改正動物愛護法がこのほど成立した。同法では、これまでの動物愛護管理法に欠けていた法の実効性、運用の不備などの面が大幅に改善された一方で、畜産動物と実験動物については見捨てられた結果になった。改正に向けて働きかけてきた認定NPO法人アニマルライツセンター代表理事の岡田千尋さんに寄稿してもらった。

改正動物愛護法が、2019年5月30日、衆議院環境委員会を通過、その翌々週の6月12日、参議院を通過、改正動物愛護法が成立しました。アニマルライツセンターは動物実験の廃止を求める会(JAVA)、PEACE 命の搾取ではなく尊厳を とパートナーを組み、2年半以上にわたり、すべての動物を守れる法律をと働きかけてきました。私達が作成した逐条案をベースに、議論が積み重ねられていきました。これまでの動物愛護管理法に欠けていた法の実効性、運用の不備などが大幅に改善されました。

世間で騒がれている犬猫の8週齢規制の経過措置の削除は実際には動物たちの状況を大きく改善させることはないでしょう。象徴的に扱われていましたが、その裏で進んでいた細かな改正こそが、動物たちを救うと私達は考えています。

しかし、最も多く利用され、また最もひどい方法で利用される動物たち、つまり畜産動物と実験動物については見捨てられた結果になりました。両生類、魚類に関しても進展がありませんでした。

とはいえ、畜産動物はアニマルライツセンターが求めていた関係機関との連携の強化が法文に含まれました。実は私達は畜産動物の条項を入れることよりもこちらを強く求めていたため、キャンペーンは半分は成功であったと言えます。

しかし実験動物については、過去の改正と同様にまったく、一文も、一言も変わらなかったのです。
なぜなのか・・・
ペット産業よりも遥かに大きな利権であるからです。
日本の畜産業、動物実験関連業は、動物の福祉を守るということを否定しており、国際的な潮流から取り残されることでしょう。そして日本の動物たちは再びまた、5年、希望のない状況に取り残されるのです。

私達の活動報告はこちら

改正の内容を簡単にご説明します。

畜産動物
畜産・と畜場では法遵守の意識が大変薄い、②暴力的な行為が一般化してしまっている、③暴力が行われていても発見できない、④畜産関係の公務員が暴力的行為を見つけても動物愛護法やアニマルウェルフェアについての指導を行わない」、という4つの課題に対し、私達は、【A畜産、輸送業、と畜場を動物取扱業に含める】、【B動物愛護法内に産業動物についての条項を設ける】、【C国際基準に則った適正な取扱い】、【D連携機関に、”家畜保健衛生所””食肉衛生検査所””畜産に関わる地方行政部局”を含める】の4つを求めていました。この内Dの関係機関との連携の強化のみ、今改正で実現、私達の要望がそのまま通った形になりました。

しかし、最後に恐ろしいことが起こりました。過去の改正で畜産動物はずっと熱が低く、なにも変わってこなかったということや、私達も悲観的に発信をしていたこともあり、畜産関係者や畜産族議員は今回も改正はないものと余裕だったのだと思います。しかし、最後の最後、その日にすべて附則まで決まりそれ以降は動かなくなるという日に、自由民主党の畜産族議員から横槍が入り、附則案に入っていた次期改正までの検討事項から畜産があっさり消えてなくなったのです。

動物愛護法は他国と比較してもゆるく、さらには虐待防止がメインです。また、附則に入った場合検討は必ずされますが、改正につながるとは限りません。それでも、附則の検討事項から抜いたということは、畜産族議員、またはつながりのある畜産業界は改善とする意欲がないのではないかと思えるのです。実験動物を凌ぐほどに強い圧力があったそうで、附帯決議にすら畜産の検討要項は入りませんでした。

思うに、関係機関との連携の強化が入ったことは奇跡的だったかもしれません。
なお、①の課題に対応させるため、附帯決議には「本法及び本法の規定により定められた産業動物の飼養及び保管に関する基準を周知し、遵守を徹底するよう必要な措置を講ずること。」という一文が入りました。

実験動物
実験動物について、私達は、A動物取扱業に入れること、B動物実験の3Rsをすべて義務にすること、C代替法の開発を国の責務にすること、を求めていました。実験動物については前回改正時の最後に医師などの国会議員にすべて覆されてしまったという経緯があり、今回は大いに警戒しつつ、理解を得ようとロビーを展開していました。その甲斐あって、昨年末に固まった超党派議連の骨子には、「動物の科学上の利用の減少に向けた取組の強化」が入り、Bが叶うのではないかと期待しました。しかしこの骨子案を見た業界は抵抗。年始から強力にロビーを行い、「一言たりとも改正は許さない」という強硬な主張を行いました。

