「いつかは社会起業家になりたい」と考えている学生は多い。そうした学生が次に考えるのは「資金やビジネススキルを手に入れよう」ということ。そして目指すのは総合商社やコンサルティングファームといった短期間でビジネス能力がつくとされている世界。
「しかし、本当にそれが近道なのか」と疑問を投げかけるのが株式会社ボーダレス・ジャパン代表取締役副社長の鈴木雅剛さん。“社会起業家のプラットフォームカンパニー“を標榜するボーダレス・ジャパンの設立経緯と事業、将来的なビジョンを聞いた。
■賃貸仲介事業で見つけた社会起業の必要性
ボーダレス・ジャパンを立ち上げたのは、田口一成さんと鈴木雅剛さん。学生時代、途上国のNGOやNPOが資金繰りに苦しむ姿を見た田口さんは、寄付に頼らない形でのビジネスを通した社会貢献のあり方を以前から考えており、新卒で入社した企業で同期だった二人は2007年に退職し起業した。
とはいえ、最初から「社会起業」にこだわっていたわけではなかった。会社設立当初の事業は不動産の賃貸仲介。というのも「ビジネスで得た利益の一定割合をNPOなどの活動などに回す」という形をとっており、事業そのものには社会貢献を求めていなかった。
新しい手法で始めた賃貸仲介事業は評判となり成功した。しかしその中で出会ったのは差別で住居を得られない人々。海外から留学してきた学生や老人夫婦などは、不動産業者が入居を拒むケースが多々あり、仲介業者にはそれを変えることができなかった。
それならば、と始めたのがシェアハウス事業の「ボーダレスハウス」。第一号の物件は、そんな話が上がった3時間後に決まったという。外国人と日本人が半分ずつ入居する「BORDERLESS HOUSE」は50棟近くを運営し、今では中心事業の一つとなっている。
これ以降、ボーダレス・ジャパンは普通のビジネスはやらない、と決意する。
社会問題を解決する「ソーシャルビジネス」を次々と生み出すために、熱い志を持った優秀な仲間が集い、会社のリソースを使って「世界を変える」ために事業に集中できる、そんな企業。それがボーダレス・ジャパンの掲げる“社会起業家のプラットフォームカンパニー”なのだ。
■経営は会社がやる。事業運営は社会起業家がやる。
「起業に必要なのは『会社経営』と『事業運営』の力。両方を成立させないと会社はすぐに潰れてしまう。実際に夢半ばで潰えていく人が非常に多い。しかし、せっかくの志がそのために立ち消えになってしまうのは本当にもったいない」と鈴木さんは言う。
ボーダレス・ジャパンが社内に起業家を呼びこもうとしているのはこの点にある。事業を起こしたい人がこの会社に入社すれば『会社経営』は会社がやってくれる。また資金も人材も会社が用意する。これで『事業運営』に集中できるだけでなく、会社が持っている様々なノウハウを活用することで『事業運営』も成功確率が非常に高くなる。
「学生はすぐに商社やコンサルでビジネスを学びたいと言います。だけど本当にそれが起業のために近道なのでしょうか。私が新卒入社した会社の上司はマッキンゼーの出身でしたが、たかだか新卒の私が熱意で遂げた仕事を“マッキンゼー5年目レベル”と評価してくれました。当時私は新規事業を創り出す責任を負っていましたが、結局『その事業に本気で取り組んでいる者は、間違いなく誰よりもその事業のことを一番考えるし、必要な知識や経験は走りながら死ぬほど勉強したり、プロフェッショナルを巻き込んで取り込めばよい』ということを確信しました。結局、社会を変えるような事業を生み出したい!と思っているのなら今すぐにスタートすべきです。本当に時間がもったいない。」
ボーダレス・ジャパンが目指すのは数十億円規模の事業が300ある会社。一つの企業では事業分野が限られたり、事業が失敗することで雇用の代替が効かなかったりする。細かい事業が多く集まることで社会全体を包括する事業集合体こそがボーダレス・ジャパンの存在意義なのだ。
■市場での戦いに勝ったフェア・トレードのハーブティー「AMOMA」
ボーダレス・ジャパンでもフェアトレードを行なっている。商品はスリランカなどの途上国産オーガニックハーブを原料として使用しているハーブティー。
フェアトレード商品でも「途上国の貧困層のために」というキャッチフレーズでは、日本においてほとんど売れないのが現状だ。しかし、圧倒的な価格競争力を持つプランテーション栽培商品が存在する中では、新しいマーケットを切り開かない限り後進の企業が既存市場で勝つのは非常に難しい。単純な価格競争をしてしまえば、それは結果としてフェアトレードの目的を逸することになる。
そこで目をつけたのがハーブの薬用効果。そして薬を飲むことのできない妊婦さんや授乳期ママにこそ、ハーブティーが必要だと考え、2010年に助産師さんの監修の下で妊婦さん用、授乳期ママ用ハーブティーを開発した。様々なメディアでも取り上げられたこの商品は爆発的なヒットとなり、翌年には楽天市場マタニティ食品部門で一位を獲得した。
さらにこの3月からは、第三弾プロジェクト「スタディーツアー事業:ボーダレスフィールド」がスタートし、更に現在、第四弾プロジェクトの開発が進んでいる。
ボーダレス・ジャパンが目指すのは飽くまでもビジネス。そしてそれをきちんとバックアップする十分な力がある。
鈴木さんも「目的が、社長になることであれば、自分で起業した方が良いでしょう。でも、社会を変える、という志のために起業したり、どこかの企業で修行しようとしているのであれば、ボーダレス・ジャパンという会社を使う方が、間違いなく目的を達成するには最短距離だと思います。世界を変えたいと本気で志す学生には是非うちに来て欲しい。会社自体はどんどん成長しており、資金はあるけれど人材が足りない。ベースの能力さえあれば、一から社会起業家に叩き上げる環境がある。」と意気込む。
社会起業家が一種のブームになる昨今、ボーダレス・ジャパンは一線を画す。ジャンルを問わず、社会起業家が一同に集まる会社として、会社の成長が社会を静かに変えていく。(オルタナS編集部員=大下ショヘル)