島根県津和野町と、岡山県和気町でまちづくりの活動に取り組む株式会社FoundingBase。この取り組みの面白さは、都市部の若者が地方に移住し、その地方のいち住民となり、地元の人々と協力しながら、地道に一歩一歩、取り組みを進めているところ。この取り組みに参加する若者たちは「ある」もの尽くしの東京から、「ない」ものだらけの津和野町や、和気町に移り住みました。彼らは、どうして、地方を選んだのでしょうか。今回は、上智大学を卒業後、昨年10月から津和野に移り住み農業分野で活動する栗原紗希さんにお話を伺いました。(聞き手・福井 健)

津和野で働く栗原さん

■国連で痛感した「歯痒さ」

――まず、FoundingBaseに参加するまでどんなことをしてきましたか。

栗原:静岡県浜松市に生まれました。実家では昔から外国人留学生のホームステイを受入れていて、外国の方と接する機会がたくさんありました。物心がついた頃には海外に興味があって、高校に入ってからは、タイへのスタディーツアーに参加したり、一年間イギリスに留学したりしました。そういった海外での見知から「格差」をキーワードにして、いつかは国連で働いて、世界中に存在する「格差」を無くしていく仕事がしたいと考えていました。

――国連ですか!でも、今は津和野にいますよね。国連と津和野では大きく違うと思うのですが、どうして津和野に居るのでしょうか。

栗原:実は大学在学中に一度、国連でインターンをしたのです。クウェートのUNDPで半年間。昔から憧れていた国連機関で実際に働いてみて感じたことは、大きな組織だと中々身動きがとれないこと、国同士の政治的な利害調整に追われてなかなか業務を遂行できていないこと、というような、表面的には見えない国連の実態。

UNDPで半年間インターンした

もちろん、どの国連の機関も悪いというわけではないのですが、本当に自分が変えたいことを実行しようとするならば、国連の組織のありかた自体を変えるくらいにならないとできないと感じたのです。国連でインターンしている間、ずっと、本当に困っている人たちにどうやったら手が届くんだろうと考えていました。

そうした気付きを得た上で、本当に困っている人を助けたいと考え、国連のインターン後に友人と団体を立ち上げて、インドネシアの農家さんを支援する活動を行ったりもしました。仲間を募り、たくさん考えて自分たちが立てた仮説に従って支援策を作ったけれど、現地調査を行ったときに、私たちが考えていたことは全く現場の意見を踏まえたものではなかったと、気付いたのです。

本当に困っている人を助ける、誰かの力になるためには、もっと現場に根ざした所で、現場に住み着いて、現場と向き合う経験が必要だと考えたのです。そういう風に考えていた時に、津和野でのFoundingBaseの活動を知りました。津和野に根ざして、津和野に住み着いて、津和野に向き合って活動を進める姿勢に惹かれて、参加したいと感じました。

それに、津和野や日本のいわゆる「過疎地」と言われているところで見受けられる課題って、世界で議論されている課題と似ていると思うのです。津和野が発展途上国というわけではないのですが、例えば、津和野で課題がある分野って、農業、医療、教育、インフラ。これって、世界で議論されている課題と似通っていると思うのです。

そうした津和野と世界のつながり、ここで小さな変化を起こすことが、世界を変えることに繋がる、そんな思いもあって、津和野に来ました。

■「人」と向き合って変わった自分

――実際に津和野に来てみて、普段は何をしているのですか。

栗原:津和野では町内の地場野菜を町内の飲食業者へ流通させる仕組みを構築しています。津和野の農家さんは少量多品種の栽培が主であることから、一度野菜を一括で集めて出荷することで、安定した供給量で卸すことができるので、そのようなシステムを作ることを目指してます。津和野に来る前から農業の分野で活動したいと考えていましたが、津和野で二人の農家さんと出逢ったことで、更に熱が入りました。

――二人の農家さん?津和野で農業をされている農家さんですか?

栗原:はい。二人とも、昨年の集中豪雨で被災した農家さんなのです。一人は、木村さん。とてもシャイな人なんですが、男気があります。彼は、豪雨で津和野にあった田んぼが流されてしまったのです。彼は山口に住んでいるので、豪雨後、津和野ではなく、山口で農業を再開しようと思えばできたのに、津和野で農業をやることにこだわって、災害後に津和野で苺を作り始めました。

なんで苺なんですか?って聞くと、自分の好きな場所で、好きなものを作りたいから、ただそれだけだよ、って答えが返ってきて、そんな風に自然と向き合って、自分の想いを貫く彼の姿勢に胸を打たれました。

もう一人は、吉田さん。彼は元々お茶農家で、彼も豪雨でお茶畑が流されたのですが、同じ場所に新しくお茶を植え始めています。もしかしたらまた豪雨で災害が起こるかもしれないのに、同じ場所でチャレンジするひたむきな姿に感銘を受けました。

彼には小学生になる子どもさんたちもいて、この子たちがひたむきなお父さんの背中を見て育つのは素敵なことだなあと感じたんです。

この二人は自分が作ろうとしている町内に向けた野菜の流通システムにも協力してくれている農家さん。この人たちの力になりたい、ひたむきに、自然と向き合っている人たちの力になりたいと感じたので、自分の活動にも熱が入ります。

――名前のわからない「誰か」のためでなく、目の前に居る「◯◯さん」のために仕事ができるって、素敵なことですね。

栗原:そうなんです。それでしかないって感じています。自分がこの人のために力になりたいと思って、スピード感を持って走り抜く。なんとしてでも、この人たちのために、やりきりたい。やっぱり、人の顔が見える距離感で仕事ができるって素敵なことだと思います。

