地域の魅力を伝えるコンテンツは、郷土料理でも観光名所でもなく「元気なおばあちゃん」だ。兵庫県北部に位置する但馬で、農作業や伝統工芸品を製造する、働くおばあちゃんの動画を製作している若者がいる。人口減、高齢化、経済力低下など、地域に抱かれる印象は暗いものが多いが、そこで暮らすおばあちゃんの笑顔を見たら何を感じるだろうか。(オルタナS副編集長=池田 真隆)
岡坂遼太さん(25)は2013年12月、NPO法人あっと但馬(兵庫県新温泉町)を立ち上げた。人口18万人で高齢化率36%の但馬の魅力を、ITで発信するために3つの事業を行っている。
一つは、但馬で働くおばあちゃんを3分の動画にまとめて紹介するサイト「ばあコレ」の製作。そして、地元で収穫したワカメやよもぎ餅、伝統工芸品の「むぎわら細工」などの生産品を発送するECサイト、加えて、地域の個人商店などのホームページ製作だ。
岡坂さんは但馬で生まれ、大学進学を機に上京した。将来は、東京の広告代理店に就職したいと思い、東京調布にある電気通信大学に入学した。映像制作やウェブ技術、メディアアートなどを学んだ。転機は、2011年3月11日に訪れた。
東日本大震災で地元への思いを強く再認識し、かつ、岡坂さんの同世代が復興支援に励んでいたので刺激を受けた。彼らの姿を見た岡坂さんは、「自分だったら、但馬で何ができるだろうか」と考えたと言う。
ちょうど就職活動をしている大学3年の時期であり、当初志望していた広告代理店を目指すことを辞めた。2012年3月に大学を卒業すると、但馬にUターンした。同年4月に、地元町役場の臨時職員として採用された。併行して、地域の伝統行事の企画・運営サポートを行ったり、個人でアプリ製作などのウェブ案件を受託していた。
約1年半ほど、臨時職員として働くなか、岡坂さんは但馬の課題を実感していった。最も重く感じた課題は、高齢化だった。但馬は地域によっては高齢化率36%に到達し、兵庫県の24%を大きく超える。ただ、高齢化は日本全国どこの地域でも抱える共通の課題だ。そこで、但馬だけでなく、全国の高齢者へ抱くイメージを変えたいと思い、「ばあコレ」を企画した。
岡坂さんは、「高齢者の元気な姿を見せられれば、医療費・福祉費は抑制され、若者への負担も軽減されるのでは」と期待する。現在、「ばあコレ」の製作費を募るため、クラウドファンディングに挑戦中だ。
撮影対象は、但馬で働くおばあちゃん。当初は、一人ずつ撮影する予定だったが、おばあちゃんから「一人は恥ずかしい」との声をもらい、数人グループで撮影するようになった。町役場や県民局から紹介を受け、おばあちゃんを撮る。
おばあちゃんをコンテンツにした理由を、「地元料理や観光スポットは全国どこの地域にもある。おばあちゃんも、どこの地域にもいるが、まだフォーカスしている地域は少なかったから」と話す。
10本ほどの動画を製作し、今年9月にサイトオープンを目指す。
岡坂さんが働きがいを感じるのは、「地元民から自慢話をされたとき」だ。「地域活性化を目的に活動している人と話すと、地元の自慢を聞ける。自分の好きな但馬をほめられると、まるで自分までほめられた気分になる」。
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