政治家に原発の是非を問いたい


――デモに参加し声を上げることも大切ですが、投票などによって国を動かすことも大事だと思います。デモ以外に、政治家に働きかけることはしないのですか。

山本:今、政治家たちに対して包囲網を作ろうと、皆さんに呼びかけています。「仕事をちゃんとしなければ、落とすぞ」ということをハッキリと政治家に伝える。地元選出の国会議員に対して、電話をして下さい。秘書でも良いから、きちんとこちらの考えを伝えて下さい。

その時に伝えて欲しいことが3つあります。

1つ目は原発についての考えを聞いてください。その時に、重要なのは、長話にさせないことです。YesかNoに近い回答を求めて下さい。言い訳じみた、曖昧な答えを許さないで下さい。イエスかノーで意思表示させることが大切です。

原発について即時停止です、と言えるのは共産党だけです。ほとんどの議員は「段階的停止」と答えるでしょう。でも、僕はインチキだと思っています。エネルギーはもう足りている。これはハッキリしています。この後に及んで段階的停止をする意味があるとすれば、停止までの期間、利権に群がる人びとの懐を肥やすだけです。ですから、段階的停止と答える議員には注意が必要です。

段階的停止と答える議員には、そのスピードを問いて下さい。それと、その先のエネルギーの展望。僕は、原発停止までの間は火力発電でつなぐしかないと思っています。すぐに自然エネルギーで全てをまかなうのは現実的ではありません。研究やインフラ整備には時間が必要です。その間は、環境負荷の少ない天然ガスに頼ることになると思います。

2つ目は福島の「中通り」や茨城の北部、群馬、栃木の一部などの高線量地帯、高汚染地帯に住んでいる人たちについてどう思っているのか。その人たちを疎開させる案をちゃんと考えているのか、その案はいつ提出するのかについて尋ねて下さい。

政治家はお尻を叩かないと動きません。次の選挙を待っている間にも、刻一刻、被爆者は増えています。もし、その議員が高汚染地帯の住民に対する明確な考えを即答できないのならば、それが、その議員の人間に対するスタンスです。

そこに気付かなかった議員もいるかもしれないので、アイデアがなければ、政策にまとめるまでの時間の猶予を与えましょう。その代わり、その間の努力をチェックする必要があります。

最後、3つ目はガレキの拡散についてです。そして、最終処分地に関してどう思っているのかを尋ねて下さい。これについては皆、答えづらいはずです。反感を買うのはこわいですから。

僕が発言するだけでも、もの凄い数の抗議が来ますから。僕の考えでは、最終処分地は、福島の周辺20キロにとどめるべきだと思っています。こういう議論が一般の人びとの間でもっと盛んにされないといけないと思っています。そうでないと国が秘密裏にまとめあげた政策に基づいて、放射能をばら撒かれてしまう。全国に汚染されたガレキを拡散させるのは愚行以外の何物でもありません。

日本全国で原発事故を発生させるに等しい行為です。埋め立てた汚染物質が地下水に流れ込めば、日本から汚染されていない土地がなくなります。それなのに、実行しようとしている。ばら撒こうとしている。そこには裏があるはずです。

――政治家にはどうアプローチするのですか。

山本:地元選出の議員の事務所に電話します。秘書が出たら、期限を設けて回答をもらってください。絶えず、問い合わせの電話が鳴るのが理想的です。

僕は、規模の大小を問わず、皆さんの前で話す機会がある時には「一番良いのはここにいる全員が電話をしてくれること。でも、そうはうまくいかないでしょう。この中の10人だけもいいから行動を起こしてくれると日本は変わります。全員が電話すれば必ず変わる。この町から日本を変えよう」と呼びかけてきました。

――20代の投票率向上を目指すアイ・ヴォートという学生団体があります。彼らは最近、自分の考えに近い環境政策を打ち出す政党を測定するサイトを立ち上げました。

山本:素晴らしい!僕たちも似たようなことをやろうとしています。僕たちは、議員に直接電話をして、そのやりとりを映像として、全国に配信していくことを検討しています。今、そのためのホームページづくりを進めています。


国民の「無関心」が今の社会を作った


――国民が何を求めていて、それに応える政治家に投票するというのは、ものすごく基本的なことで、選挙に行かなければ民意は反映されません。

山本:やはり、自分も含めた世間の無関心がこういう社会をつくってしまった最大の原因です。ほとんどの政治家はどっちが得か、を見ているだけです。

今、不条理を押し付けられている人びとに対して、手を差し伸べている人達は圧倒的に少数派です。無視されている状況です。同じように長期的なビジョンを持っている政治家も圧倒的に少数です。本当は長期的な視野を持ってこの国の舵取りをする人たちがいれば、いいけれど、実際はそうじゃない。

だから、政治家は風見鶏でも良いと思っています。でも、僕を含めた世間の無関心が社会を覆ってきたから、風見鶏が風の読み方を忘れてしまったのです。

だから、彼らに風の読み方を思い出させる必要があります。「風を読め、でないと落とすぞ」というメッセージをはっきり伝える。「次、落とす」ということをハッキリ伝える。一番、政治家が恐れていることをハッキリ伝えるのです。

――投票という国民の権利を行使していこうと広く訴えながら、政治家にも問いかけていくのですね。

山本:問いかけるだけではありません。ハッキリさせます。喉元に突きつけます。こんな社会にしたのは僕も含めた大人の無関心です。ただ、それ以上の責任が政治家にはあります。

