長期入院を余儀なくされた子どもや医療的ケアが必要な子どもたちの日常生活は、治療や介助が中心となり、身に着けるものさえ選べない、彩りのない生活になりがちです。我が子の入院生活をきっかけに、病児とその家族の悩みや葛藤を知った一人の母親。「病気や障がいがあっても『かわいい』や『かっこいい』を諦めないでいられることが、当事者や家族の心のケアにもつながるのでは」と立ち上がりました。(JAMMIN=山本 めぐみ)
病気や障がいのある子どもたちの外見ケア
「チャーミングケア」を発信
一般社団法人「チャーミングケア」代表の石嶋瑞穂(いしじま・みずほ)さん(42)は、4年前の2016年、当時小学2年生だった長男が小児がん(小児急性リンパ性白血病)になったことをきっかけに1年に及ぶ入院生活を送りました。その時に、入院中の子どもへの外見ケアが本人やその家族にとって笑顔や癒やしを生むきっかけになり、メンタルケアにもつながることを実感したといいます。
「直接的に病気を治す特効薬ではないかもしれないけれど、外見ケアは当事者とその家族にとって大きな意味を持つものなのではないか。小児がんに限らず他にもいろいろな疾患や障がいのある子どもとそのご家族が、闘病や看病、介助の生活の中で『こんなものがあったらいいのに』『こうだったらいいのにな』と外見ケアにまつわるさまざまな悩みや葛藤を抱えている現実を知りました」と石嶋さん。
当事者と家族の声を集め、医療者ともつながりながらネットワークを育み、2018年に団体を立ち上げました。病気や障がいがあっても、その子がその子らしく生きられるかわいらしさや子どもらしさを尊重しつつ「チャーミングケア」として普及・浸透させることを目指して活動しています。
息子のカテーテルカバーにまつわる出来事が
活動のきっかけ
活動のきっかけになった出来事は、抗がん剤治療のために体内に埋め込む「カテーテル(CVカテーテル)」のカバーを作ってきてください、と言われたことだったといいます。
「息子の介助のためにベッドに張り付いて看病してフラフラになっていたところに『明日から抗がん剤治療を始めるので、カテーテルカバーを作ってきてください』と病院の方に突然言われて、寝耳に水でした。息子につきっきりだったので、布を買いに行く時間もなければ裁縫する時間もなく、『売っていないのでしょうか』と尋ねると『売っていません』と。他のご家族はどうしているんだろう、と思ったことが最初です」
「息子と同じ白血病で弟さんを亡くした同級生の友人に相談すると、どんなものかなんとなくわかれば作るよと申し出てくれて、それで看護師さんにお願いして他の方のカテーテルカバーの写真を撮って採寸もさせてもらい、その友人に送りました」
「彼女はそれを見てハンカチで素敵なカバーを作ってくれたのですが、それがバーバリーの柄でした。そしたら息子が『これ、ブランドものやん!』と目を輝かせて。治療で弱り、『あっちいけ』とか『いやや』と言っていた看護師さんたちに対して『これ見て!ブランドもんなんやで』と自慢げに見せていたんです」
「入院が私たち大人にとっては非日常でも、
息子にとってはそこが家であり、日常だと気がついた
もう一つ、石嶋さんが息子さんの入院中に外見ケアの大切さを感じた出来事があったといいます。
「ある日、検査のために検査着を着用しなければならないことがありました。当時小学2年生の息子の体の大きさでは高学年サイズの検査着は大きく、幼児サイズの全身クマ柄の検査着を着ることになったんです」
「何時から検査になるかわからないし、朝からそれを着させようとすると『絶対にいやや』と言い出して。私も看護師さんも『すぐ終わるし、ええやん』とたしなめたのですが、本人はいやだと。『検査の前にわざわざ部屋に戻って着替えるのもめんどくさいやん、着てたらいいやん』と言ったら、息子が『じゃあ、自分はこの格好で外を出歩ける?』と問うたんですね」
「私たちにとっては非日常な空間でも、息子にとってはここが家であって日常であり、治療が最優先であったとしても、院内学級があってコミュニティがあって、したくない格好でウロウロすることは、私たちがしたくない格好で外を出歩くこと、それを知り合いに目撃されるのと同じぐらい、本人にとって嫌なことなんだとハッとしました。『一番効率の良い方法で』『すぐ終わるから』というのは、あくまで私たち大人の段取りや主張であって、長く入院生活を送っている彼からすると、他人からの見られ方だって気になるということに気がついたんです」
カテーテルカバーから見えてきた課題
今でこそ、ネットで情報交換をしたり、フリマサイトでもかわいい柄のものを購入できるようになったというカテーテルカバー。しかし当時は情報がほとんどなく、「困ったり悩んだりしている人が他にもいるのではないか」と思うようになった石嶋さん。息子と同じ病棟に入院している子どもたちや親御さんと「カテーテルカバーはどうしているの?」と聞いて見せてもらい、情報交換をするようになりました。
「お子さんが小さい場合は、カテーテルを止める部分をマジックテープではなくスナップボタンにされている。マジックテープだと剥がす時のバリバリという音が、眠りについた我が子が起こしてしまうという配慮からです。他にも、まだ手をつかって自分でカテーテルを自由に動かせない小さな子どもが肌に触れるときにふかふかの方が良いからとキルティング素材を選ばれていたり、さまざまな工夫がありました」
「24時間子どもに付き添いながら、食事も出ない、体を伸ばして寝られる場所もない病室で寝泊まりしながら、そうやって一つひとつ一生懸命工夫されている。でも同時に、インターネットでなんでも手に入る時代であるにも関わらず、皆が裁縫が得意なわけでもないし、看病で疲弊しきっている状態なのに、当たり前のように『お母さん、やってくださいよ』で成り立ってきた事実を知って驚いたし、疑問に感じました。親御さんもスーパーマンではありません」
