去年4月、一人の若者が縁もゆかりもなかった東北に移住した。彼は法政大学(東京・市ヶ谷)在学中には、就職活動をせず、卒業すると岩手県陸前高田市広田町に単身で移住した。この町のために何かしたいという思いで、現地でのボランティアコーディネートやパソコン教室などを行う。移住して約1年、「東北の人は丁寧に生きている」と、話す。(聞き手・オルタナS副編集長=池田真隆)

三井俊介さん

——東北へ移住してそろそろ1年が経ちます。

三井:東北で暮らす人たちは、生活と仕事と趣味が一貫していますが、東京だとこの3つが分離している気がします。家、仕事、趣味がそれぞれ別れているので、その結果、自己が乖離してしまうのではないでしょうか。

東北だと全部同じなので、この3つの中心に自分がいます。だからこそ、人からの見られ方はどこをとってもその人自身だと見られます。1個1個の仕草や行動を、丁寧にしていかなくてはいけません。

——東北で暮らして、改めて気付けた幸せがあるそうですね。

三井:小さな幸せがたくさんあります。東北で豊かに暮らしていくには、そのような幸せに気付けるかが大事だと思います。季節の移り変わりや花の開花、旬の食べ物の時期などです。

小さな幸せに気付いて楽しめれば、豊かに感じますが、そういうことに気付けないと楽しくはないのではと思います。小さい幸せだからこそ、丁寧に一個一個見ていかないと見つかりません。

「覚悟がない」と言われ続けた理由

——小さな幸せに気付いたエピソードはありますか。

三井:今年のお正月は、筑波の実家に戻り、5日に東北に帰ってきました。すると、家にしめ縄が結ばれていました。地元の人が付けてくれていたのです。

近所の家もしめ縄を付けていて、ここの人たちは一個一個の伝統行事を大事にしているのだと感じました。正月を皆で祝っているその雰囲気が素敵だと感じました。この体験から、東北で暮らす人は丁寧に生きているのだなと思いました。

気候によって仕事ができないときがあります。例えば、海が荒れていれば漁には出れませんし、雨が降ったら農作業もできません。いつでもできるわけではないので、できる時間を大切にしています。


——今でさえ仲間3人と暮らしながら、活動を続けていますが、単身で東北に移住したときは不安になることはありませんでしたか。

三井:雄大な海を見ていれば、なんとなく心が落ち着きますし、星空を見上げれば感動するほど綺麗な景色が広がっています。悩みや不安などはありましたが、小さいことには気にしなくなりましたね。

——移住したばかりの頃は、広田町の人たちに、「お前には覚悟がない」と言われていたそうですね。

三井:移住したばかりの頃は、お前には覚悟がないとよく言われていました。東京で、社会人に被災地に行く旨を話すと、「大学を出て企業に就職する道を捨てて、東北に移住する」という文脈で伝わります。しかし、広田町ではその文脈では伝わりません。広田町には広田町の文脈があると知りました。

移住して広田町の住民から、「年収いくら稼ぎたいのか」と聞かれました。「いや、お金じゃないのです。広田のためになることをやっていく過程で、結果としてお金が生まれることになると思うのです」と答えました。

広田町の文脈からすれば、「こいつはいつでも逃げるかもしれない」、「根付く気がない」、「ここで暮らしていくには最低でもこれだけ必要だとわかるはず」、だから、「覚悟がない」と言われ続けました。

一個一個の会話の中で、広田町の文脈を感じ取っていくことが大切だと感じています。こちら側が暗黙の了解として感じていた部分も、しっかりと話していかないと伝わりません。何事も丁寧に話していかないとわかりあえないですから。


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