タイトル:電園復耕~大通りからそれて楽しく我が道を歩こう

なぜ人を押しのけて狭き門に殺到するのか?自分を愛し迎えてくれる人たちとの人生になぜ背いて生きるのか?
この書き下ろしは、リクルートスーツの諸君に自分の人生を自分で歩み出してもらうために書いた若者のためのお伽話である。(作・吉田愛一郎)

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◆浪江の春

いつの間にか店のオーナーが末広の後ろに来ていた。70歳くらいの年配で、からし色のツイードジャケットにフラノのスラックス。足元は薄茶のクレープソールのサファリブーツで、髪の毛は白くてずいぶん薄くなってはいたが、ラブコメディーが得意なかつての人気二枚目俳優にそっくりだ。「3月11日以来、客は殆ど来ません」とか「ここにまで影響が来てるんですか」とか「遊びは日本中が自粛です」とか末広が首を回して、店主と色々話をしている。
店には末広達しか客がいないので、末広の声が良く響く。

中高年二人の話をよそにリズは啓介に英語で話し出した。リズは浪江町の小さな英会話教室の教師だと前置きして、地震や津波、そして原発事故について啓介に話した。

3月11日の正午、リズがクラスを終えると太った50歳くらいの女経営者に呼ばれた。経営者はリズにグレーのスチールチェアをすすめると、自分も小さいテーブルを挟んで座り、テーブルの上の二つの違ったデザインのカップにネスカフェを注いだ。

経営者はウェルとかアーとか言いずらそうに前置きをしてから、教室の賃貸契約は今月の末で打ち切られるだろうという趣旨の発言をした。リズが勤め始めて半年の間、こんなことになるだろうと予想はしていた。生徒がなかなか集まらないのだ。

きっと家賃も二か月くらい払ってないのだろう。今まで給料をよく払ってくれていたとすら思った。「アイ アンダスタン ダイジョブデス」と言うリズに経営者は椅子から腰を浮かせて何回も「アイアムソーリー」と言って、頭を下げた。

経営者にこれからどうするのかとか、継続は不可能なのかとか意味のない会話をして、意味なくグズグズしても意味がないと思って、「ダイジョブデス」と微笑んで席をたった。月末まであと何回クラスを受け持つのだろうなと思いながら建物を出た。腕時計の短針は1時半近くを差していた。

学校の近くのコンビニに寄って、おかかと書いてある削り節が入った握り飯一つと暖かい緑茶のペットボトルを買った。何も考えずに車を海岸に向けた。太平洋を眺望してこれからの事を考えたい。車は丘の一本道をくねくねと登り続けるとしばらくして丘の上に出た。丘は広場となって、目の前には大海原が広がっていた。

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リズはコンビニの袋から、握り飯と、まだ温かい緑茶を取り出すと、車を降りて草の上に腰を下ろした。

文・吉田愛一郎:私は69歳の現役の学生です。この小説は私が人生をやり直すとすればこうしただろうと言う生き方を書いたものです。半世紀若い読者の皆様がこんな生き方に興味を持たれるのであれば、オルタナSの編集スタッフにご連絡ください 皆様のご相談相手になれれば幸せです。

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