「本気で変えようと思ったら、世界は変わる」。そんな思いを胸に、教育と職業支援に取り組むNPOがあります。舞台は1970年から20年以上続いた内戦によって多くのものが失われたカンボジア。「90歳まで職業は国際支援と言い続けたい」。そう話す代表の女性に話を聞きました。(JAMMIN=山本 めぐみ)
学校建設がきっかけで就労支援をスタート
アンコールワットがあることで知られるカンボジア・シェムリアップから北西に70キロほど離れた「プレイキション村」という農村で、子どもの教育支援につなげるための就労支援を行っているNPO法人「はちどりプロジェクト」。代表の宮手恵(みやて・めぐみ)さん(47)は、2011年に小学校を建設したことがきっかけで、この村で支援活動をスタートしました。
「カンボジアは1970〜1993年の内戦によって学校や病院が破壊され、知識人が大量虐殺されたという歴史があります。学校のなかったこの村に学校を建てて子どもたちが学べる場所ができたと思っていた矢先、村の大人たちが近隣の国へ出稼ぎに出てしまうという事実を知りました」と当時を振り返る宮手さん。
「その際、子どもも一緒に出稼ぎに連れていってしまう。そうすると学校へ通うことができなくなります。子どもたちが継続して学校に通える環境を作るために、2013年に団体を法人化し、就労支援を開始しました」
「教育さえ受けることができ、読み書きができて知識があれば、子どもたちは自分の力で未来を築いていくことができるからです。教育を受けた子どもが、村を豊かにしていくために考えて行動していくこともできます。ゆくゆくは自立し、支援の必要ない村になるために、少しずつですが種を蒔いていきたいと思っています」
出稼ぎのために村を出る親たち
なぜ、村の大人たちは出稼ぎに出てしまうのか。その理由を宮手さんに聞きました。
「村に産業がなく、出稼ぎに行かなければ生活をしていくことが難しいからです。カンボジアでは、多くの人が米の生産で生計を立てています。地域によっては二毛作が可能なところもあるのですが、多くの地域では雨季(5月〜10月)にしかコメを収穫することができません。そうすると自分たちの米の収穫は家のおばあちゃんや親戚、日雇いの人に任せて、もっと収入の良い工場やゴム農園のプランテーションなどへ出稼ぎに出てしまうのです」
「その際、奥さんと子どもも一緒に村を出てしまうと、子どもは教育を受けられないまま大人になってしまいます。村に産業があり、親たちが安定した収入さえ得ることができれば、出稼ぎのために村を出る必要はありません。この村の子どもたちが安心して教育を受けられる環境をつくりたい。そう思い、現在は就労支援に重きを置いています」
紙すきや石鹸づくりに取り組む
「はちどりプロジェクト」では、2014年より現地の「コー」という植物の実から綿をとり、紙をつくる紙すき産業に取り組んでいます。しかし、紙を乾燥させる工程に課題があり、クオリティの担保が難しいため、最近新たなプロジェクトをスタートさせたといいます。
「村で収穫した米から油を搾取し、それで石鹸をつくるプロジェクトを始めました。これは就労支援の他にもう一つ、環境教育という側面も備えています」
「水道も下水もないこの村で、最近村人たちが合成洗剤を使用するようになってきています。下水処理のシステムがないので、村人が使った汚水はそのまま土に吸収され、彼らが口にする米や野菜、井戸水も汚染してしまいます。ケミカルな合成洗剤ではなく、害の無いかたちで自然に還る天然由来の石鹸があれば、彼らの健康な生活をも守ることができると考えています。まだまだ準備段階ですが、生産したものだけで従業員の方たちにお給料を払えるように、少しずつかたちにしていきたいと思っています」
きっかけをくれた、一人の登山家
試行錯誤しながら、なんとか村に産業を定着させようと奮闘する宮手さん。なぜ、カンボジアで支援活動を行うのか。国際支援を始めたきっかけを尋ねてみました。
「30歳の時に、『世界がもし100人の村だったら』という本を手にしたことがきっかけです。日本で生まれ育った自分がいかに恵まれているかということ、そして世界平和のための自分に何ができるのかということを考えるようになりました。何かしたいという思いを胸に抱きつつ、その一歩を踏み出すことができないまま何年かが過ぎました。私は登山が趣味なのですが、同郷だった登山家の栗城史多(くりき・のぶかず)さんの大ファンで、37歳になった2009年、初めて彼の講演会を主催させてもらったんです」
「当時は講演会のこの字もしたことがなかったし、ただただやりたいという原動力に突き動かされて、準備のためにあちこち奔走しました。いろんな場所へ出向いたり、チラシを貼ってもらうために地元の商店さんを一軒ずつ回ったり…。リスクを背負ってイベントを主催するのは決して楽ではありませんでしたが、会場の定員であった360席を満席にすることができた。この成功体験が大きなターニングポイントになりました」
