タイトル:電園復耕~大通りからそれて楽しく我が道を歩こう

なぜ人を押しのけて狭き門に殺到するのか?自分を愛し迎えてくれる人たちとの人生になぜ背いて生きるのか?
この書き下ろしは、リクルートスーツの諸君に自分の人生を自分で歩み出してもらうために書いた若者のためのお伽話である。(作・吉田愛一郎)

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◆原発崩壊

ジーンズの尻が少し湿って冷たかった。リズは土の上に足を投げ出すと、ボトルの茶を一口飲んだ。カサカサの喉が潤った。尻の少し後ろに左手をついて、もう一口ごくりと今度は多めに飲んだ。飲みながら遠くを見ると空も海も春にしてはあまりにも無表情に青かった。冬枯れで茶色になっている草原には小さい緑の双葉が所々に生えていた。

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無彩色だった東北にもいつのまにか春は忍び寄り一気に春を盛り上げようとしているようだった。しかしその時、盛り上がったのは春ではなかった。大地が盛り上がったのだ。草原は盛り上がってそのままドカンと落ちた。そしてもう一度、今度は所々が弾かれたようにてんでんばらばらに浮かび上がった。リズは自分の平衡感覚に異常が起きたのかと思ったが、それは地震だった。よろめきながら起き上ったが、どうしてよいのか分からない。

逃げ場がないのだ。振り返るとアコードがふわふわ揺れていた。やがて揺れは収まったが車は揺ら揺らしばらく揺れていた。借家している茅葺の家に戻ろうかと思ったが、しばらくここにいた方が安全だと思い直し、草原にたたずんでいた。荒涼とした景色の中で、一人ぼっちの心がささくれた別れた夫や娘の顔が頭に浮かんだ。この太平洋の対岸にいるはずだ。リズは思わず水平線を眺めた。今日の水平線はいつもより高いかなと思っていると、それはどんど大きくなってこちらに向かって攻めてくる。

ツナミ!
リズは叫んだ。そう、津波だ。どんどん盛り上がって、白い漁船を捕まえた。船はうねりに支え上げられ、サーフィンしだした。「オーマイガッ」、波頭が白く割れて漁船は波の上で向きが変って、滑るように岬の裏に消えた。津波は咆哮し、考えられないほど大きな龍となってのたうった。ここから動いてはいけない。

リズはそう思ってスマホを取りだした。英会話教室の経営者に電話を掛けようと思ったからだ。

かけてもどうしようもないことくらいわかっていたが・・・電話は通じなかった。メールは?なんて書くの?わからない。津波は2,3キロ先に少し霞んで見える原発プラントの堤防も乗り越えて建物にぶつかって波頭を大きく大きく爆発させていた。

冲では更に大きな別の津波が立ち上がっていた。今度は横並びに伏せていた何十頭もの龍が首をだんだんもたげながら迫ってくる。第一波よりもっと巨大だ。原発が壊される。「チェルノブイリ!」リズは叫んだ。車に駆け寄り、エンジンをかけた。エンジンは消え入りそうなセルモーターのすすり泣きの後、やっとかかった。とにかく原発と反対の西に逃げよう。車はタイヤを少し空回りさせ悲鳴を上げながら、海岸の道を西に走った。

文・吉田愛一郎:私は69歳の現役の学生です。この小説は私が人生をやり直すとすればこうしただろうと言う生き方を書いたものです。半世紀若い読者の皆様がこんな生き方に興味を持たれるのであれば、オルタナSの編集スタッフにご連絡ください 皆様のご相談相手になれれば幸せです。

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