そして2018年3月15日(金)に超党派議連で動物実験に特化した会議の場がもたれました。日本実験動物医学会の下田耕治理事の説明に対し、厳しい質問が数多く飛びました。中でも、「3Rが義務化されるとどんな不都合があるのかいまいち想像ができない、最後に山中教授の言葉が挙げられているが、自分自身の研究に悪影響が出ると言われているんですが、義務化がされるとどういう点で悪影響が出るのか」という質問に対して、下田氏はしどろもどろに、2006年体制で2Rについては配慮事項として動物実験業界が動いているときに、「我々としては法規制で強化される、気分的にはやはりやりにくくなる、ということで悪影響ということになると思います」と回答しました。なお京都大学の山中伸弥教授が3R強化に反対している旨を主張していますが、私達が質問状にて確認したところ、反対はしておらず、「3R遵守は当然のこと」と回答されました。

妥当性のあるいいわけではありませんでしたが、それでも法文案から実験動物に関する改正内容は全て消え、附則の文言すら消えそうでした。3団体で再度強力にお願いして周り、附則の検討条項(附則第八条 動物取扱業の範囲の検討)には残していただくことができました。

特定動物
実は今回の改正でもっとも効力を発揮でき、動物たちを明確に救うことができる改正は、特定動物についてです。私達の要望がまさに反映されました!特定動物とは、いわゆる危険な動物で、ライオンやクマ、毒ヘビ、大型の猛禽などです。現在は、特定動物でも、いくつかの条件をクリアして許可を得れば、誰でも「ペット」として飼育することができます。
私達は、特定動物は本来、みな野生動物であり、一般の飼い主では不適切な飼養に陥りやすく、災害時に同行避難させることもほぼ不可能、さらには家屋が崩壊すれば逸走して人に危害が及ぶ可能性もあるとし、愛玩目的での飼育禁止を求めました。

その結果、飼育自体が原則禁止となり、展示や環境省令で定める目的で飼育する場合のみ、飼養・保管許可が出ることになりました。目的については、決議の中で、「娯楽、触れ合い等を目的とした飼養・保管を規制する措置も含めた規制の在り方を検討すること」ともされており、娯楽目的では不可にすることもできると考えています。ふれあいなどで危険な動物に触らせたりすることもあり、規制強化が求められます。なお、現在許可を受けて飼育されている動物については、附則によって、飼育を継続できることが定められています。
また、交雑個体も規制対象に含まれることになりました。

特定動物の福祉的な飼養管理の強化は残念ながら入りませんでした。

動物取扱業
第一種動物取扱業の登録の拒否要件の強化 (第12条)
ペットショップや動物園などの営利の動物取扱業の欠格要件=登録要件=登録取り消し要件が厳しくなりました。3団体の要望がかなり反映されています。
業取り消しになってから、または動物愛護法やその他関連の法律の罰則以上に処されてから2年以内には登録できない規定ですが、その年数が5年に延長。その関連の法律に、密輸に関連する法律として外為法違反が含まれました。鳥獣保護法や種の保存法の対象も範囲が拡大しました。

また、長く動物保護活動をしている人なら、ブリーダーから暴力団との関わりをちらつかされたことがあるのでは・・・?暴力団排除条項も追加され、動物の取扱いから反社勢力を排除することがようやく叶いました。またこれら欠格要件は使用人についても該当します。(詳細は政省令で規定)

基準規定内容拡大(第21条)
法文内に、第1種動物取扱業の基準になにの数値や具体性のある規定を作るか示されました。これまで数値や判断に迷わない規定が少なく、各行政は基準の文言を過小に捉え、福祉的指導がほとんど行われてきませんでした。とくに犬猫に限ってはより具体的にするべしとする規定になっています。この部分の施行は2年後とされており、具体的にどのような基準にするかは今後環境省の検討会で決めることになっています。現在行われている環境省の「動物の適正な飼養管理方法等に関する検討会」に注目です。

