タイトル:電園復耕~大通りからそれて楽しく我が道を歩こう
なぜ人を押しのけて狭き門に殺到するのか?自分を愛し迎えてくれる人たちとの人生になぜ背いて生きるのか?
この書き下ろしは、リクルートスーツの諸君に自分の人生を自分で歩み出してもらうために書いた若者のためのお伽話である。(作・吉田愛一郎)
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◆トロピカーナ
まだ赴任地が決まっていないとの事で、末広と小室それに二人の技師はナイロビの西端のウエストランドのホテルに当面の間宿泊することになった。技師二人の名前は東山と西村で実に謹厳実直な男たちで、殆どホテルを出ずに真面目に待機していた。末広と小室は到着したその日から付近の探検を始めた。ドルと円しか持っていないので「バスにものれへん」という小室と二人で、街の中心まで歩いて行こうということになった。ジャカランダの咲き誇る並木道を歩いて行くと、中年のインド人が声をかけてきた。シリング紙幣の束をかざしながら近づいてきた。どうやらドルとケニアシリングとを交換してくれるらしい。末広が10ドル紙幣を差し出すと百ケニアシリング札を10枚くれた。
小室も「地獄に仏とはこういうや」といって10ドル紙幣を換えて貰った。もっと替えてやると言ったが、持ち合わせはこれだけだと言うと、二人のホテルの名前を聞いて立ち去った。
しばらく歩くとバスが黒煙を吐きながらやって来たので手を上げると止まってくれた。
「ありがてえ国ですね」
「そやなあ」
二人はバスの前の扉からバスに乗り、末広がケニヤッタ大統領の肖像画を赤紫色で印刷してある10シリングを運転手に差し出すと運転手は「アサンテサナ」といって紙幣を受け取った。
「ナイロビの中心まで二人できっちり10シリングで良かったですね」と末広が言うと、小室も「手間いらずの便利な国や」と答えた。
車内は満員状態なので、二人は運転席の隣に立つことになった。運転席のシフトレバーから白煙が上がっていた。「ヤバくねえですか」「だいじょぶやろか」そんなことを言っているうちにバスは市内に入った。「なんや知らんがこのへんで降りよか」小室が言って二人は大きなモスクがある広場でバスを降りた。アザーンというコーランの朗踊がのんびりと厳かに流れていた。
「なんか喰えへんか」
TROPICAと言う看板があるカフェの様な所に入った。学食のようなテーブルに着くとウエイターがやってきた。
「まずビールや」と小室が言うので「ツービアー」と末広が英語で言った。
ウエイターが「モト?バリリ?」と聞くので意味が分からず「モトバリリ」と答えるとウエイターは「リオ」と言って奥のバーカウンターに向った。「末広は英語がうまいな」
「英語じゃねえっすよ。何って言ったか分からねーから野郎のいったことを繰り返しただけっすよ」
ウエイターがビール瓶を二本を持ってきた。中ビンで象の画が描かれたラベルが貼ってあった。
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