被災地にあって東京にないものとは


武士 おれは気づかされたこととして、一体感の差かな。おれは震災当日はネパールにいたんだけど、多くの人がおれを見るたびに「日本大丈夫か?」って声をかけてくれたり、日本の情報をくれたり、みんな心配してた。でも、東京に戻ってみるとその光景があまりなかった。むしろもう忘れようとしている印象を受けた。みんなそれぞれの生活に向かってばらばらに生きているように感じた。被災地ではお互い知らない人はいないくらい、親しい関係性を築けているのに、東京にはそのような地域ってほんとに少ない気がする。

三井 おれが今回感じた被災地と東京の違いは生かされているという感覚だと思う。陸前高田に行って高台から瓦礫の山を見たときに、行くまえには全てのニーズを吸い上げて全体をコーディネートしようと思っていたけど。その光景を見たときとてもじゃないけどそれはできないって思った。津波の脅威がすごすぎて、人間の力を凌駕しているものだと感じた。やっぱり人間は自然の中で生かされているんだと思った。特に、被災者のかたは生き残ったというより、たまたま生かされたって感覚が強い、この感覚は東京の人には無いよね。東京に生まれたことも偶然なんだけど、その偶然ってこともあまり意識してなくて、助けられたっていうより助かったって思っている。自分が周囲によって生かされている感覚よりも自分が生きているって感覚のほうが強いと思う。

上地 確かにそうだよね。でも、その逆で生き延びてしまったって思う人たちもいるよね。

三井 いる。ある高齢のおじいさんは息子夫婦と暮らしていて、息子夫婦がおじいさんに避難所に行きましょうって言ったんだけど、おじいさんは行かなかった。避難所に行ったらみんなに介護されて迷惑をかけることを懸念してたから。息子夫婦もおじいさんの意志を尊重して一緒に避難所に行かないで暮らすことを決めた。でも、ある日息子夫婦が外出して帰ってきたらおじいさんは家で自殺してた。生き延びてしまったって罪悪感はこれから先もあらわれてくると思う。そことどう向き合っていくのかだよね。

震災を一人称で考える


上地 おれは今回現地に行って身にしみたけど、とにかく若者が少ない。でも、来れない理由や原因は人それぞれあると思うし、それはしょうがない。でも、今まで経験したことがない何かが現地にはあった。だからこそ、千年に一度といわれるこの危機の最先端の場に生かされているという偶然性を意識して、今後十数年間生きるのだから、あのとき行っておけばよかったと後悔しないように、できる限り現地に足を運んで欲しい。ただ、必ずしも現地に行くべきということではないし、現地に関わることをまったくしないということだっていいと思う。それを前提として現地に行くことを勧めるなぁ。

武士 おれは日本人は関心が少ないなと感じた。今はいろいろなツールから情報は手に入るし、交通の便も決して不便じゃない。なのに、現地へ行く人の数は少ない。関心のある人たちだけが集まって何か動こうとしているけど、比率的に無関心層が多すぎる気がする。同じ日本人が当事者なのに、もう少し関心を持ってもいいんじゃないのかなって感じる。

三井 おれは、向き合ってほしいな。今はもう3ヶ月がすぎようとしているけど、向き合うタイミングはいつでもいいと思う。もう一度しっかりと向き合ってほしいな。この震災の復興まで20年、30年はかかるし、そうなってくるとおれらが社会で働いても何かしら影響は受ける。だからこそ、目をそらしちゃいけないと思う。この東日本大震災で起こった問題、浮き彫りになった問題、それらの問題はおれらが死んだあとも続いていく問題。だって原発問題が解決するまであと何年かかるのか。100年以上はかかるはず。そんな大事な問題を考えるべきときに見守っているままでいいの?って思う。見守るんじゃなくてみんな一緒にそれぞれ考えて未来を作っていこうよって思うんだ。

上地 誰かの言葉を介してとか、マスメディアの情報からではなくて自分自身の目で直接見て感じることが必要だね。

三井 そうそう。一人称でこの震災を考えることがいい気がする。




収録を終えて、、、

3人ともほぼ初対面なのに、そんなことを微塵も感じさせない様であった。むしろ進行する私自身が終始緊張していた。さらに、今回の収録現場がいつもの会議室ではなく法政大学の廊下の端っこだったので、学生たちの貴重な声がしっかり録音されているのかが気にかかっていた。しかし、そんな気持ちで取り終えた今回の座談会も、とても有意義なものだった。 

今回のテーマは「被災地にあって東京にないものとは」であった。現地に行ったからこそ感じた思いや、体験談を通してあがってきたのが地域コミュニティや一体感、そして生かされているという感覚であった。

これら全てに共通することとして本来人が持っていたものであるということがある。第二回のこの記事を読んで何か大切なものを思い出して頂けたら幸いです。

池田真隆(オルタナS編集員)