東京・渋谷の待ち合わせスポットとして有名な「ハチ公像」。年間540万人の外国人が訪れるといわれ、「ハチ公物語」のモデルとなった秋田犬は今や日本を代表する犬ですが、そんな秋田犬が今、存続の危機にあります。秋田犬の保護活動を行う団体に話を聞きました。(JAMMIN=山本 めぐみ)
飼育放棄された秋田犬を保護、新たな里親に結びつける
世界的に人気が高い秋田犬。愛くるしい見た目で、日本人なら誰もが知る犬ではないでしょうか。その秋田犬、実は日本国内における飼育頭数が近年激減しています。
「ピーク時は約4万6,000頭もの秋田犬が犬籍登録されていましたが、現在、国内の犬籍登録数は約2,500頭にまで減っており、絶滅の危機にあるといっても過言ではありません」と話すのは、秋田を拠点に活動する一般社団法人「ONE FOR AKITA(ワン・フォー・アキタ)」の理事であり、チーフドッグトレーナーを務める鈴木明子(すずき・あきこ)さん。
「ONE FOR AKITA」では、飼育放棄されて保健所に保護され、里親が見つからず、殺処分一歩手前の秋田犬を保護し、専門のドッグトレーナーによる心身のケアを行い、新たな里親に結びつける活動をしています。
秋田駅から徒歩5分の立地で「秋田犬ステーション」という施設を運営し、秋田犬の魅力をより多くの人に伝えながら、秋田犬が抱える課題の啓蒙活動も行なっています。
この施設では毎週火曜・土曜・日曜に秋田犬に会うことができ、ここで販売される秋田犬グッズは、売り上げの一部が秋田犬保護のための資金として活用されています。
海外では今、秋田犬が空前の大ブーム
海外では今、秋田犬が大人気だと鈴木さん。「著名な方ではザギトワさんの他にも、ロシアのプーチン大統領や朝青龍、白鵬、昔の方でいえばヘレン・ケラーも秋田犬を飼っていたことで知られています」。
「秋田犬の海外人気を証明するデータとして、検索エンジン・Googleで検索されるキーワードの数を調べると、『AKITA』というキーワードの検索数が日本を代表する富士山、『Mount Fuji』や『Fujiyama』よりも圧倒的に多いです。ここで『AKITA』が意味するのは『秋田県』ではなく『秋田犬』。また、海外からの都道府県の検索ランキングも、日本の首都である『TOKYO』に次いで検索数が多いのが『AKITA』。世界を代表する大都市といえる東京に次いで、日本では『AKITA』が検索されているんです」
海外人気の背景には、2009年に公開されたリチャード・ギア主演のハリウッド映画「HACHI 約束の犬」があるといいます。
「1987年に日本で公開された映画『ハチ公物語』をリメイクした作品で、飼い主が亡くなった後、いつもと同じ場所で主人の帰りをずっと待ち続ける秋田犬・ハチの健気な姿が描かれています。この映画で、秋田犬の風格のある立ち姿や、一人の飼い主をずっと一生涯思い続ける『ワンオーナードッグ』である点に大きな注目が集まったのではないかと思います」
この映画の公開以降、2011年あたりから徐々に海外の秋田犬の犬籍登録数が増加し、2016年には海外の犬籍登録数が日本国内の犬籍登録数を上回るようになりました。
「忠犬ハチ公」に代表される秋田犬の特徴
「秋田犬は、どこか日本の侍精神にリンクするところがあるのではないか」と鈴木さん。「飼い主のために忠義を尽くし戦う。主人を守るためなら他には牙をむくような、一筋に、一心に主人を思う性格が海外の方たちに人気の理由ではないか」と指摘します。
体格的にはどんな特徴がある犬なのでしょうか。
「体高は平均で61〜67cmあり、体重は35~50kgになります。体の特徴としては、三角耳と呼ばれるピンと立った三角の耳と、巻き尾という巻いた尻尾があります」
「毛の色は基本的に3色で、赤毛と呼ばれる茶色、白毛と呼ばれる白色、虎毛と呼ばれる黒と白のまだら色があります。昔は黒毛も存在したのですが、現在はほぼいなくなりました」
「性格はそれぞれ違うので、中には人懐こい子もいればそうではない子もいますが、『ハチ公物語』のハチのように、一人の飼い主に対して忠誠を尽くすのが秋田犬の特徴です」
一人の飼い主を思うが故に‥
秋田犬が抱える課題
