「2025年までに世界一のサッカークラブになる」と掲げる地域クラブが日本にある。現在、東京都社会人リーグ1部に所属するCRIACAO(クリアソン、東京・新宿)だ。オーナーは、サッカーサークル出身で、総合商社から独立した異色の経歴の持ち主。勝ち負けだけにこだわらないコーチングで、選手の可能性を引き出している。(オルタナS副編集長=池田 真隆)

クリアソンのオーナー・丸山氏

クリアソンのオーナー・丸山氏

「ただサッカーの上手い人を集めて勝利を目指すクラブにはなりたくはない」――。クリアソンのオーナー・丸山和大氏(32)はきっぱりと言い切る。目指すのは、選手の戦う姿勢が共感されるクラブだという。

丸山氏が考える戦う姿勢とは何か。筆者なりに解釈すると、それは「投げ出さない強さ」だろう。サッカー用語でいうと、「ゲルマン魂」のそれに似ている。仮に10対0で負けていたとしても、試合終了の笛が鳴るまで1点を取りに行く意気込みを見せる。たとえ負けたとしても、その姿で人に感動を与える。

クリアソンには、下は21歳から上は33歳までの45人の選手が所属している。東京都社会人リーグ1部のクラブには、元プロや大学体育会のトップクラスで活躍していた猛者が集うが、クリアソンは違う。大学で、サークル活動としてサッカーをしていたものが中心だ。

なぜ、丸山氏は選手の姿勢にこだわるのか。それは、自身がサークルサッカーで経験したある出来事がきっかけだ。

■代表に交代命令

丸山氏は幼いころからサッカーを始め、高校は全国有数の強豪・桐蔭高校に進学。高校3年時には全国大会に出場した。大学は立教大学に推薦で行き、立教サッカー愛好会に入った。代表を務めた代では、サークル史上初となる、サッカーサークルで日本一の座に輝いた。

丸山氏の転機は、代表を務めた代に起きた。いまでは、「選手としての姿勢やチームワーク」を大切にしているが、その当時は、「チームの勝利よりも、自分の活躍を優先していた」と明かす。特に高校時代は、「サッカーが上手い奴にしか発言権はないとまで考えていました(笑)」とのこと。

サークルに入っても、その考えは変わらなかった。立教サッカー愛好会には監督はおらず、代表がプレイングマネージャーを務める。そのため、代表が試合に出ながら選手の交代を命じる。

だが、丸山氏はある試合で、前代未聞の交代を命じた。それは大学2年のとき。3年の代表の出来が悪く、プレーに精彩を欠いていたように丸山氏は感じていたとのこと。が、誰も代表に交代を命じられるものはいなく、そのまま試合は続いた。

そこで、この空気を壊したのが丸山氏だった。一学年上の代表に向かって、交代を命じたのだ。あくまでサークル活動としてサッカーを楽しみにしているメンバーもいるなかで、丸山氏の勝利への飢えは際立っていた。

そして、上の代が引退して、丸山氏が代表になったとき、さらに、その飢えは強くなる。サッカーサークルで日本一になることを掲げ、練習内容や密度を刷新した。練習で檄を飛ばすようになり、不満を言い出すメンバーも続出した。

ベンチの涙でサッカー観を改心

日本一になりたいという思いが空回りし、同じ大学生ではあるが、メンバーとの間に溝ができた。一時は、丸山氏から相談に乗ろうと声をかけたが、あまりの恐ろしさに本音を答えてくれる者は少なかった。副代表やサークルの幹部に協力してもらい、彼らから悩んでいる仲間の本音を聞きだした。

そうした声を間接的に拾っていくなかで、なんのために自分はサッカーをしているのか?本当に彼らはここでサッカーをして幸せなのか?と自問自答を繰り返すことになる。サッカーサークルといえば、聞こえはいいかもしれないが、代表として、胸の中にわだかまりを抱えながら大学生活を送っていた。

丸山氏は悩みを抱えながらも、当初理想として掲げた日本一を達成するために、方針は曲げなかった。その努力が報われたのは、念願の日本一に輝いたとき。優勝して、ベンチに目をやったとき、ベンチにも泣いているメンバーたちの姿が。なかには、丸山氏の方針に不満を持っていた人たちもいた。その姿を見て、産まれて初めて嬉し涙を流すこととなった。

彼らの涙を見たことで、心の底からサッカーの可能性を体感した。そして、サッカーでは勝つことしか意味がないと考えていた青年が、本当にそれだけで良いのかと、これまでのサッカーに対する向き合い方を疑い始めた。

悩み抜いて導き出した答えが、「人としてのありかた」だ。「何のためにサッカーをするのか」と問い続けたことで、勝利の先にある、それぞれの価値観を考えるようになった。

クリアソン発足

サークル日本一を手にし、華々しく引退した翌年、クリアソンを立ち上げた。大学4年のときだった。そのときは、「世界一」と掲げてはおらず、単純に、サークルを引退しても、この仲間たちとサッカーを続けたかったからだ。年に数回、大会に出るために集まった。

大学を卒業後、丸山氏は大手総合商社の伊藤忠商事に入社する。食品部門に配属され、やりがいをもって仕事と向き合っていた。職場の雰囲気もよく、客先にも恵まれ、不満はなかったという。