「ボランティアの方が作ったりしてくださるケースもあるようですが、いずれにしても家庭内か福祉でまかなわれていて、そこにお金を支払って作ってもらうとか、かわいさを求めるといった発想や概念が、当時は全くありませんでした」
病児に限らず、障がい児や医療的ケア児にも
同様の課題があった
入院は一過性のものであるため、当事者や家族の困りごとや「こうだったらいいのに」という声が発信されることがなかったのではないか、と石嶋さん。
「子どもが日常生活でカテーテルをずっとつけ続けることは少ないし、その時は疑問に感じても、退院して日常の生活に戻った後に困りごととしてそれが残らないので、あえて発信するということがなかったのだと思います。入院していた頃の記憶をあまり思い出したくないというのもあるかもしれません」
しかし子どもの外見ケアについて情報を集める中で、石嶋さんは「病気の症状や障がいよって、それぞれ別の困りごとがある」ことを知ったといいます。
現在、共に活動する理事の岩倉絹枝(いわくら・きぬえ)さん(43)は、医療的ケアが必要な長男のために何かできないかと一念発起し、医療的ケア児や障がい児のための子ども服のセレクトショップ「ひよこ屋」を運営しています。もう一人の理事、奥井(おくい)のぞみさん(36)は、24時間の完全介助が必要な重症心身障害児の子どもをもち、重症心身障害児や医療的ケア児のおしゃれな洋服ブランド「Palette ibu.(パレットイブ)」を運営しています。
「岩倉さんの話を聞いたり、奥井さんのご自宅に伺ったりしてケアの様子を見せてもらったりしていくなかで、病気と障がいは似て非なる部分があると強く感じました。病気は一過性になることができたとしても、障がいは一生付き合っていかなければならない。ケアが日常の一部としてずっと存在していくのです」
「そんな中で、胃ろうカバーをおしゃれにしてみたり、お洒落着を作ったり、寝たきりであっても生活を豊かに彩るかわいいものやかっこいいものをチョイスされていました。病気や障がいがあるからといって『かわいい』や『かっこいい』を身につけることを諦めなくても良いんだということを発信したいと思うようになりました」
「医療機器メーカーやアパレルメーカーさんなどの企業さんにも何度か打診したことがあります。しかしやはり、こういった子どもの外見ケアの大切さの認識がまだ広がっていないし、そもそも少子化問題の上に、患者数が多いわけではないので市場として小さい。さらに子どもはサイズ展開も複数必要になってくるために商業ベースでやることは難しいと断られました」
「でも売れるか売れないかは別にして、このまま外見ケアの課題が放置されてしまったら、子どもにも、そのご家族にとってもよくないのではないか。私と岩倉さんと奥井さん、それぞれのジャンルで持っている情報や知識を集約し、発信しようということになったのです」
「外見ケアを通じ、
本人だけでなく、親御さんの気持ちも明るくしたい」
東京で年に1度開催される「子どもの福祉用具展」へ足を運んだ際、障がいのある子どもをバギーに乗せたお母さんたちが、病児や障がい児のためのアパレルショップを見つけると目の色を変えて駆け込んで、物を見ては本当に楽しそうに選ぶ姿を見た石嶋さん。「その時に、ああ、これができないかなと思った」といいます。
「年にたった1度、東京まで行かないと見られない、買えないのではなく、もっと気軽に、病気や障がいがあっても着たいものがあってそれを選べる、そんな社会を作っていきたい。ただ単純に本人の外見ケアということだけではなくて、それを身につけている気分だったり、看病したり介助したりする親御さんの気持ちも明るくして支えてくれる、それが大きな力だと思っています」
「子どもが病気になる、大切な人に何か起こるということは予測がつかないことです。ある日突然生活ががらりと変わった時、パニックになって『患者スイッチ』が入ってしまうのは当然です。私もそうでした。その時に生活の中の彩りのような部分、好きなものを選ぶとか、好きなことをするとか、そういったことは影を潜めてしまいます。でも、制限がある中でも彩りの部分を持ち続けないと、当事者もお世話をする人も、次第にしんどくなってしまいます。病気や障がいがあっても、『かわいい』や『かっこいい』が選択できる社会が、もっと広がっていけばと願っています」
病気や障がいのある子どもの外見ケア啓発を応援できるチャリティーキャンペーン
チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「チャーミングケア」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。「JAMMIN×チャーミングケア」コラボアイテムを買うごとに700円がチャリティーされ、病気や障がいのある子どもの外見ケア、「チャーミングケア」を一人でも多くの人に知ってもらうための活動資金となります。
JAMMINがデザインしたコラボアイテムに描かれているのは、きれいな模様の空き缶と、そこから広がる夢の世界。たとえ病気や障がいがあっても子どもたち一人ひとりに個性があって、それぞれが好きなものや大切なものが大事にできる・大事にされる、そんな社会が広がって欲しいという願いを表現しました。
チャリティーアイテムの販売期間は、5月11日~5月17日の1週間。JAMMINホームページから購入できます。
JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。
・病気や障がいがあっても「かわいい」や「自分らしさ」を諦めない!「外見ケア」が、子どもの自信と家族の笑顔に〜一般社団法人チャーミングケア
山本 めぐみ(JAMMIN): JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。2019年11月に創業7年目を迎え、コラボした団体の数は300を超え、チャリティー総額は4,400万円を突破しました!