例えば都市で仕事をしていて、それって誰のためにやってることなんだろうって見えにくいと思うのです。大きな事業、大きなインパクトのあるプロジェクト、そういったこともやりがいを感じる一つだとは思いますが、自分の一挙手一投足が「この人」の役に立っていると実感できる規模感。津和野の良い所の一つだと感じています。

■「何をするか」も大事だけれど、「誰とやるか」も大事

――なるほど。言われてみると、そうかもしれません。都会にいて就活したり、働いたりしているとついつい見落としがちなことですね。津和野で活動していて、嬉しいことばかりじゃないと思うんですが、つらいことがあったとき、どうしてるんですか。

栗原:嬉しいことばかりじゃないですね。笑 実際に、地元の人とコミュニケーションがうまくいかないこともたくさんあります。

つい先日も、一緒にマルシェ(※)を運営する地元の人たちとしっかり信頼関係が築けてなくて、衝突したこともありました。でも、そんなときにモデルにする人がいるんです。この人も津和野で農家、畜産をしている人で、京村さんっていう方。津和野の山奥の山頂にある牧場に嫁いできて、子どもを4人育て上げて、部外者だと思われてもおかしくない立場で、地域の人たちをまとめて教育事業に取り組んでいる方なんですけど、大変なことなのにいつも「やりたいから、やってる。やりたいから、思いっきりやるんだよ」とニコニコしている。

そんな彼女を見ると、学生時代の自分なんて本当にくだらないって感じてしまうんですよね。国連でインターンしたり、学生団体で活動していたけれど、全部表面的なところだけで、「やったつもり」になってた。仲間と夜な夜なカフェに集まって、模造紙を広げて、付箋をぺたぺた貼って、現場を知ったつもりになって、がんばってる風だった。

そんな自分を思い起こしながら、津和野でつまづいた時には京村さんを思い出します。地道だけど、スピード感を持って、地に足をつけて、一歩一歩、着実に歩んで行く、彼女のそんな姿を自分の理想の姿と重ね合わせて、壁にぶち当たった時には勇気をもらいます。

※マルシェ:まるごと津和野マルシェのこと。フロンティアにちはらと、FoundingBaseのキーマン、ベースマンであるデザイナーユニットのminnaさんが協力して運営する地場野菜を取り扱う市場のこと。

――自分の理想の姿に近い人が身近にいるっていうのも、素敵なことですね。

栗原:そんな人たちと、普通の仕事をしてたら出会わなかったのかなって考えることがあります。木村さん、吉田さん、京村さん意外にも、上司の宮内さんにも感謝しています。

役場を、過疎化する津和野を本気で変えたいと思っている人で、とても熱いパッションを持っている人だからこそ、全力でぶつかっていけるのです。仕事中も、仕事が終わってお酒を飲んでいる時も、時には泣いちゃうくらいに、津和野の未来や、今後のマルシェに対する思想や考えを語り合っています。

FoundingBaseの仲間の林さんもそう。林さんは仕事に本気だから、本質的になんでも指摘してくれる。面と向かって言いにくいようなことも、私を思って直言してくれる。

大学時代を振り返っても、ここまで自分をしっかり見てくれて、自分を思って厳しいことをしっかり言ってくれる人たちに囲まれていたことはなかった。自分一人では中々成長できないけれど、そういう人たちがいるから、成長できるって実感してます。

――厳しいことをしっかりと言ってくれる人。確かに少ないですよね、でもそういうことに対して腹が立ったり、落ち込んだりしないんですか?

栗原:たまにむかつくこともある。でも、みんな、共通認識があるから、成り立つのだと思います。津和野をなんとかしたいという志。もっというと、津和野というフィールドから日本全体、世界を変えていくのだという大きな想い。それって、利益とか、打算とか、そういうのじゃなくて、そういうドロドロしたものを全部とっぱらって繋がっていると思うんです。こういう人たちと出会えたのは、自分がリスクを取って津和野に来たからだと感じています。

朝起きたら「よっしゃ!今日もがんばろうぜ!」って元気に一緒に走る仲間が居て、志を共にしているみんなで一緒にごはんを食べれて、夜な夜な「いい社会」について語り合える人間がまわりにたくさんいる。贅沢なことだと感じています。

津和野に来てから、「自分が何をしているか」ももちろん大事だけど、「誰と一緒にいるか」ということも大事だと気付いた。今後、津和野を出た後、仕事をしていくにあたっても「誰と一緒にやるか」ということも大事にしたいと考えています。

■「思ったらとにかく行動!」 一歩踏み出す大切さ

――結果的に、津和野に来たことに満足してる風に聞こえますが、参加する前はとっても悩んだと思います。その当時の自分に、今の自分が声をかけるなら、どんな言葉をかけますか

栗原:「思ったらとにかく行動!」って言いたいですね。ちょっとうじうじしてたと思います、当時の私。なんでだろう、経験がなくちゃだめ、とか、力がないと飛び出せない、って勝手に考えていたけど、そんなの関係無いよ!思うようにやればいいんだよ!って伝えてあげたい。

現場にいたいと思っていた、どっぷり一つの地域に飛び込みたいと考えていた、試してみたい、目の前のものに全力になる、そんなことを求めながらも不安を感じる自分がいた。自信も、勇気も、経験も、力も、なかったけれど、飛び込んでみたら、意外とうまくいく。だから、思ったらとにかくやれ!行動しなさい!って伝えたいです。

――『思ったらとにかく行動!』簡単なようで、難しいことです。でも、その小さな”一歩”があったから、成長できる環境に身を置けて、大切な仲間もできたんですね。お話、ありがとうございました!

※栗原さんが運営を手伝う「まるごと津和野マルシェ」は月2回、津和野町内で開催中です!新鮮な津和野のお野菜が購入できるオシャレなマルシェに是非ご来場ください!