人生とは決断の連続だ。決断によって人生は左右されると言っても過言ではない。そこで、30代で現役引退を決意し、第二の人生を歩み始めた為末大さんと、同じく30代で日本を離れニュージーランドへの移住を決意したライフスタイルプロデューサーの四角大輔さんに、「決断」をテーマに話し合ってもらった。vol.1では、「型を破ること」の必要性を、vol.2では、「努力を結果で判断しない」大切さを話した。(聞き手・オルタナS副編集長=池田真隆)
——ご活躍されているお二人ですが、これまで「逃げた」ことはありますか?
四角:ぼくの人生の中で、逃げはテーマの一つです。「逃げ」という言葉は日本語だとネガティブに聞こえますが、英語だと「エスケープ=Escape」で、回避やバカンスなどの意味合いを持ち、ポジティブなイメージもあります。
さきほどから、「我慢や型」といった日本の精神性を否定するような意見を言っていますが、前提として、日本のストイックな精神性はぼくのルーツでもあります。その伝統的な型や精神性を身につけたからこそ、今の自分があるからです。
しかし、「男なら逃げてはいけない」という言葉には縛られていました。逃げるという選択肢がなかったので、型から抜けられなくなり閉塞感に苦しみました。それが自分を解放できない原因だとわかってからは、逃げ道を用意した上で挑戦するようになりました。
為末:常に退路を用意しておくのは上手な生き方ですね。よく言われている「退路を断つとやる気がでてくる」というのは、ある意味ブーストみたいな一瞬のものだと思っています。ここ一番以外で使うには、あまりにリスクが大きいです。
四角:「退路を断つ」と、瞬間的には爆発的な勢いを得られますが、継続力にはつながらないですね。
為末:高校時代の座右の銘を見れば選手寿命がわかるという説があります。「忍耐」や「我慢」、という言葉を座右の名にしている選手は、あるときふっとモチベーションが切れる瞬間があるといわれています。
ずっと同じ言葉を座右の銘にしていると、その言葉から逃れられなくなるので、常に変化している選手が長く続けられるといわれているのです。
四角:ぼくは、2007年から大学で非常勤講師をしているのですが、一番伝えていることは、「捨てること」です。そして、その次に伝えていることが、「変化し続けろ」ということです。
ただ、なかなか「変化し続けろ」と教える先生はいないので珍しがられます(笑)。
為末:小学生の習字でも、「臨機応変」よりも、「初志貫徹」の方が人気ありますし、そもそも「臨機応変」なんて書く小学生がいたら怒られそうですしね(笑)。
四角:ですね(笑)。ただ、日本人は「初志貫徹」に縛られている人が多過ぎます。高度成長期からバブル期までの、連続性のある社会構造ではそれで良かったのですが、1年後が読めない今は変化し続けないと生きていけない時代です。
ダーウィンが進化論で述べているように、強いものよりも変化していけるDNAが残り続けると思います。変化したいと叫んでいる自分の心の声に耳を傾けてほしいです。
現代人は、会社でコミュニケーションを取り、新聞やインターネットなどから情報を取り、空いている時間にソーシャルメディアで誰かと会話します。特に、若者はこのように「24時間なにか(誰か)とつながりつづける生活」があたりまえのことと思っています。
でも、「常時オンライン接続」のままでは、一度も自分の声を聞く事ができないで、時を過ごしてしまいます。
為末:今までは、決めた道を貫き通すことが勧められていましたが、これからは、社会が変化していくので、それに合わせて自分も変化していかなくてはいけないと感じています。
また、情報を断つ、人とのつながりを断つことに価値を置いてもいいのではないかと思っています。自分が冷静になれる瞬間はすごく大切になってくるでしょう。いまは、ずっと祭りの中にいる気分です。
例えば、ぼくは陸上選手を引退してから実感したのですが、人間には2つの体力があるのではないかと思っています。一つは肉体的な体力です。この体力は、寝れば回復します。
もう一つの体力は寝ても回復しません。特に、仕事をしてみて実感したのですが、身体は元気なのに、どこか別の疲れが残っている感覚です。
ぼくの場合は、この体力を回復するために、夢中でスポーツをするのですが、この体力を回復するには、何かに夢中になることが必要なのだと仮定しています。
四角:今の社会は、異常なくらいの情報ノイズジャングルです。昔は仕事とプライベートがオンとオフになっていました。今では、仕事とプラベートの境目がなくなってきているので、プライベートにも仕事にも、オンラインとオフラインの時間をそれぞれ持つようにしました。
なぜならオンラインの状態では、人は「集中状態」には絶対になれないからです。ぼくにとってオフラインタイムこそクリエイティブになれるときなのです。
為末さんなら、「夢中になって」走っているときが一番クリエイティブな状態だと思うんです。ぼくにとっては山を登ったり、釣りをしている時間などがそうです。
釣りをする時間など、「何の生産性もない」と笑われますが、ぼくにとってはもっともクリエイティブな時間なのです。
それは自分自身と向き合っている、完全なオフライン状態だからです。その時に、「もしかしたら自分は型にはまっていたのでは」と気づくこともあります。人間が変化できるのは、そのような時か、外から強い衝撃を受けたときのどちらかだと思います。
為末:オフラインになると、祭りから遠ざかっていきますね。盆踊りを踊るのと、外から眺めるのとでは違うように。外から見たときに、滑稽だったのか、そもそも踊りたかったのかと考えることができる。そういう考察ができるのが、オフラインの時間なのだと思いますね。
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・「若者たちよ、レールからはみ出よ」侍ハードラー 為末大
四角大輔|Daisuke YOSUMI
Lake Edge Nomad Inc.代表/
ソニーミュージック、ワーナーミュージック在籍中に10数組のアーティストを担当し『無名の新人をブレイクさせる達人』と称された。掟破りを信条とし、イノベーティブな仕掛けを次々と展開。数々の年間1位や歴代1位、20回のオリコン1位、7度のミリオンセールスを記録し、CD売上は2千万枚超。現在は、原生林に囲まれたニュージーランドの湖畔と東京都心を拠点にノマドライフをおくりながら、企業やアーティストへのアドバイザリー事業、執筆及び講演活動、フライフィッシングやトレッキングの商品開発などを行う。登山、アウトドア雑誌では表紙にも頻繁に登場。上智大学講師を務め「ライフスタイルデザイン/セルフプロデュース」をテーマとした講義を複数の大学で実践。「ソトコト」「PEAKS」「フィールドライフ」「Fly Fisher」などのネイチャー系雑誌にて連載中。著書に「自由であり続けるために 20代で捨てるべき50のこと」「やらなくてもいい、できなくてもいい~人生の景色が変わる44の逆転ルール」Fly Fishing Trip(共著)」。
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為末大:
1978 年5月3日広島出身世界大会において、トラック種目で日本人初となる2つのメダルを獲得した陸上選手。 『侍ハードラー』の異名をもつ世界ランク5位(自己最高)のハードラー。 身長の大きい選手が有利である中、170 センチという体躯ながら、ハードルを越えるテクニックで世界の強豪と対等の戦いを展開する。 2001年世界選手権で、銅メダルを獲得。2005 年ヘルシンキ世界選手権で、豪雨の決勝の中、銅メダルを獲得。2012年に現役を引退。11月22日には、著書「走りながら考える 人生のハードルを超える64の方法」を発売。為末大の生き方、考え方、挫折や苦悩、恥など、心の中に立ちはだかるハードルをいかにしにて乗り越えるのかなど、生き方のヒントとなる考えが収録されている。
・為末大学