対面販売義務化強化(第12条)
いわゆるインターネット販売の実質的禁止条項に、「その事業所において、」という一言が加わり、登録されている事業所以外での販売が規制されました。これにより空港など登録地以外の場所で動物を引き渡すことが実質不可能になりました。また1日限りの移動販売などは登録不要とされていたケースがありますが、登録がなければ販売はできないものと思われます。私たちは移動展示販売は、登録の事前立ち入りを義務化することで実現したいと考えていましたが、それは叶わず、一部規制におわりました。ただし、付帯決議には登録更新時には立ち入りをし基準の遵守を確認するよう検討せよとの一文が入りました。次につなげましょう。

帳簿の備付け義務、動物全般に拡大(第21条の5)
現行法で犬猫販売業者にのみかかっている規制を、第一種動物取扱業者に拡大することを求めてきましたが、そのうち、帳簿の備え付け義務と、毎年の自治体への報告義務についてのみ強化、拡大されました。これまでも、台帳の備え付けは細目で規定がありましたが徹底されていませんでした。また、毎年の報告義務規定は、その提出状況で業者の良し悪しを判断する有意な指標に、また行政がきちんと機能しているかどうかの指標にもなります。注視していきましょう。

動物取扱責任者条件追加(第22条)
動物取扱責任者は、責任を負うだけではなく、従業員に法律や適正な取扱いを周知徹底するなど知識が必要です。しかし、劣悪業者での実務経験があるだけでも良しとされてしまい機能しているとは言いにくい状況。私達は「動物の取扱いに関連する十分な実務経験を有し、かつ、環境大臣の認定を受けた資格を有する者の中から」という条件を求めていましたが、「十分な技術的能力及び専門的な知識経験を有する者のうちから」という程度にとどまりました。これも政省令の要件改正によりますので、注視しましょう。

公表というペナルティと勧告命令の期限が追加(第23条)
基準を守らない場合、行政は改善勧告を出し、従わなければ業務停止などの命令を出し、その後ようやく罰則にあたるという順番です。現在、行政は改善が行われなくても勧告も、命令もほとんど出してくれません。そのため、業者は余裕で基準違反を犯し続けます。そこで、勧告に従わなければ業者名が公表され、さらに行政がきちんと勧告命令に進めるよう、3ヶ月以内という期限が切られました。私達は1ヶ月以内、かつ勧告命令を義務規定にしたかったのですが、それは通りませんでした。しかし実効性が上がったことには間違いがありません。基準違反を見つけたら、都度行政に通報しましょう。

廃業・登録取消後に立入りや勧告可能に(第24条の2)
行政が登録を取り消さない理由の一つに、動物取扱業ではなくなったら立ち入りができなくなり、動物の状況が確認できなくなってしまうというものがありました。動物保護団体としても取り消されると取り残される動物がおり、躊躇する理由になっていました。
私達は廃業後の立入り規定が必須とし、廃業後の行政による立ち入り権限を強く求めてきました。
その要望が通り、廃業後または登録取り消し後も、立ち入り、また勧告を出すことができるようになりました。罰則とも紐付いており、立ち入りを拒否したり、勧告に従わなければ第47条3項の罰則に当たり、30万円以下の罰金を科すことができます。

犬猫譲渡団体も帳簿備え付けが義務化(第24条の4)
それほど議論にならなかった第2種動物取扱業(動物保護団体や非営利の公園など)ですが、改正時期にいくつかの犬猫保護シェルターでの不適切飼養が明らかになったこともあり、犬猫の譲渡団体での帳簿備え付けが義務化されました。議論の中では第1種と一緒にするという内容もありました。

適正飼養
適正飼養は強化(第7条)

家庭、展示、畜産、実験動物について基準によるものとするとされ、基準の位置づけが明確になりました。しかし法文を見てもそれが義務規定とは見えず、ただし改正の要綱では「当該基準を遵守しなければならないことを明確にする」となっており、多少強い意味合いを持つようです。もともと法文案は義務規定になっていましたが、最後の最後で差し替えられており、その実効性は非常に曖昧です。

不適切飼養への指導権限強化(第25条)
これまで一般の飼い主でネグレクト状態などでも行政は任意で立ち入り指導する程度、結局多くの善意の人がこっそり餌をあげつづけたり頼み込んで散歩に行かせてもらうなど、苦労し続けていました。3団体でこの点は強く求めた結果、今改正で、多頭飼育ではない一般の飼い主であろうと、動物1頭であろうと、実験施設であろうと、畜産施設であろうと、不衛生であったり、虐待の恐れがある場合には、行政は命令や勧告を出すことができ、また行政は立ち入り、検査ができるようになりました。立入検査を拒否すれば罰則にも当たります。

