感覚や知能ははっきりしたまま、全身の筋肉が痩せ、自由がきかなくなる難病ALS(筋萎縮性側索硬化症)を患う藤田正裕さん(33)が11月20日、『99%ありがとう ALSにも奪えないもの』(ポプラ社)を出版する。現在は、顔と左手の人差し指しか動かないため、視線とまばたきで操作するパソコンのアイトラッキングシステムで書き上げた。発症原因も治療法も不明な難病と闘う男が伝えたいものとは。(オルタナS副編集長=池田真隆)
藤田さんをALSがおそったのは2010年11月、30歳のときだ。ALSは、全身の筋肉を弱らせ、次第に呼吸に必要な筋肉も弱っていくため、余命3~5年と言われている。発症原因は不明で、有効な治療法も確立されていない。
藤田さんは、2011年3月から車椅子に乗り、現在は24時間ヘルパーに看病してもらいながら生活を送る。今年1月には気管切開を行い、胃ろうで栄養を取っている。気管切開によって声を失い、現在動くのは、左手の人差し指と顔の筋肉のみだ。
ALS患者は世界に12万人、日本には約9000人いる。延命するためには、体力や精神力に加えて、経済性も必要だ。「生活をするために使う一部の器具や、看病してもらうヘルパー代の一部は保険の適用外である。支えてくれる友人や家族がいない人や収入がない人にとっては自己負担額が重荷となり、気管切開をせず、死を選ぶ」(藤田さん)。
この思いから、藤田さんは2012年に、一般社団法人END ALSを立ち上げた。同団体で、治療法の確立と政策提言への貢献を目指す。
難病と闘っているが、国際広告会社マッキャンエリクソンに勤務し、現在もアイトラッキングシステムを利用し、週一出社と在宅勤務をこなす。病気に発症する前と変わらず、広告プランナーとして活躍する。
著書では、突然発症した難病への怒りや、厳しい現実と向き合い闘う決意をした覚悟が書かれている。日本語で書かれ、全文英訳付きだ。藤田さんと親交が深い、ギタリストのCHAR(チャー)は、ALSが誰にでも発症する可能性があることを踏まえ「ヒロの独り言は、私の事であり、あなたの事です」とメッセージを送った。