コミュニティ研究を続ける三井不動産レジデンシャル・市場開発部の矢澤美鳥氏は、マンション・コミュニティを形成するためには、「住んでいる場所に、愛着を持ってもらうことがカギ」と話す。作り手目線で、つなげようとするのではなく、自分で自分のマンションを好きになってもらうことを心がける。コミュニティを活性化していくヒントを、マンションを事例に話してもらった。(聞き手・オルタナS副編集長=池田 真隆)

マンション・コミュニティをつくるには、まず住んでいるマンションに愛着を持ってもらうことと話す矢澤氏

マンション・コミュニティをつくるには、まず住んでいるマンションに愛着を持ってもらうことと話す矢澤氏

――御社は11月、ミライ マンション ミーティング(M3)を開きました。このイベントでは、マンション・コミュニティがマンションの価値を上げるというテーマで、参加者300人で、「ワクワクするマンション」を考えるワークショップも行いました。参加者からは、どのような意見がでましたか。

矢澤:「夜11時から飲めるマンション」、「季節によって部屋を変えられる」「恋活ができる」など、さまざまな意見がでましたが、特長としては、「ゆるくつながる」という趣旨の意見が多かったです。決められた制度的なものではなく、ある程度、柔軟なもの。

――M3は、マンション・コミュニティを管理人だけでなく、住む人全員の問題ととらえました。不動産関係のビジネスパーソンだけでなく、当日は、大学生や若手社会人、女性の姿も目立ちました。

矢澤:M3は、私も含めて30歳以下の若手メンバーが集まり企画しました。これまで、2回、イベントを企画してきたのですが、どちらも管理人向けなので、参加者の層が限定されていました。つながりが見直されている今、コミュニティについて、もっと多くの人たちで考えようと企画しました。

M3では、大学生や女性の姿が目立ち、不動産関係のイベントにしては異例の客層

M3では、大学生や女性の姿が目立ち、不動産関係のイベントにしては異例の客層

――まだ、マンション・コミュニティと購入動機の関係性を示したデータはありませんが、良好なマンション・コミュニティが果たす効果に関する研究も進めているようですね。

矢澤:私たちは、2011年の東日本大震災が契機となり、同年7月、サステナブル・コミュニティ研究会を立ち上げました。同研究会は、時間の経過とともにマンションの価値が高まっていくという弊社の街づくりの理念「経年優化」を自社・他社問わず多くの集合住宅に発展させるための組織です。

この経年優化を成し遂げるためには、共助、互助、地域住民との連携が重要になってくると考えています。現在は、私立大学の教授と、マンションの資産価値を、立地条件・セキュリティ・設備など従来の評価軸だけでなく、コミュニティも指標項目に入れて評価する研究を進めています。

若者を中心に、シェアハウスが注目される理由としてコミュニティがあげられています。コミュニティとマンションの価値は必ずつながっていくと思っています。

――マンション・コミュニティの活性化がマンションの資産価値向上につながるという仮説を立てて、調査を進めているとのことですが、一般的に日本では、時間がたつごとに資産価値は落ちると考える中で、コミュニティの活性化が資産価値をあげるということなのでしょうか。コミュニティをつくっていくことは試行錯誤の繰り返しだと思いますが、それでも手応えを感じている方法はありますか。

矢澤:確かに、コミュニティに正解はなく、「つながれば良い」という単純な考えではつくれません。マルシェやイベントなどを企画して、マンション居住者同士がつながるきっかけをつくることはできます。ですが、コミュニティは、最初から最後まで弊社でつくるものではなく、あるところからは手放さないといけないものです。

一方で、マンションに住む人全員がつながりたいとは思ってはいるとは限りません。つながりたい人のために共有空間を用意しつつ、セキュリティやプライベート空間も確保しなければいけません。

個人同士だけでなく、新しいコミュニティと昔からあるコミュニティを合わせることもありますが、これも難しい。

――人とのつながりも大切ですが、ハード面での工夫も求められそうですね。

矢澤:そうですね。たとえば、長くお住まいいただくために、ユニバーサルデザインも商品企画に取り入れています。居住者が自分でリノベーションできて、年をとっても、快適に暮らせるようになります。

三井不動産レジデンシャル・矢澤さん

愛着持てば、交流も自発的に

――話を聞いていると、コミュニティづくりは、とても繊細な作業ですね。ソフト・ハードいずれも大切。正解のないなかでも、突破口は見つかりましたか。

矢澤:一つ共通することは、住んでいる場所に愛着を持ってもらうことです。愛着を持ち、大切な住処として感じていただければ、マンションのことを自分事化し、考えるようになります。

調査でも明らかになったのですが、賃貸に比べてマンションを購入した人は、住民に挨拶をして、その後、会話をする傾向にあります。自分たちのマンションを好きな人が増えれば、自然とつながりができてくると見ています。

――では、マンションに愛着を持ってもらうために、コミュニティはどのような役割をはたしますか。

矢澤:マンションに限らず、所属しているコミュニティが多くなると、愛着を持てる場所が増えていきます。自分らしさを表現できるところで、コミュニケーションを取っていけるようになると、住まいを身近に感じられるはず。

そして、居住者の顔が見える関係を築ければ、弊社がイベントを企画しなくても、居住者たちで自発的に交流が生まれてくるようになり、コミュニティが活性化していくでしょう。

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