「栗城さんに初めてお会いした時、『夢を1日10回口にすると、かなうんだよ』と言ってくださいました。私は北海道室蘭市の出身なのですが、栗城さんも同じ北海道の今金町という町の出身で、そこから地元の大学に進学して登山を始め、世界に挑戦する姿が、自分自身と重なりました。講演を成功させた経験が、出会いで人生は大きく変わるんだということ、そして明確な意志や夢を持てば、それはかなえることができるんだということを確信させてくれました。『私も栗城さんのように夢を行動に移し、かなえる人になろう』、強くそう思いました。カンボジアの内戦を知り、巡り合ったこの村で学校建設をスタートし、そこから今の活動へと続いています」
「職業・国際支援に」
彼の死が、決意を固くした
宮手さんの一歩を後押しした登山家・栗城さんの存在。しかし栗城さんは2018年5月、8度目の挑戦となるエベレストで、滑落により35歳の若さで亡くなります。
「心が折れて一晩中泣きました。でもその時に、本当にいろんな人たちから『大丈夫?』『気を落とさないで』と連絡をもらったんです。講演会を通じて出会った人たち、そしてまたカンボジアでの支援で出会った人たち、こんなにたくさんの人に支えられていたんだ、自分が歩んできた道は確かにあるんだと気づきました」
「当時、添乗員として働きながら支援活動をしていました。団体の運営資金から自分の給料を出すぐらいだったら、現地でたくさんの人を雇って、その人と家族の生活を支えられる方が良い。自分で生きていくお金は自分で稼がないといけないと思っていたからです。でも、一晩中泣いた後に決めました。私は、これで生きていく。『職業・添乗員』ではなく『職業・国際支援』として、生きていく覚悟を決めました」
「この活動だけに注力するようになって、ちょうど1年。覚悟を決めたからには、利益を出して、この村が自立できるように進めていかなければならないと思っています」
「傍観者が減れば、世界は本当に変わる」
エベレストに何度も挑戦し続け、挑戦の中で亡くなった栗城さん。「批判されても自分の信じた道を突き進む姿に、諦めないことの大切さを学びました」と宮手さんは話します。
「戦争、レイプ、人身売買…世界でいろんなことが起きています。世界平和に向けて何ができるのか。そこに正解はありません。カンボジアにはたくさんの支援団体がありますが、100団体あれば100通りの支援があります。誰もが積極的に行動する必要ありません。ある改善すべき状況があった時、文句を言う人、解決に向けて頑張る人、応援する人、傍観する人が出てきます。もし、この中の『傍観する人』を減らすことができたら、私は本当に世界が変わると信じています」
「みんなそれぞれが、ただ自分にできることをしていけば良いと思うんです。『何もできない』『何もない』なんてことはありません。できることは本当にたくさんあるし、私が経験したように、そこから世界平和への一歩が大きく広がっていくはずです」
村に産業を根付かせる活動を応援できるチャリティーキャンペーン
チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「はちどりプロジェクト」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。「JAMMIN×はちどりプロジェクト」コラボアイテムを買うごとに700円がチャリティーされ、カンボジア農村部の子どもたちが安定した教育を受けられるように、村に産業を根付かせるための活動資金として使われます。
JAMMINがデザインしたコラボデザインに描かれているのは、大地にくちばしで運んだ一滴の水を垂らすはちどりの姿。一人ひとりの「ひとしずく」がやがて乾いた大地を潤し、豊かな世界を創り出すことを表現しました。
チャリティーアイテムの販売期間は、9月23日~9月29日の1週間。チャリティーアイテムは、JAMMINホームページから購入できます。
JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。
・「最後まで諦めず、世界平和をかなえたい」。カンボジアの農村部から始める国際支援〜NPO法人はちどりプロジェクト
山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。創業6年目を迎え、チャリティー総額は3,500万円を突破しました。
【JAMMIN】
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