スティーブン・グリーン氏は、4時間のボランティアでライブチケットが手に入るという仕組みを考案し、世界で社会変革を起こす男だ。エンタメとソーシャル(社会性)を結びつけたRockCorps(ロックコープス)は、10カ国34都市に拡がり、同事業で16万人をボランティアに動かした。日本では、2014年にアジアで初めて開催された。SNSで人が人を呼ぶ流れを起こしたスティーブン氏は、「若者は洗練されており、賢い。単純に消費者の一人として見てはいけない」と話す。(聞き手・オルタナS副編集長=池田 真隆)

ロックコープスを立ち上げたスティーブン・グリーンさん

ロックコープスを立ち上げたスティーブン・グリーンさん

――ロックコープスは、指定した4時間のボランティアでチケットが手に入る仕組みです。アメリカで、この取り組みを開始した当初は前例のないイベントなので、スポンサー探しに苦労したとのことです。最初にスポンサーがついた要因はどこにあったのでしょうか。

スティーブン:スポンサーが着いた要因は2つある。アメリカで最初にスポンサーに名乗りを上げたのは、ブーストモバイルという携帯会社だったが、その会社はマーケティングのビジョンが明確だったんだ。多くの携帯会社は、「うちの携帯電話を使えば、生活がより快適になる」というようなことをメッセージとして発信している。

ブーストモバイルも、もちろん「自社の携帯電話でより良い生活」という考えを持っているが、単純にそのメッセージを掲げるだけでなく、実際に人々に体感してもらいたいという思いが強かった。

だから、その「より良い生活」を体感するのに、ロックコープスがマッチしたのだ。そして、2つ目の要因は、デジタルのプラットホームとうまく連携できたことにある。

――デジタルのプラットホームと連携するとは。

スティーブン:携帯電話で視聴できるコンテンツを提供し、利用会員を増やすことにつなげること。コンサートやボランティアの様子を動画で提供した。

――スポンサーのメリットは、ロックコープスに参加する若者に、クライアントのプロダクトやサービスを紹介できることでしょうか。

スティーブン:必ずしもそうではない。若者は、本当は賢くて洗練されている。持論として、影響力を持つ企業は若者を単純に消費者の一人として取り扱うのではなく、一緒に価値をつくるパートナーとしてみている。

――たとえば、どのような企業がありますか。

スティーブン:ウーバーや初期のフェイスブックなど、若い人の力なしでは、成長できなかった企業のこと。シューズメーカーのトムズもそう。

単純に、消費者を「お金を払って商品を買ってくれる人」としてみるのではなく、「自社と一緒になって価値や文化をつくっていく仲間」としてみている。

スポンサーメリットには、ぼくの中でこだわりがある。世界は資本主義が中心だが、ぼくはベストではないと思う。一番良い形は、ぼくにも分からないけれど、良い企業は売上も伸ばすこともできるし、世の中を良くすることもできる。この2つを平行して伸ばしていける企業がすごく良い企業であるはず。そんな企業を経営する、社会起業家を増やしていきたいね。

――ロックコープスが通常のコンサートと一線を画すのは、来場者が全員ボランティア参加者でもあることだと思いますが、ロックコープスと通常のコンサートとの違いは何でしょうか。

スティーブン:色々な国で「ボランティアは良いことですか」とたずねると、90%以上の人が「良いこと」と答える。その質問のあとに、「あなたはボランティアをしますか?」と聞いたら、30%が行動すると答える。

9割が良いことと認識しているが、実際行動しているのは3割しかいない。音楽を活用することにより、その差を埋めたいと考えた。

ロックコープスの参加者は、音楽を聴くために来る。去年、日本で開催したが、参加者の約6割が、初めてボランティアを体験した人だった。ただ、チケット目当てで来た参加者も、5分もボランティアをすればチケットのことは忘れている。コンサートのチケットは、表面上の特典に過ぎない。だけど、ボランティアをした喜びは内面から感じられるもの。なので、その体験は忘れがたく、もう一度参加したいと思うようになるんだ。

去年、日本で開かれたライブには、グラミー賞受賞シンガーのNE-YOも出演

去年、日本で開かれたライブには、グラミー賞受賞シンガーのNE-YOも出演

――ロックコープス参加者のボランティアリピート率はどれくらいでしょうか。

スティーブン:どの国でも、参加者の約8割が「もう一度、ボランティアをしたい」と言ってくれている。そのうちの約6割が、ボランティアを探す。そして、半年後に参加者全体の4割がボランティアをしている傾向にある。

――ロックコープスの参加者に、もう一度ボランティアをしたいと思わせる仕組みはありますか。

スティーブン:ソーシャルメディアをうまく使っている。SNSでNPOの紹介などを行う。2003年の立ち上げ当初は、一人ひとりにボランティアを声がけしていたが、今では一度参加した人が呼びかけてくれる。SNSで影響力のある人たちと一緒に情報を流したりしています。そういう人たちに優先的に情報を渡して、流してもらうこともあるね。

――ロックコープスと通常のライブで何が違いますか。

スティーブン:大きく違う。普通のライブでは、アーティストとお客さんが徐々に一体になっていくが、ロックコープスは、アーティストもオーディンスも全員ボランティアをしている。全員の心は、ライブが始まる前からつながっているんだ。

それぞれ40人単位のグループごとに4時間のボランティアをしてきて、ライブ当日には、ボランティアに参加した全員が集まる。ライブが開始したとたんに、見事なまでの一体感が生まれる。参加してみればわかるよ。

■「RockCorps supported by JT 2015」について
「RockCorps supported by JT 2015」は、東北3県(福島県、岩手県、宮城県)と首都圏で、全4,000人が4時間のボランティアに参加できるよう、2015年5月31日(日)~9月5日(土)のおよそ3ヵ月間、東日本大震災の復興支援を目的とした各種ボランティアプログラムを実施する。
9月5日(土)には国内外の著名アーティスト4組が登場するライブイベント“Celebration(セレブレーション)”が開催され、ボランティアに参加した全員がこのイベントのチケットを得られる。2015年7月現在、中島美嘉、PUFFYの参加が決定しており、今後も随時出演アーティストを発表する。
ボランティア参加者は、「RockCorps supported by JT 2015」公式ホームページで募集中。

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