ダイバーシティが求められる中、まず私たちは何からするべきだろうか。聴覚障がいを持ちながら富士通の商品企画部門で障がい者の当事者ユーザーとして働く渡辺儀一さんから寄稿してもらった。

ダイバーシティの概念と機会均等の社会的な側面を企業の人材戦略として、生産性向上とビジネス価値創出を高めていく狙いがあることは周到の上である。従来の男性社会いわゆる同質な従業員による労働力社会から転換することができるリーダーの輩出が必要になると考える。

そのリーダーとはダイバーシティそのものの中心となる当事者自身であり、かつ主体的に率先して取り組むことができる人であるが、それをおこなうための組織的なオーソライズのハードルがある。それは「会議」というコミュニケーションの壁であり、特に聴覚障がい者にとってはその会議におけるコンセンサスを得ること自体が非常に難しい問題がある。

たとえば、外国人には通訳者が必要という考えと同じように、聴覚障がい者にも同様に何らかの通訳が必要という考えがまだ認識されていない実情がある。人としてのコミュニケーションの機会均等などの権利があることから、人権と関連して配慮もしていかなければならないということの認知もまだ徹底化されていない課題がある。

「仕事は会議で場をつくり結論に導く」といわれるように、ダイバーシティを推進していく上では会議の場におけるコミュニケーションの機会均等などと情報保障は欠かせないものである。

■これからのダイバーシティのあり方

ダイバーシティを推進するためには当事者自身が積極的に行動を起こして、提言をしていく必要があるが、そのためには組織に求められる役割や成果に対する勤務のあり方などを職場の上司と十分に話し合うことである。そのための会議における「コミュニケーションのダイバーシティ」という概念を当事者自ら提言していく必要がある。

ダイバーシティは人の属性だけでなく、その属性が持つ発信も包含して考慮しなければならないことを、ダイバーシティのマネジメントの一つとして忘れてはならない要素であることを認識する必要がある。

障がいの当事者としての視点を本業に生かす渡辺さん

渡辺儀一:
企業の商品企画部門で障がい者の当事者ユーザーとしての視点や観点を、ユニバーサルデザイン・ダイバーシティ・CSRなど幅広い研究活動を通して、聴覚障がい者の視座で商品企画に反映するリーダーを担務。企業が世の中を変えることができる商品とは何かを探究するために、当事者自身が主体的に取り組むことの大切さをアピールしている。富士通株式会社勤務。静岡県沼津市出身。筑波大学大学院修士(体育学)スポーツ社会学専攻。