タイトル:電園復耕~大通りからそれて楽しく我が道を歩こう

なぜ人を押しのけて狭き門に殺到するのか?自分を愛し迎えてくれる人たちとの人生になぜ背いて生きるのか?
この書き下ろしは、リクルートスーツの諸君に自分の人生を自分で歩み出してもらうために書いた若者のためのお伽話である。(作・吉田愛一郎)

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◆水仙

末広が続けた。「それにしてもシジュウカラがバースバースって鳴いているって言った奴は君が初めてだ。普通はビーチュク ビーチュクって聞こえるんだけどね」
「社長は鳥にも縁があるんですね」
「社鳥って言うから会社の鳥かなあ」と末広は言った。
「それにしても俺はかなりみすぼらしい鳥だな。群れになって飛んで来る借金鳥にも追い回される。君たちも社鳥だな。何千羽いるんだろう?ムクドリの群れだな」
啓介もそうだなと思った。
末広は馬の体を丁寧にブラッシングしながら「江戸時代は労務者の事をムクドリって言ったんだよ。リクルートをムクドリ狩りって呼んだんだ」と思い出したように語った。

そうか俺はムクドリだ。何千羽の中のムクドリの一羽だ。そうか、山に来たから鳥を連想し、東京湾の近くでは魚を連想するんだと啓介は思った。末広が言った。
「手を止めてはダメだ、二つのことぐらい一緒にやれ」その通りだと啓介も思った。走りながらボールをキャッチして、ジャンプして投げるんだ。「何回も往復して馬房の馬糞とおが屑を全部運び出せ。運び出したら向こうの小屋のオガ屑を厩に敷いてくれ」
啓介は再び馬房の方に一輪車を押しだした。

地面の凸凹にバンバン跳ねる一輪車を押しながら考えてみた。英語のfateと言う言葉が思い浮かんだ。フェイト。何か重苦しいな。縁の方が出会いっぽくていいな。人でも物でもうまくくっついたら縁があったのだ。うまく行かなきゃ縁が無かったんだな。行き当たりばったりって事だ。「行き当たりばったり」啓介は呟いた。ふと見上げると東の空は血に染まったような朝焼けだ。「原発」啓介は声に出した。
自分たちは逃げるように西に走った。会社のアメリカ人や大手町のビルの階上の中国人たちはどこかへ行ってしまった。国へ帰ったのか、どこか西へ逃れたのか。由美子はどこにいるのだろう。まだ日本か?機上か?既にアメリカか?若竹の夫婦はどうしているのだろう。被災した人々はどうなってしまうのだろう。啓介はおが屑の山の前で深いため息をついた。
おが屑がばらまかれている残雪から水仙の芽が顔を出していた。

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啓介が雪だまりを刺して立っているシャベルを抜き取って、おが屑をすくおうとすると、どこからかエンジンの音が聞こえてきた。耳を澄まして聞いていると、それが一度途絶え、また聞こえてきた。啓介がおが屑を載せた一輪車を押して、馬場と家の敷地を割って走る道路にでると乗用車が上がって来るのが見えた。黒っぽいホンダのアコードだと思った。啓介が道を横切ると、その車はさらに登って来て啓介の背中から10メートルほどの場所に止まったようだった。後ろから女性の声がした。金髪ではないがからに明るい髪の毛の女性が「スミマセーン」と叫ぶ声が、啓介の背中にぶつかった。振り向く啓介に女性は少し擦れた声で「ヤツガタケドコ?」と聞いてきた。

「それ」啓介が赤岳を指差した。「ニシどこ?」「あっち」と言って啓介は朝焼けの空の反対側を指差した。
「アリガト」
ずいぶん疲れているみたいだと啓介は思った。
「May I help you」と言ってみた。
女の顔が明るくなって、「Yeh、please」と言った。30歳代後半のかなりの美人だ。
昔見たサウンドオブミュージックのジュリーアンドリュースみたいだなと啓介は思った。

文・吉田愛一郎:私は69歳の現役の学生です。この小説は私が人生をやり直すとすればこうしただろうと言う生き方を書いたものです。半世紀若い読者の皆様がこんな生き方に興味を持たれるのであれば、オルタナSの編集スタッフにご連絡ください 皆様のご相談相手になれれば幸せです。

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