タイトル:電園復耕~大通りからそれて楽しく我が道を歩こう

なぜ人を押しのけて狭き門に殺到するのか?自分を愛し迎えてくれる人たちとの人生になぜ背いて生きるのか?
この書き下ろしは、リクルートスーツの諸君に自分の人生を自分で歩み出してもらうために書いた若者のためのお伽話である。(作・吉田愛一郎)

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◆いざ出陣

「怒られるかとおもたら、例を言われてしもた」
小室はそんなことを言いながら、水の搔き出しに参加していた。ウエイターが来て小室と末広に早く朝食のテーブルに付いてくれと言った。
「でも」と言うように末広が階段と廊下を指差すと、ウエイターは「そんな物に係る者では有りません」というようなことを言って、眉を顰めてみせた。ウエイターは自分をジェームスとだと言って二人の椅子を引いた。

末広が二杯コーヒーを啜り、小室がベーコンを摘まんで釣り針に掛かった魚のようにかみついていると、エンジニアの二人が身支度をして階上から降りてきて、二人のテーブルに座った。二人は上田と下田だと自己紹介をした。昨夜からの事件の事は何も言わず、もうすぐ所長とイタリア人たちが来るとか、自分たち赴任先は赤道を少し跨いだ北半球だから、末広や小室たちとは北半球と南半球に分かれるとか、そんな話をして、30分くらいの時間を潰した。末広は彼らに見透かされている気がして、身が縮む思いだったが、小室は何の屈託もなく、デザートのマンゴーをしゃぶっていた。

モスグリーンのランドローバーが大きな車体を駐車場に入っていた。真っ赤に日焼けしたカーリー部屋の白人の男性と小柄な所長が車から降りてきた。ベランダの階段を上がって来る。末広と小室に頷いてから立ち上がりベランダに出て5人が合流した。スーツケースを両手に持ったホテルの従業員がもう既に車に向っている。イタリア人二人と日本人のエンジニア二人が車に乗り込み、窓から手を振りながらジャカランダのゲートをくぐって去って行った。手を振って見送った三人は所長の、席に戻れという目配せで再びテーブルに戻った。今度は小室も恐縮していた。

「今日の予定を言っておく」ジャームスに「カカファ モジャ」と言ってコーヒーを頼むと、末広の顔を覗き込み「どうした?」と聞いた。
何だ知らないんだと末広は思った。「ちょっと」と言いよどむと所長は、「色々戸惑う事もあるだろうが、日本を代表してきていることを自覚するように」とだけ言うと「今日の予定だ」と続けた。

ああよかった。末広は安堵した。そして明るい顔になって「ハイ」と大きな声で答えた。
「今日はここから南に10キロ行ったところの小学校で柔道と空手の指導をしてもらう。後で運転手のピーターが来るから三人で行動するように。私もその車に同乗して日本大使館で降りる」
「指導って何をするんですか?」
「私は武道の事は分からない。二人で相談して小学生が喜ぶようにやってくれ」
末広と小室が顔を見合わせていると所長が続けた。
「ああそうそう、ドルをケニアシリングに代えるとかいう奴が頻繁に来るだろうが、取り合わないように」
「ええっ」

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