−−そのような福井さんの行動で、町で当たり前だと思われていたことが変わった例などはありますか。

福井:例えば、出張や研修に行ったときには、役場に報告する文書を提出しなければいけません。その文書には、客観的なことだけを書く決まりがありました。しかし、あからさまに主観を入れて書きました。出張先で見た良い所や参考にできることを、感想をまじえながら提出したのです。

最初は、「なんでそんなこと書くの?」「そんなこと書いても意味ないよ」と、批判を受けました。でも、書き続けていくうちに、「筋のいいこと書くね」と言われたり、「客観的なことだけを報告することこそ、意味がないのではないか」と議論する種になりました。

−−プログラム期間である1年を終えて、もう2年間やり続けると決めました。そのために、大学を一時退学することを決めましたが、福井さんをそこまで動かした原動力は何でしょうか。

福井:同じように地域活性化をしている人に話を聞いていると、「地域のため」や「社会を変えるため」と聞きますが、ぼくはそのような立派なことは考えていません。

仕事では、高校生と津和野の魅力を考える機会が多いのですが、指導した生徒に、「大学出たら修行して、津和野に戻ってきて、福井さんなんか超えてやるから、それまで待っていろよ」と言われました。

「津和野が危機的状況にあるから、福井さんだけに任せるわけにはいかない。おれらも戻ってやらないといけない」。こんなことを言われると、こいつらが帰ってくるときに、活躍できる場所を創っておかなくてはいけないと思ってしまいます。

−−福井さんは、高校生の教育支援を行っています。衰退化している津和野町のためにはどのような若者を育てていくことが必要でしょうか。

福井:これはあくまでぼくの私見ですが、地元に対する思いと、この危機を何とか自分たちの手で乗り越えていきたいという志を持った人を育てていかなければいけません。

世界的な視野と社会人基礎力を備えた人で、津和野にはないものがある場所で経験を積み、ゆくゆくは津和野に帰ってきて、何かできる人物です。

最終目的地を津和野に定めて出て行く人間を育てていかない限りは、いくら新規事業や新しいビジネスの支援を町がしたところで、町にとって有益にはなりません。

−−若い人が県外に出て行く理由は何があるのでしょうか。

福井:町側でよく言われるのが、帰ってきても雇用がないということです。でも、ぼくには、そもそも帰って働く場所を作る気がないように思えます。既にある組織に務めることだけが働くことではありません。働き先がないなら、作ればいいのです。

確かに津和野は穴だらけです。でも、本当にやるべきことは津和野にも残っています。


・福井さんが町長付として活動しているプログラム⇒Innovation For Japan


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