発達障がいを抱えた子どもや虐待を受けた子どもを対象に、専門的な心理療法を実践するNPOがあります。大人とは異なり、言葉で状況を説明するのが難しい子どもたち。絵や遊びを通じて何を感じているのか確かめながら、問題を捉えて解決していく自己治癒力を高められるよう支援しています。団体に話を聞きました。(JAMMIN=山本 めぐみ)

被虐待児や発達障がい児を対象に
心理療法を実践

京都を拠点に活動する認定NPO法人「子どもの心理療法支援会(サポチル)」は、虐待を受けた子どもや発達障がいのある子どもを対象に、精神分析的心理療法を実践しています。

「簡単にいえば『心のケア』。子どもの場合は大人のように言葉で表現することが難しいので、遊びの中でカウンセリングを行う『プレイセラピー』が中心となります」

そう話すのは「サポチル」理事長であり、臨床心理士・教育学博士の平井正三(ひらい・しょうぞう)さん(56)。心のケアを必要としている子どもたちに心理療法を提供したいと2005年に団体を立ち上げました。

カウンセリングルームの様子

「発達障がいや虐待などの背景を持つ子どもの場合、『自由に遊んでいいよ』と伝えても『思いを表に出す』という経験が普段の生活で馴染みがなく、表現することが難しいということもある」と指摘するのは、理事であり事務局統括の吉岡彩子(よしおか・あやこ)さん(46)。

「一緒に時間を過ごす中で、子どもが徐々に発信してくれる表現やコミュニケーションの内容を専門家として読み取り、子どものチャンネルに合わせて話しかけながら一緒に問題解決の方法を考えていくのが私たちの活動」と話します。

お話をお伺いした平井さん(左)と吉岡さん(右)

国内で心のケアを必要としている子どもたちに十分な支援が行き渡っていない事実を受けて、子どもへの心理的な支援について体系的かつ集中的に学べる人材育成プログラムを作成、養成講座やワークショップを日本各地で開催し、高い専門性を備えたセラピストを育てています。

適切な援助を受けられなかった心の傷は
大人になってからも影響する

「かるく」「おもい」「かなしい」「むり」…。子どもの作った折り紙に書かれた言葉が、まるで子どもの気持ちを表現しているように感じました

発達障がい児や被虐待児はどのような課題を抱えているのでしょうか。二人に聞いてみました。

「発達障がい児の場合、『コミュニケーションが難しい』ということがある」と平井さん。

「親御さんやご家族が理解しようとがんばっても、見方の違いから本人は怒っていないのに『怒っている』とか『偉そう』とか『何を考えているかわからない』という風に見えてしまい、そのために悩み、行き詰まっていらっしゃることがあります」

「当事者である子ども自身もどうしたいのかがわからずに混乱していることも多く、そこを一つひとつ紐解いていくことで、本人も『そういうことだったのか』と心が開かれていくし、ご家族も子どもの特徴を知って歩み寄ることができるようになっていくので、問題も小さくなっていきます」

一方で被虐待児の場合は、発達障がい児のような症状を見せ、大人になってからも何らかの精神疾患を発症する可能性が高いことが報告されており、心理学的にも強い有害性を持つことが確かめられているといいます。

「多くのケースでうつ病を発症すると言われています。子どもに対して直接的な暴力はなかったとしても、日常的に暴言を浴びせるのも虐待ですし、『面前DV』と呼ばれる目の前で両親が殴ったり殴られたりする姿を子どもが目にした時にも、心の発達に非常に大きなダメージを与えることが報告されています」

「人との『良い関係』を知らないまま育ち、虐待経験をトラウマとして抱えながら大人になる子どもはたくさんいます。幼い頃に想像を絶するような心が壊れる経験をして、それがいつも爆弾のように心の中にあると、何かが起きた時、突然それが爆発します」

「大人になると、このトラウマが暴力や暴言という誰かに危害を与えるかたちで爆発してしまうことがあります。しかし幼いうちにカウンセリングやプレイセラピーの中でこのトラウマを爆発させることができたら、より安全なかたちで爆発するので、トラウマという圧倒される存在を少しずつ自分の中でコントロールすることができるようになります」

「虐待という環境下で、子どもの気持ち自体がネグレクトされている」

プレイセラピーのための人形や玩具。ほかにも折り紙やクレパスがありました

心理療法で用いられる「プレイセラピー」は、人形遊びやごっこ遊びを通じ、「こんな風に自分は思うんだ」を表現する方法です。

「大人である私たちが一生懸命関心を向けて真剣に聞くと、子どもはもっと表現してくれるようになる」と平井さん。

「子どもの遊びを観察していると、ごっこ遊びの中でお母さんが子どもにひどいことをしたり、人形遊びの中でお母さんが赤ちゃんを切り刻んだり、踏みつけたりすることもあります。あるいは、赤ちゃんが強くなってみんなを叩きまくることもあります」

「親が離婚したある女の子は、家の絵を描いたあと、それをバラバラに切り刻んでしまいました。その子が経験した家がバラバラだったのかもしれないし、あるいはバラバラにしたいという気持ちがあるのかもしれません。いずれにしても、その子が経験している何かが遊びの中に投影されています」

プレイセラピーを通じ、「まずは『何を感じているのか』を互いに確かめていく作業が何より大切」と平井さん。家庭内暴力や虐待など、家庭の中がひどい状況にある時、子どもの視点からすると一番の問題は「気持ちがネグレクト(放棄)されている」ことだと指摘します。