伊藤忠商事で働きながら、クリアソンの活動も本格化させた。社会人4年目の2009年には、東京都社会人リーグに参入した。クラブのありかたを考え出したのは、そのときからだった。

練習終わりには、丸山氏の自宅にメンバー数人が集まり、クラブの理念について話し合った。そのときに決めた理念が、今の理念でもある、「フットボールを通じて、世の中に感動を創造し続ける存在でありたい」だ。

クリアソンではサッカーを通して、人としての成長も追及する

クリアソンではサッカーを通して、人としての成長も追及する

サッカー選手である前に、人としてのありかたを考える。そんなクラブだ。ミスをしたメンバーには、「なぜ失敗するんだ!」と怒鳴るのではなく、「お前はなぜここでサッカーをするのか?どんなときが楽しいのか?」と悩みを聞きに周るようになった。勝ち負けだけにこだわるのではなく、その先にある感動を見ている人たちに与えたいとメンバーに伝えた。

この理念で、チームの和や個々の選手のモチベーションも高まっていき、クリアソンは順調にリーグを勝ち上がっていった。

商社マンからクラブオーナーへ

丸山氏が伊藤忠商事を辞める決断を下すのは、クリアソンが勢いに乗っていたとき。2012年、社会人になって7年目のときだ。クリアソンは東京都社会人リーグ2部で、1部昇格がかかった大一番の試合に臨んだ。

惜しくも、その試合に負けてしまい、その年の昇格はならなかった。その試合後、試合に出ていたメンバーの一人が、ベンチで見守っていた丸山氏に向かって、「丸さん、ごめんなさい」と、泣きながら謝ってきた。その後輩は、2025年までに、世界一という目標を本気で目指しており、この時点でつまずくことに悔しさと申し訳なさを感じていたのだ。

このことが丸山氏の決心を強固なものにする。「こんだけ本気になってくれているメンバーがいるのに、おれは腹をくくっているのか。自分の中で、(会社員でいることが)違うと思った」(丸山氏)。

その試合の翌日、上司に退職を願い出た。もちろん、独立後のビジネスモデルは考えてはいなかった。ただ、クリアソンを世界一にしたいという思いだけで、申し出たのだ。

上司からは、一度は考え直すように言われたが、丸山氏の思いはぶれなかった。それから半年後の、2013年3月に、7年間務めた伊藤忠商事を辞めた。

サッカーの原理原則をビジネスに

クリアソンを運営するために立ち上げた会社名は、クラブ名と同じ。株式会社クリアソン。2013年7月に東京・新宿区に登記した。

事業内容は、クリアソンの運営に加えて、企業・大学への教育事業、体育会の学生へのキャリア支援などを行う。また、ブラインドサッカー協会と提携を結び、企業向けの体験会や、地域交流のためのサッカー教室なども開いている。丸山氏は、「スポーツを軸にした総合商社です」と答える。顧客は、「一生懸命がんばっている人」だ。

なかでも、体育会学生向けのキャリアカウンセリングは評判が高い。何のためにスポーツをしているのか、大学生に問いかけ、スポーツを通した自己分析を行う。

例えばこのような会話をしながら、強みを見つける。

「サッカーをしていて、どんな瞬間が好き?」
「FWとして点を取れた瞬間が好き」
「なんで?」
「点を取った後に、スタンドで応援してくれているみんなが喜んでくれるから」
「じゃあ、仲間のためにがんばれる環境こそ、力を発揮できそうだね」

―と。

レギュラーだったかどうかや、全国大会で優勝したのかどうかは関係ない。それよりも、なぜそのスポーツを続けてきたのかを問いかけることで、その学生の強みを見つけるのだ。

サッカーの原理原則にのっとり、ビジネスも幅広く展開

サッカーの原理原則にのっとり、ビジネスも幅広く展開

最近では、アスリートを講師に迎えた企業研修も企画している。プロスポーツ選手のリーダーシップやチームマネジメントを、一般企業に役立てる。サッカーサークルで体感したサッカーやスポーツの可能性を、さまざまな事業に生かしている。

「世界一は本気です」

「2025年までに世界一のサッカークラブへ」

「2025年までに世界一のサッカークラブへ」

事業の成長とともに、クラブチームのクリアソンも階段を上っている。2014年には、東京都社会人リーグ1部で優勝を果たすまでになった。今年も、現時点(2016年10月21日)で社会人リーグ1部で2位となり、11月には関東リーグ昇格戦も控えている。

選手たちは会社員がほとんど。練習は水土日の夜に行っている。一昨年からスポンサーが1社入り、ファンも着実に増えている。

丸山氏への取材後、失礼な質問をしてしまったと後悔したことがある。それは、「世界一とはキャッチフレーズですか」と投げかけたことだ。丸山氏は、筆者の顔をまっすぐに見つめて、「本気です。クラブワールドカップで優勝します。そのときに勝利だけでない価値観を、勝利を全ての価値観としている人にも伝えられるのではないかと信じています」と静かに力を込めた。

そして、「おれなんて無理だとあきらめている人や何をしていいのか分からないという人に感動をつくっていきたい。この熱さが、斜に構えて見ている人たちにも、いつか伝わってほしい」と笑顔を見せた。

 ・クリアソンの公式サイトはこちら

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