,600冊、消しゴム450個、鉛筆削り器332個を届けました」

諸外国に送るために箱詰めされたアイテム。靴、長靴、サンダル、サッカーシューズ、衣類、文房具などに分類され、現地に送られる

しかし、コンテナのチャーターにはお金がかかるため、国や量によっては段ボールの小口輸送で送ることもあり、「現地の子どもたちに定期的に物資を届けられるよう、安定した資金集めが今後の課題の一つ」と南澤さんはいいます。

目を輝かせてアイテムを受け取る子どもたち

ミャンマー・バガンにあるイエ・テュイン・ジー寺院での靴の寄贈風景

実際に現地で靴や衣類を受け取った子どもたちの反応はどのようなものなのでしょうか?手渡しツアーで何度も現地へ訪れている小川さんに聞いてみました。

「前もってプレゼント(手渡し寄贈)に行くという情報は伝えて行くのですが、そうすると子どもたちだけでなく、お父さんやお母さんも含めて待っていてくれて長蛇の列になります。子どもたちは『自分の順番まで靴や文房具がちゃんとあるだろうか』とずっと心配そうに見ているのですが、順番が回ってくると一目散に駆け寄って、目を輝かせて靴の大きさやデザインを確かめて選んでいます。そんな姿を見ると、プレゼントできて本当に良かったと感じます」

列に並び、順番を待つ子ども。「自分の順番まで靴は残っているかな?」と不安そうな表情を浮かべる

「中には、並んで自分の靴をもらってから、その靴を木陰に置いてもう一回列に並んだり、1足だけでなく、2足も3足も抱えようとしたりする子どももいます。『1足だけだよ』と声をかけると、『今日はお兄ちゃんと妹が来ていないから、二人の分ももっていってあげるの』と」

「貧しい地域では、子どもたちも労働力として働いています。学校で勉強することよりも、まずは今日食べるものがあって、生きていくことが優先。野菜や果物の収穫の時期になると、それが唯一の収入ですから、学校を休んでお父さんお母さんと一緒に働く子どもたちが大勢います。そうやって一生懸命働いても、1ヶ月の収入は6,000円ほど。子どもの靴は600円から1,000円ほどします。月の収入の1〜2割する靴を買うことが難しいという現実があります」

「学校を休んでいる兄弟のことを思って、彼らの分も靴をもらおうとする子どもを見て、かわいいなと思いますし、『一人一足まで』というルールで縛るわけにはいきませんよね。大目に見てあげたいと思います」

靴や衣類は、全国各地から届く

2018年12月に行われた靴仕分け作業の様子。ボランティアスタッフと手際よく仕分けする

途上国の子どもたちに送る靴や衣類などのアイテムは、全国各地から届くといいます。

「アイテムを送ってくださる方たちの中には、リピーターの方もたくさんいらっしゃいます。お友達同士で声をかけ合って、皆さんでダンボールいっぱいの靴や衣類を送ってくださることもあります。嬉しいですね」と小川さん。

アイテムは、団体に届いた時点でカテゴリごとに仕分けされ、靴の場合はそこからさらにサイズごとに分別。この分別作業は月に1度、ボランティアの方たちと行っています。

「毎月平均して20名ほどの方が参加してくださるのですが、ここで中心となって活躍してくれているのは地元の高校生たちです」と南澤さん。「途上国の子どもたちに靴などを贈り届けるだけでなく、日本の子どもたちにとっても、海の向こうにそんな子どもたちがいると知ることは、大きな学びになるのではないか」と話します。

日本では捨てられていたかもしれないものが、現地の子どもの宝物になる

靴は片方ずつはぐれてしまわないよう、一足セットにして、紐で結んでの寄付をお願いしているという。「輪ゴムでもいいのですが、細いものだと輸送中に切れてしまいますので、太い輪ゴムでお願いします」(南澤さん)

「活動の輪が広がってきた中で、本当に全国各地から、履けなくなった靴や着られなくなった衣類を送っていただくようになった」と小川さん。

「日本では使われることがなく、もしかしたら捨てられていたかもしれないものが、海を渡り、再び命を吹き込まれて、子どもたちにとって宝物になる。その素晴らしさも感じますし、各地からものを送っていただいて、日本という国の郵送機関の発達の素晴らしさも感じています。活動を通じて、日本は本当にありがたい国だなあと実感します」

さいたま市内の小学校で、子どもたちが履かなくなった靴の贈呈式を行なった。たくさんの生徒たちから、まだ履くことのできる色とりどりの靴が集まった

小川さんに、今後の夢や目標を聞いてみました。

「今の活動は日本国内だけですが、いつか世界に発信できるような体制を作っていきたいと思っています。もう一つ、これは個人的に思っていることなのですが、届ける先のほとんどの場所は、道も整備されておらず、車と車がすれ違うのもやっとのような場所です。そういう場所は電気や水道などのインフラも整っておらず、いつかそういう地域に井戸を掘って、きれいな水をみんなに飲んでほしいと思っています」

「靴を履けば、より子どもらしく生きられる」

靴を手に、笑顔を浮かべる子どもたち。フィリピン・ミンダナオ島で

「この活動をフィリピンからスタートした時、温暖な気候なのでゴム草履や裸足で遊ぶのが普通なのではないか、なぜ靴なのかと言われることがありました」と小川さん。「私もそのことを疑問に感じて、現地の方たちに何度も靴のプレゼントは役に立つのか、嬉しいのかと尋ねました」と活動を始めた当時を振り返ります。

「講演をさせていただくことがあり、その時にもお伝えしていることなのですが、一度、靴を脱いで歩いてみてください。ガラスなど危ないものが落ちていないかを確認したり、足の裏が痛くなったりして、普通に靴を履いて歩く時の2倍も3倍も時間がかかってしまうと思うのです。それは、途上国の子どもたちも同じです。日本のように学校が近くにないですし、舗装もされていない道を1時間も2時間もかけて歩いて通う子どもたちにとって、靴があったらできることもたくさんあると思うんです」

「サッカーボールだって思いっきり蹴ることができるし、歩いたり走ったり、仕事のお手伝いも、靴を履いていれば、より子どもらしく、楽しく生きられるのではと思います」

途上国の子どもたちに靴を届ける送料を集めるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「SB. Heart Station」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。「JAMMIN×SB. Heart Station」コラボアイテムを1アイテム買うごとに700円がチャリティーされ、発展途上国の子どもたちに靴や文房具などを届けるための送料となります。

「昨年一年間に、発展途上国に物資を届けるためにかかった郵送料を届けた靴の数で割ると、靴一足あたりの送料は200円でした。今回のチャリティーで、500足分の靴を届けるための送料・10万円を集めたいと思います。ぜひ、ご協力いただけたら幸いです」(南澤さん)

「JAMMIN×SB. Heart Station」1週間限定のチャリティーアイテム。写真はベーシックTシャツ(全11色、チャリティー・税込3,400円)。他にもボーダーTシャツやキッズTシャツ、トートバッグなどを販売中

コラボデザインに描かれているのは、中にスマイルのマークが描かれた一足の靴。靴を贈る側も贈られた側も笑顔になれるSB. Heart Stationの活動を表現しました。

チャリティーアイテムの販売期間は、3月25日~3月31日の1週間。チャリティーアイテムは、JAMMINホームページから購入できます。

JAMMINの特集ページでは、岸本さんへのインタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

発展途上国の子どもたちに、履けなくなった靴や衣類を届ける〜NPO法人SB Heart Station

山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。創業6年目を迎え、チャリティー総額は3,000万円を突破しました。

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