かつては敵同士。同じカンボジア人でありながらも殺しあった者たち。それがいまでは、仲良く地雷撤去の作業に取り組む。なぜだろう?その素朴な疑問が、カメラを回す動機となった。学生ドキュメンタリー映画「CROSS ROAD」(武井裕亮監督・慶応大学環境情報学部3年)を制作した慶応の学生団体S.A.L.のメンバーがカンボジアで見たものとは。



映画の舞台となるダサエンは、カンボジア北西部の農村。内戦時代に反政府軍ポルポト派の最後の居留地としてゲリラ戦が繰り広げられ、700万個ともいわれる地雷が埋められた場所だ。そこで日々、危険を犯しながらの撤去作業が進む。作業員はデマイナーと呼ばれる。

S.A.L.代表として4度カンボジアに訪れたS.A.L.代表の重田竣平さん(法学部政治学科3年)はいう。

「まず、摂氏45度の暑い中で黙々と作業をしていることに衝撃を受けました。元政府兵とポルポト兵、そしてその子供たちまでが共同で自分たちが埋めた地雷を撤去しているのです。なぜ、かつて殺しあった人々がここまで仲良く作業できるのか。それが不思議で映画を作ることにしました」

その疑問に対する、かつての敵味方たちの答えは一見シンプルだ。「内戦中は、目の前にいる敵を殺さないと自分が殺された。だが、戦いが終わればカンボジア人同士、憎み合う意味はない」

現地の人たちはこのことを説明するときに「アッパニア」という言葉を良く使ったという。これには、気にしない、関係ないという意味がある。カンボジア人の鷹揚さを示しているのかも知れない。

だが、本当の理由はそんなきれいごとだけではないようだ。

「カンボジアの教師の月給は約50ドル。しかしデマイナーになると100ドルから130ドルの給料がもらえます。つまり、金を稼ぐためにこの職業に就くのです。しかも、デマイナーは半分以上が女性で18歳の子もいました。力作業の出来る男は畑作業をしますが、そうでない女性は危険の伴う地雷撤去作業をしながら家計を支える構造があるのです」(監督・S.A.L.共同代表の武井さん)


撤去作業時には特殊なベストを着用するとはいえ、命がけの作業。4段重ねに埋められていた対戦車地雷が爆発して、7人が死亡する事故も起きている。

「撤去作業は、小隊長の下に2人ペアが12組、それに医療担当と通信担当の計27人でチームを構成し、週6日行われます。地雷がどこに埋まっているのか分からない地面を掘り返すため、わずか4平方メートルのスペースでも一日がかり。それで一個も見つからない日もあります」

それだけ危険を冒しても、完全撤去のめどは見えてこない。

「カンボジア政府の撤去見通しは、毎年のように後ろにずれ込んでいます。また、地雷撤去には日本から20億円のODA(政府開発援助)が入っていますが、作業を請け負うCMAC(カンボジア地雷行動センター)が利権の温床となっている話を聞くなど、問題は多いのです」


製作スタッフは、電気ガス水道もない現地の住居にマラリア感染の危険を冒して泊り込み、井戸水で顔を洗うなどしながら撮影をこなした。

今回はS.A.L.の自主制作映画ということもあり、100万円の制作費のほとんどはメンバーから出ている。武井さんは水泳のコーチをやり、重田さんは家庭教師で稼いだバイト代をつぎ込んだ。

映画作りはまったくの素人集団が「内戦、平和、正義」をテーマに、地雷という重いテーマに踏み込んだ「CROSS ROAD」は、9月の国際平和映像祭で上映された後、10月7日に成城ホールで自主公開される。(オルタナ副編集長 形山昌由)


「CROSS ROAD」ウェブサイト
http://crossroad-salfilms.com