だから、政治家一人ひとりの喉元に突きつけるのです。そうしないと手遅れになってしまう。中には「長い戦いになる」という方もいます。でも、僕はそうは思わない。一刻を争っています。すぐに答えを出させます。

――「反太郎勢力」を名乗る人びとにも直接会う理由は何ですか。

山本:彼らの真意を知りたいのです。

――なぜネガティブな発言を向けられると思われますか。

山本:結局、話しかけてきたのは一人だけでした。「お前、この2カ月見てきたけど、随分、楽しませてもらったよ」と。「その会場に来ても、趣旨とあわない」。僕がそこに行く意味がない。これから生きていくことを真剣に考えているひとたちが集う会場に、そういう人が押しかけても困る。趣旨が違う。

どういう意図で、ネガティブなツイートするのか分からない。会場にぶっとばしにくるのか、刺しにくるのか分からない。でも、話あってアジャストできるものならしたいと思ったのです。

トップギアでネガティブなエネルギーを僕に向けている人たちは、誤解がとければ、一緒になって戦える仲間だと思っています。同調して欲しい訳じゃありません。ただ、誤解を解いて、お互いニュートラルな気持ちで、生き延びるための戦いをしたいのです。あり余ったその怒りの力を貸して欲しい。それくらい事態は急を要しています。


「脱原発」を世界に示すことが日本の役割


――ドイツやベルギーでは脱原発が進む一方、アジアではエネルギー大国の中国や巨大な原発産業を持つ韓国があります。日本以外の国の動きについてどう思われますか。海外の市民運動と連帯するお考えはありますか。

山本:原発は世界中の問題です。ですが、まずは自分の国を何とかしないと他の国に意見をすることはできません。このままでは、悪い例として残るだけです。今やるべきことは、「あれだけの事故を経験し、脱原発社会を実現しました」という姿を世界に示すことです。原発は不安定であるということを世界中に発信することです。

自然エネルギー社会までは火力発電でつないで、その間に、十分な研究をして、自然エネルギーでこれだけのものを生み出せるのだ、それによりこれだけの雇用創出もできるんだという姿を世界に発信したいですね。

転んで、そのままじゃダメですよね。転んだら、なんとしても起き上がろうとする姿勢が必要です。でも、今の日本は転んだままです。白骨死体化しつつあります。

原発の事故は、確かに最悪な出来事でした。でも、転んだ先にダイヤモンドが見えています。手を伸ばしてこれを掴むべきです。最悪な事態だったけれども、同時に良い方向に転換する機会を得たのです。そのための材料はころがっています。

――今後はどのような活動を予定されていますか。

山本:11月24日から12月25日までドイツ、ベラルーシ、チェルノブイリを訪れます。一つは現地の市民運動のあり方を視察することです。日本ではデモ隊が3列から4列になっただけで、デモ参加者が逮捕されるのが現状です。不当逮捕です。

ドイツでは核燃料を鉄道で運ぶそうです。その鉄道が自分たちの町を通ることに抗議した住民たちが鉄道の侵入をおくらせる。抗議しても、逮捕されるようなことはないそうです。ドイツでは何かに抗議することは権利だそうです。だから逮捕にも相当しない。その成熟した社会での市民運動のあり方を見てこようと思います。]

子どもの人権擁護団体はなぜ原発に無関心なのか


――ドイツの記者からも、グリーンピースをはじめとする市民団体の力がドイツ政府を脱原発に向けて大きく動かしたと聞いています。

山本:フットワークが軽いですよね。3.11の時、「グリーンピースなにやってんねん」、「何も聞こえてけーへんぞ」とイラっとしていました。でも、違いました。彼らはきちんと根回しをしていたのです。オランダ政府に掛け合い、放射線測定の専門家に協力を要請していました。

3.11以降、本当の姿をさらしたのは、国だけではありません。人もそうだし、団体もそうです。それまで、グリーンピースは誤解されていました。でも、震災をきっかけに彼らの本当の姿を見てもらうことができた。それはサポーターとしてすごく嬉しいことです。

その一方で、アムネスティ・インターナショナルやヒューマン・ライツ・ウォッチといった世界中の人権に目を光らせていたはずの団体が、福島の子どもたちの問題に関しては大きなアクションを起こしていません。その事に対して、本当に強い憤りを覚えます。

日本で起こったことに対して声を上げる事ができない団体ならば、日本に支部を置く必要はありません。僕はヒューマン・ライツ・ウォッチの土井香苗代表宛に何回かツイートを送りました。

「福島の子どもたちの命が脅かされているのに声を挙げない理由を教えて下さい」「外国での活動は素晴らしのことは認めるけれども、どうして声をあげないのですか」と。

返事はありませんでした。皆さんの寄付から成り立っているのにやるべきことをやらない団体に対しても、政治家と同様、明確な回答を求める必要があります。是非、オルタナが切り込んでください。

ただ、そういった規模の人権団体でも活動を躊躇するほど、原子力産業の闇は深いです。だからこそ、世界中のセレブ、例えば、ハリウッドスターたちはダルフールやチベット問題に関しての発言はするけど、日本の原子力に関して、そしてそれによる不利益を被った子どもたちに対しては何も言わないですよね。

他国でおこった大量殺戮に関しては手をさしのべるのに、日本で現在進行している大量殺戮に関しては声をあげない。それは、彼らも不利益を被るからだと思います。