残念ながら、不適切飼養施設(動物取扱業でもシェルターでも一般飼い主でも)からの動物の一時保護(緊急避難)は実現することができませんでした。日本は他の国よりも所有権が強いと言われています。”所有”する動物を取り上げるということがとても難しく、今後も所有者に動物を放棄してもらうことを継続せざるを得ません。

犬猫繁殖制限義務化(第37条)
犬猫に限らず動物を増やし続けてしまう現場を見てきているため、全ての動物をと求めましたが、犬猫に限って「生殖を不能にする手術その他の措置を講じなければならない。」と義務化になりました。これにより助成金など作りやすくなるのではと期待します。

所有者不明犬猫の引取り義務解除(第35条)
求めてきていた内容が反映され、所有者不明の犬猫についても引取りを「拒否することできる」となり、駆除目的での猫の引き取りの防止につながるものと考えられます。

殺すときの方法(第40条)
殺すときの方法を定めるにあたって「国際的動向に十分配慮」することが規定されました。国会の質疑にて、ガス室での殺処分をなくすことだと答弁があり、改善が見込まれます。

罰則強化
罰則第44条以降

動物殺傷罪は懲役2年罰金200万円以下の罰則から→懲役5年罰金500万円以下の罰則へ。
動物虐待罪と動物遺棄罪は100万円以下の罰金から→1年以下の懲役又は100万円以下の罰金へ。
虐待の定義に、「身体に外傷が生じるおそれのある暴行を加える」「身体に外傷が生じるおそれのある行為をさせる」「飼養密度が著しく適正を欠いた状態で愛護動物をする」が加わりました。

環境省の別途示す虐待の定義にはあっても、法文になければ一般市民は理解が及びません。要望の結果、法文内に多少明記されたことはありがたいことです。

両生類は次回改正で検討
私達は愛護動物や動物取扱業の対象を「脊椎動物」としてほしいと要望していました。しかし、魚類についてはあまりに理解が得られず、途中から両生類に絞り必要性を訴えました。業界団体も賛同していたことや、議員の理解も得られていたたため、実現するかに思えましたが、残念ながら今回の改正では抜け落ちてしまいました。附則の検討事項に入れることができました。両生類や魚類は法の抜け穴として気軽に不適切な状態で販売されるなど、不当な利用をされがちです。ぜひそのような現場を見かけたら、動画など情報提供をお願いします。

マイクロチップ
義務化する必要はないと3団体で意見を続けましたが、販売される犬猫に限定し義務化されました。新たな獣医師会の利権が生まれました。健康被害だけでなく、膨大な個人データが国に把握されることになるため個人情報漏洩または流用などリスクがあります。

8週齢の天然記念物除外
第二十二条の五の生後56日以内に販売してはならないという規定の附則が外されたのですが、単一の犬種のみを繁殖している業者であって、かつ一般消費者に直接ブリーダーから販売される場合は、天然記念物である犬(柴、秋田、紀州、四国、北海道、甲斐)がこの規定から外されました。これは議員立法が反対意見があると成立しないという特性を利用し、日本犬保存会と秋田犬保存会に携わる議員により政治的に入れられた除外規定です。この内容であれば頭数は限られ、主に猟犬用に使役される犬を指しているようです。早くに親から引き離し、社会性を奪い、飼い主だけと信頼関係を作るという方法をとっているようです。また母犬のお乳を傷つけると主張していたことから、劣悪飼育であることも容易に想像できます。

施行時期
施行時期は、動物の愛護及び管理に関する法律等の一部を改正する法律の公布(2019年6月19日)から1年以内となっており、2020年6月くらいが目処となります。例外的に、具体的な規定に変わる第1種と第2種動物取扱業の基準遵守や取り締まり2年以内の施行、八週齢規制の経過措置削除も2年以内の施行、マイクロチップに関する規制は3年以内です。
できるだけ動物福祉に配慮され、かつ実効性のある基準ができ、そのうえでできるだけ早く施行されることを望みます。

附帯決議を忘れないように
附則は法文の後ろに、法律の付随的な事項を定めたもので一定の効力があります。一報、附帯決議とは、法律を作成した意思を表明するもので、強制力はありません。しかし、重要なことが複数書かれています。次回改正時、参照し、今回の議論を無駄にしないようにしましょう。

改正後の法文全文はこちら https://arcj.org/download/doubutsu-aigo-hou-2019/

附帯決議はこちら https://arcj.org/download/doubutsu-aigo-hou-hutaiketsugi/

解説協力:PEACE 命の搾取ではなく尊厳を



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