大阪市東住吉区の住宅街に10年以上、親と暮らせない子どもたちを支援しているNPO法人「子どもデザイン教室」がある。創作活動を通じた学習支援や学資支援を行い、昨年11月には初の養育支援事業となる、小規模住居型児童養育事業「こどもサポートホーム」を開設した。代表の和田隆博氏は元グラフィックデザイナー。41歳のときに激務で体調を崩したことがきっかけで、誰かのために働く「第二の人生」を選んだ。(オルタナS関西支局=松本 裕美)

支援することで感じた単なる「自己満足」。そして覚えた「違和感」

グッズデザインレッスン風景より抜粋。自分だけのキャラクターグッズを子どもたち自身が生み出す

2007年から手がける学習支援事業についで、ファミリーホームの運営など次々と新しい事業に挑みつづける和田氏だが、その背景には自身が覚えた「支援する側の満足感」への大きな違和感があったと明かす。

「最初は出張レッスンもしていまして、たくさんの子どもと出会ってきました。レッスン先で1、2時間のレッスンを終えると、こちらは『あぁ、いいことしたな!』なんて思いながら、仲間と美味しいビールを飲むわけです。そんなことを続けるうちに、ふと違和感を覚えたんですね。1、2時間たまにやってくる大人に、子どもたちの課題が本当に理解できているのだろうか。子どもたちの愛されたいと願う気持ちに応えられているのだろうか、と。子どもたちが本質的に欲しているものに応えるには24時間、365日必要ではないか。そんな場所が必要だ、と思ったんです」

仕事のためだけに命を削った毎日から、誰かのために生きる日々へ

学習支援、学資支援、養育支援事業と、日々子どもたちのために奮闘する和田氏の元には講演依頼も多々くる

福祉の世界に飛び込む前は、デザイン業界で手腕を振るっていた和田氏。広告会社を経営し、グラフィックデザイナーとして、昼夜を問わず仕事漬けの毎日。接待を繰り返し、徹夜も日常茶飯事。そんな生活を続ける中、病を発症したのは41歳の時だった。

「がむしゃらに、仕事のためだけに生きてきた人生だったんです。当時の私は、我が子にさえ向き合う時間をとってあげていなかった。でも病気をして初めて、自分の日常を見渡したとき、たまたま近所に児童養護施設があり、親と暮らせない子どもたちの存在を知った。その時思ったんです『あぁ、残りの半生は仕事のためだけに生きるのはもうやめよう』と」

のちに阪神淡路大震災でボランティアも経験。仕事のためだけに生きる虚しさ、誰かのために生きることの有意義さを知った時、「やるべきことがある、と感じた」と和田氏。以来、子どもたちにとって、誰よりも「濃い点」になることを目指し、向き合い続けた結果、現在のファミリーホーム事業にたどり着いたという。

「ファミリーホームをベースにした現在の養育事業。これが子どもデザイン教室のあるべき姿だと思っています。もっともっと私以外の人にも広めたい。たくさんの「濃い点」を作りたい。なぜなら、親と暮らせない子どもたちは全国に45,000人もいるのだから」

デザイナーにこそ伝えたい「こんな生き方があるよ」と

生き方チェンジ法は子どものためだけでなく、大人にこそ広めたい情報かもしれない

このような養育事業をするのに適している人とは、いったいどんな人か?という問いに、和田氏は自らがかつてその身を委ねた「デザイナー」だと、即答した。

それは特段、デザインを職業にしている人だけではなく、「デザイン思考のできる人」全てを意味するという。

「天気のいい日にね、子どもの手を引いて保育園につれていく途中、ふと子どもと青空を見上げるんですよ。あぁ、いい天気やねって言いながら。でもそれがある意味、仕事なんですよ。それって、なんて幸せなことなんだろう、ってつくづく思います。昼も夜もないくらい激務で働いていた私だからこそ伝えたい『こんな生き方のチェンジ方法があるよ』と」

「単に激務から抜け出すために、児童福祉の世界をすすめているわけではないのです。デザイン業界で必要な、計画的にものごとを考え、社会をよりよくする商品や仕組みを構築するという習慣、つまりデザイン思考。これが子どもたちの教育にはとても生きてくるのです。身を粉にして得たデザインの知識・キャリアを、今度は誰かのために、できることなら子どもたちのために生かしてほしい」

顧客が望む姿に対して、協力者やモノやお金、情報といった様々なことを鑑み、計画しながらものごとを組み立てていくクリエイターのスキル。これは子どもデザイン教室が長い間、子どもたちに伝えてきたスキルと通ずるものが多いという。

子どもたちにとって「濃い点」であるために作られたこのファミリーホーム。子どもたちだけでなく、より多くの大人が第二の人生を始めるためにも、もっともっと世の中に広まっていくことを願ってやまない。


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