「自分の気持ちが家庭で大事にされていないので、自分でも自分の気持ちを大事にできない。『自分がどう感じているか』を持たない子が多いのは、このためです」

自力で未来を切り拓いていくために

サポチルでは、各種研修プログラムや訓練コースを通して「子どもの精神分析的心理療法士」の資格認定を行っている。「高い専門性をもった支援者の養成にも力を入れています。2019年には3名の精神科医や臨床心理士が資格を取得し、現在、16名が関西、関東、東海で活躍しています」(吉岡さん)

プレイセラピーの大きな目的は、まずは『自分がどう感じているか』をしっかり持てるよう支援することだといいます。そこがクリアできたら、次はそれをどう表現するか、周りの人たちにどう伝えたらいいかといったことを次のステップとして踏んでいきます。

「心の傷は完全になくすことはできませんが、その子自身が主体性を育み、人とつながり、強く生きていくことができるように手助けしたい」と平井さん。

「『自分がどうしたいか』を認識して、そのために人とつながっていくことさえできれば、その人は自分の足でしっかり立って生きていくことができるのではないでしょうか。親がいない、いても頼れないという子どもも多い中で、私たちの関わりを通じて、子どもたちが自分の力で未来を切り拓くきっかけを見出して欲しいと願っています」

カウンセリング料も団体が負担

カウンセリング料支援の仕組み(サポチル ホームページより)

発達障がい児や被虐待児童に専門的なカウンセリングを行う傍ら、子どもたちが継続してカウンセリングを受けられるよう、NPOとしてカウンセリング料も負担しているサポチル 。虐待を受けた子どもの場合は、1回5000円のカウンセリング料を団体が全額負担、発達障がいのある子どもの場合は、同じく1回5000円のカウンセリング料のうち3000円を団体が負担しています。

「週に一度のカウンセリングを継続して受けられるように支援しているが、団体として経済的に余裕があるとはいえない」と平井さん。

「支援者の皆さまの善意に支えられてなんとか寄付で成り立っていますが、正直ゼロが二つ足りないという状況です。カウンセリングは一人の方と時間をかけてじっくり向き合うのが基本。すぐに目に見えて結果が出るわけではなく、一方で時間とお金がかかるので、なかなか一般的な理解を得るのが難しいところもあると感じています」

「児童福祉や教育の支援の網の目から、漏れてしまう子どもたちを支援したい」

「子どもたちは遊びを通して心の中の何かを表現し、それを共に考えてもらうことで、自分の心について、人の心について知っていくことができるようになります。それは、発達障がいを持っていても、虐待を受けていても時間をかけて取り組んでいくことができるものです」(吉岡さん)

児童擁護施設や母子寮に入所している子どもたちにも心理療法による支援を行なっているサポチル。こういった施設の場合、心理士が勤務していても、子どもの数が多く「一人ひとりとじっくり向き合うにはどうしても限界がある」と平井さん。

「臨床心理の分野でも、子どもは特定の養育者に愛情をかけられて育てられるのが大切で、それを通じて人間的な感性が育まれるということがいわれています。コミュニケーションをとること、人とつながっていくこと、自分や相手の思いを知っていくことは、人間関係の中でしか育まれていきません」

「国の施策として、里親養育に移行する方針を打ち出していますが、なかなか進んでいません。こうした中で施設で育たざるを得ない子どもはまだまだたくさんいますが、今の体制では必要なケアを十分に受けらないというケースも少なくありません」

「また、児童養護施設にいる間、国からお金が出てカウンセリングを受けることはできても、18歳になって施設を出た後にカウンセリングを続けられなくなる、一般家庭にいる心のケアが必要な子どもが経済的な事情からカウンセリングを受けられないなど、課題はたくさんあります」

「児童相談所や学校も努力していますが、どうしても一定の枠組みの中でしかサポートできないというところがあります。社会や家族のあり方が複雑化する中で、いろんなケースに遭遇します。支援を必要としている子どもやご家族はたくさんいますが、既存の児童福祉や教育、医療のサービスでは十分な支援を受けられなかったり、支援の網の目から抜け落ちてしまったりということも少なくありません。そこに対して、私たちが受け皿となって支援していくことができればと思います」

心のケアを必要としている子どもたちに心理療法を届けるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、サポチルと1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。「JAMMIN×サポチル」コラボアイテムを買うごとに700円がチャリティーされ、発達障がい児や被虐待児への心理療法や、その親にコンサルテーションを提供するための資金となります。

「心のケアを必要としている子どもたちに心理療法を届けられるよう、ぜひチャリティーアイテムで応援いただけたら」(吉岡さん)

「JAMMIN×サポチル 」1/6~1/12の1週間限定販売のコラボアイテム(写真はトートバッグ。価格は700円のチャリティー・税込で2700円)。アイテムは他にTシャツやスウェット、キッズTシャツなどのラインナップも

JAMMINがデザインしたコラボアイテムに描かれているのは、森の中で思い思いに過ごす動物たちの姿。動物は子どもたちを、森は子どもたちを見守り、安全して過ごせる場を提供する社会を表しました。

チャリティーアイテムの販売期間は、1月6日~1月12日の1週間。チャリティーアイテムは、JAMMINホームページから購入できます。

JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

心理療法を通じ、発達障害や虐待などの背景を抱えた子どもたちが本来の力を取り戻すサポートを〜NPO法人子どもの心理療法支援会(サポチル)

山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。2019年11月に創業7年目を迎え、コラボした団体の数は290を超え、チャリティー総額は4,000万円を突破しました!

【JAMMIN】



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