海外では人気の秋田犬ですが、日本国内では深刻な課題を抱えていると鈴木さんは話します。
「現在、国内で秋田犬として犬籍登録されているのはわずか2,500頭余り。この背景の中で最も我々が危惧しているのが、秋田犬の殺処分です。一人の飼い主を一途に思う秋田犬は、新たな飼い主さんのところで心を開くことができず、それによって『懐いてくれない』『これ以上は飼えない』といった理由で保健所に持ち込まれてしまうケースがある」と指摘します。
「調べてみたところ、平成28年に秋田県で殺処分された年間79頭の犬のうち、約3割にあたる21頭が秋田犬でした」
秋田犬の保護・保全のために
「ONE FOR AKITA」に在籍する「もも」という秋田犬について、鈴木さんが次のように語ってくれました。
「私たちのプロジェクトのシンボル犬でもある彼女は、小さい頃に捨てられて必要な時に必要な栄養を摂ることができず、今でも中型犬ぐらいのサイズしかありません。私たちの元へ来た時は健康状態も悪く、人間に対する警戒心もとても強い状態でした」
「しかし手をかけてトレーニングをした結果、今では毛のつやも顔の表情もすっかり変わり、とても人懐こい子になりました。ももは、『人が手をかけてやることで、救える命がある』ということを私たちに教えてくれた存在で、このプロジェクトをスタートさせるきっかけを作ってくれた犬でもあるんです」
現在、「ONE FOR AKITA」には11頭の秋田犬が在籍しています。そのうちの3頭は昨年、保健所から保護された秋田犬で、現在3名のドッグトレーナーが新たな里親と出会えるようリトレーニングを行なっています。
「一頭が里親さんを見つけたら、また新たに一頭を保護して、トレーニングして、里親さんを見つけて…というサイクルを作りながら、持続的な保護活動を行っていきたいと思っています」
また、秋田犬を継続して保護していくために、団体として資金を捻出していくためのしくみづくりにも力を入れているといいます。
「団体で秋田犬のオリジナルアイテムを作り、売り上げを秋田犬の保存・保護活動のための資金に充てているほか、私たちがシンボルマークとして使用している『SAVE AKITA』というロゴマークを他企業さんの商品に使っていただき、ライセンス料を保護費用としていただくという取り組みも行っています。いろんな立場の人たちと協働しながら、今後も保護活動を続けていきたい」
秋田犬の保護活動を応援できるチャリティーキャンペーン
チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「ONE FOR AKITA」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。「JAMMIN×ONE FOR AKITA」コラボアイテムを1アイテム買うごとに700円がチャリティーされ、秋田犬を保護し、新たな里親に譲渡するための養育費となります。
「一人の飼い主を思い続ける秋田犬は、一度飼育放棄されると人への警戒心が非常に強くなり、再び心を開いて新しい里親さんを見つけるためには専門のドッグトレーナーによるトレーニングが必須です。秋田犬を保護した際、初期費用として健康診断や避妊・去勢手術、ワクチンやサプリメント購入のためにお金が必要になるほか、養育費(エサ、ペットシートやトレーニング施設費などを含む)を含めると、1頭あたり1ヶ月(初月)に20万円がかかります」(鈴木さん)
コラボデザインに描かれているのは、小高い丘から夜明けを待つ凛々しい秋田犬の姿。秋田犬に明るい未来が訪れる様子を表現しました。チャリティーアイテムの販売期間は、4月1日~4月7日の1週間。チャリティーアイテムは、JAMMINホームページから購入できます。
JAMMINの特集ページではインタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。
・秋田犬の未来のために。飼育頭数拡大と殺処分ゼロへの挑戦~一般社団法人ONE FOR AKITA
山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。創業6年目を迎え、チャリティー総額は3,000万円を突破しました。