元ひきこもりや元ニートが活躍している。かつて、人付き合いを苦手とした彼らは起業家やNPO代表として、第一線で働く。「元○○」は単なるブームなのか、それとも、元ひきこもりだからこそ得た何かがあるのか。(オルタナS副編集長=池田真隆)

先に行われた東京都知事選に立候補した家入一真氏(35)は元ひきこもりだ。支持基盤・団体もなかったが、ネットで多くのボランティアを集め、約9万票を獲得し、主要候補者に次ぐ5位となった。

家入氏は小学生のとき、クラスでいじめに遭い、学校に馴染めず高校1年生の時に中退する。それ以来、約3年間ほどひきこもりになる。選挙では、自身の経験から、「ひきこもっていたり、いじめを受けて居場所を感じられない若者の声を届けたい」と主張した。

ひきこもり経験を生かした選挙活動をする家入氏

2月13日に日本武道館で行われた、夢と実現性を競い合う「みんなの夢AWARD4」で451人の中からグランプリに輝いた、早稲田大学創造理工学部に在籍するロボットコミュニケーターの吉藤健太郎氏も元不登校だ。

吉藤氏が開発した「オリヒメ」

吉藤氏は、幼いころから体が弱く、小学校5年生から中学2年生までの3年半、学校にほとんど通うことができなかった。

吉藤氏は、分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」を開発した。家や病院のベッドにいても、パソコンや携帯電話で操作することで、モニターを通してオリヒメが見る景色やそばにいる人と会話したりすることができる。部屋の中にいても、オリヒメが動けば一人にならない。

「孤独というストレスをなくすことが『使命』。二度とあのころの思いはしたくない。人生をかけて使命を果たしたい」と1万人の観衆に叫んだ。

原体験の不幸度と成長速度の関係性

通信制高校の進路支援を行うNPO法人D×P(ディーピー)の今井紀明共同代表(28)も壮絶な過去を持つ。今井氏はイラク人質事件で拉致された3人のうちの一人である。2004年、当時18歳であった今井氏は劣化ウラン弾の絵本を書く為の取材としてイラクに入国。イラク戦争が行われている最中であり、武装勢力に拉致されてしまった。

無事解放はされたが、帰国した今井代表に待っていたものは、相次ぐ批判と暴力であった。「危険だといわれていた地域になぜ入国した」という無数のバッシングが今井氏の自宅に届けられた。さらには、突然通りすがりの人に殴られてしまうこともあったという。

今井代表自身が「社会に拒否された」と語るこの経験が背景にあり、ディーピーを設立した。「自分の中で悩みを抱え込み、何らかの原因で通信制高校に通わざるを得なかった生徒たちが社会に出る手助けをしたい」。

20代社会人が講師となり、生徒と「夢」や「失敗談」、「挫折の乗り越え方」などをテーマに話し合う支援活動を展開する

通信制高校の生徒が卒業後に、進学も就職もしない割合は49.5%(2011年度文科省発表「学校基本調査」を基にNPO法人D×Pが算出)。一方、2009年度の高等学校卒業者数は106万3千人。そのうち、卒業後に進学も就職もしない者は5万5千人であった。割合としては、わずか5.2%である。通信制高校卒業者の大半は生活不安定者となり、社会的に弱い立場に立たされてしまう。

社会起業家に必要とされるものに「志」がよくあげられる。そして、その「志」を育むためには、原体験を持つことが良いとされる。NPO法人ETIC.(エティック)では、社会的事業を行う団体に、大学生をインターンとして送り込む。過去2500人の大学生が参加して、250人が起業した。目を見張る活躍をする学生には共通点があるという。

震災復興リーダー支援プロジェクト事務局に務める山中資久さんは、「家族や近しい人との別れなど、不幸な経験をした学生は爆発的に伸びる」と話す。その意味では、東日本大震災で被害を受けた東北の学生たちは多いに期待できると言う。

厚生省の調査では、若者無業者は2011年に約60万人とされている。先述した3人の例を見ると、元ひきこもりや過去に傷ついた経験が、人生に及ぼす影響は負の面ばかりではないことが分かる。ただし、誰しもがプラスに変えられるわけでなく、トラウマを抱えて生きづらさと戦っている人もいることは事実だ。