北海道札幌市にある中西出版は北海道の歴史や自然、文化に関連する書物を扱っている地方出版社だ。社員は5人だが、30年にわたって北海道の魅力を書籍で発信しており、北海道における地方出版社の中核的な存在となっている。(武蔵大学松本ゼミ支局=反田 実穂・武蔵大学社会学部メディア社会学科2年)

札幌市東区にある中西出版

近年多くの世代で本離れが急速に進んでいる。特に少子高齢化による人口減少が著しい地方では、その地域の文化を支える情報発信の担い手だった地方出版社が、縮小する市場で東京の出版社と競合し、非常に厳しい状況に置かれている。

本州とは海を隔てて独自の風土や文化に恵まれた北海道も、例外ではない。こうした中北海道の出版文化の存続と道民の読書習慣の向上に向け、地方出版ではまだ数少ない電子出版に力を入れている出版社がある。

武蔵大学松本ゼミでは、そうした地方出版では珍しい電子出版に力を入れている北海道札幌市にある中西出版を訪問し、代表取締役の林下英二さん、常務取締役の河西博嗣さんに、これからの地方出版に必要な取り組みについてお話を伺った。

中西出版は1988年に中西印刷の出版事業部から独立。以後約30年間、事業を通して、北海道の地方出版の中核的な存在として多くの地元の本の出版を手掛けてきた。社員は5名で、他にデザイナーなど、社外スタッフを抱えている。

中西出版では主に北海道の歴史や自然、文化に関連する書物を扱っており、売り上げの比率は道外が2割、道内が8割を占めている。「本を作る人も題材も読者も北海道にこだわり、地元の人に地元の良さを伝えることを目標に本をつくっているため、それだけ地元の読者に多く読まれているのではないか」と林下さんと河西さんは語る。

地域をテーマにした本で近年、大きな話題となったのが、北海道を舞台にその魅力を伝える絵本「おばけのマ~ル」シリーズだ。2005年に『おばけのマ~ルとまるやまどうぶつえん』が出版されて以来、雪まつりや科学館などを舞台にした作品が出版されて、今年春には白老町に誕生するアイヌ文化復興等のナショナルセンターであるウポポイ(民族共生象徴空間)を舞台に、第10作目となる『おばけのマ~ルとすてきなことば』が発売される予定である。

こうした地域に根差した本を出版しつつ、それを多くの読者に読んでもらうため、中西出版では道内出版社の中では最も早く電子出版事業に取り組んでいる。2013年に道内の他の出版社に呼び掛けて一般社団法人北海道デジタル出版推進協会を設立し、林下さんが理事に就任した。こうして電子書籍化の取り組みは道内で徐々に広がり、2014年の札幌市中央図書館リニューアルオープンの際には、電子書籍閲覧サービスが開始された。

近年ではSTVのラジオ番組で北海道の歴史で重要な役割を果たした人をとりあげて大きな話題となった「ほっかいどう百年物語」の書籍化をしたが、その電子版では読者が関心のある人物やコンテンツ毎にばら売りもしている。

河西さんは中西出版のこうした手法を、「紙と電子のハイブリッド」と表現する。読者に出来る限りの選択肢を提供し、本に触れる機会を増やすことが読書習慣の向上に繋がっていくと考えているという。

代表取締役の林下英二さん(左)と常務取締役の河西博嗣さん(右)

今日、娯楽の多様化やSNSなどのメディアの出現により、全国的に読書離れは深刻化している。ターゲットを地域の読者に地域の魅力を伝えていくことに絞り、それを若い世代を中心としたデジタルデバイスで情報を得る習慣の広まりを踏まえ、紙媒体と電子媒体の双方で出版して読書習慣を維持していこうとする中西出版株式会社の取り組みは、これからの地方出版にとって重要である。




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