タイトル:電園復耕~大通りからそれて楽しく我が道を歩こう
なぜ人を押しのけて狭き門に殺到するのか?自分を愛し迎えてくれる人たちとの人生になぜ背いて生きるのか?
この書き下ろしは、リクルートスーツの諸君に自分の人生を自分で歩み出してもらうために書いた若者のためのお伽話である。(作・吉田愛一郎)
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◆農地委員会
「一反てなんですか?」啓介が尋ねた。
「そこの畑一枚、300坪だ」
「江戸時代前は自給自足で皆が百姓だったけれど、江戸になって士農工商が確立していって、侍、職人、商人は食料生産をしなくなったんだよ。だから徳川幕府は身分的には農民を士の次に置いて、おだてながら食料生産に励ませたってわけよ」末広の話が立て板に水が流れるようになって来た。「だから百姓は一生懸命に耕作して年貢米を払ったんだ」
「農業を放棄して年貢を払わねえなんざ、村八分か追放だぜ」
「すみません」敏夫が頭を下げた。「いいってことよ。今回は俺が跡を次いで、お代官様にはお目こぼしを頼んでやるから任かせときな」
「万事、大家さんにお任せいたしやす」
「任されたついでに教えておく。士農工商で侍の次の身分ってことになったが、その百姓ってのは自分の農地を持っている百姓なんだ。英語でファーマーって言うよな。だけど百姓の大半は農地を所有していないペザントだったんだ。土地の所有どころか借地権もなかったんだよ。それが明治時代を過ぎて大正末期のデモクラシーの時代にも持続されたんだよ。だからそれは気の毒じゃねーかってことで、当時の社会主義者なんかが百姓の権利の為に立ち上がったんだ。百姓もそれに呼応して集会なんか開いて地主に盾突くようになったのさ」
「それでどうなりましたか」啓介が興味深そうに尋ねた。
「大地主は面白くねえ。地主は名家で金持ちで息子には十分教育は受けさせてたから、息子たちは政治家や高級軍人なんかになっている。御家の一大事とあれば権力を振って一挙に弾圧に動いたんだ」
「それで」と敏夫。
「軍隊が動いてムシロ旗なんか振ってる百姓は一網打尽だ。みんなぶち込まれた」
「働き手が監獄じゃあ畑仕事は誰がするんですか」敏夫が言った。
「誰もいやしねえから米が出来ねえぜ。軍も食糧が無くて困ってしまった。しかたなく政府も小作人の弾圧は止めて、やっぱり江戸時代みてえに、生かさず殺さずの方針にして、おだてたり騙したりしてもっと働けせるようにしたんだ」
「どんなふうにおだてたり騙したんですか」と啓介。
「農地委員会なんてえものをこしえて『農業問題はみんな対等に話し合いによって進めましょう』とかいっておだてて騙したんだ」
「えっ、なんでそれが悪いんですか?」と啓介が言った。
「悪いさ、小作人は徒党を組んで暴れるから地主も困っていたんじゃねえか。それが何人かの代表を出して話しましょうじゃ圧力になんねえ。いいか、徒党を組んでいたから大声で騒げた奴らが、少人数で普段は御世話になっている地主様の前で何が言える?結局は竜頭蛇尾でまたコメ作りに励んだって思いねえ」
文・吉田愛一郎:私は69歳の現役の学生です。この小説は私が人生をやり直すとすればこうしただろうと言う生き方を書いたものです。半世紀若い読者の皆様がこんな生き方に興味を持たれるのであれば、オルタナSの編集スタッフにご連絡ください 皆様のご相談相手になれれば幸せです。
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