元文部科学副大臣の鈴木寛氏が主宰する、一般のビジネスパーソン向けの私塾が好評だ。鈴木氏は、慶応義塾大学などで「すずかんゼミ」を開いており、日本を代表する社会起業家を数多く輩出してきた。鈴木氏は、ゼミで教えてきたメソッドをオープン化し、「敗者のいない、共生社会をつくりたい」と強調する。(聞き手・オルタナS副編集長=池田 真隆、横浜支局=細川 高頌・横浜国立大学教育人間科学部4年)

数々の社会起業家を輩出してきた「すずかんゼミ」を主宰する鈴木寛氏

数々の社会起業家を輩出してきた「すずかんゼミ」を主宰する鈴木寛氏

――鈴木さんが主宰する「すずかんゼミ」からは日本を代表する多くの社会起業家を輩出しています。このたび、その門戸を大学だけでなく、一般のビジネスパーソンにも広げた、「ソーシャルプロデューサーズスクール」を立ち上げました。その目的は何でしょうか。

鈴木:グローバル資本主義は加速し、あまりに競争が激しくなり過ぎています。競争に巻き込まれて、誰かが負けたり、切り捨てられてしまうことが嫌です。争わず、敗者もでない共生社会をつくっていくことが最終的なゴールです。

そのために、この私塾では、自分の人生を自分でデザインできる人を増やしていきたいと思っています。

――私塾では、「自発性」がテーマです。どのようなことを教えているのでしょうか。

鈴木:1995年から「すずかんゼミ」を主宰してきましたが、教え方は一貫して変わっていません。「教えないこと」を貫いています。

――教えないとはどういうことでしょうか。

鈴木:ぼくは「太鼓です」と塾生には伝えています。つまり、大きく叩けば、大きく響き、小さく叩けば小さく響きます。

そもそも、教えるということが違っていると思います。教えてしまうから、みんな受け身になっていくのです。塾生とともに学び合うという表現が適しています。

自発性を鍛えるには、教えないことが重要です。だから、塾生自ら、太鼓を叩きに来るまで、ねばり強く待ちます。叩いてきたときに、全力で応えるために、さまざまな引き出しを用意しています。

鈴木氏とともに、ソーシャルプロデューサーズスクールを運営する笠井

鈴木氏とともに、ソーシャルプロデューサーズスクールを運営する笠井成樹さん

――山口県庁へ出向していたときに松下村塾にも通ったそうですが、そこでの影響は受けておりますか。

鈴木:松下村塾には初めて行ったときに感動し、それ以来、20回ほど通いました。10畳半と8畳の小部屋で、2年あまりでわずか数人のみを相手に教えます。そこでは、多くのことを学びました。吉田松陰はものすごい量の引き出しを持っています。しかし、彼は聞かれるまでは出しません。

――「太鼓」になったのは、松下村塾での学びがルーツにあるのですね。通産省時代には、シリコンバレーに行き、日本の通信環境を世界トップに引き上げるべく働いていました。その当時の経験談などを塾生に話すことはありますか。

鈴木:阪神淡路大震災後、シリコンバレーに行くようになりましたが、そこでは、まったく違う人種のビジネスパーソンと出会いました。ノーネクタイで、みんなTシャツと短パン。見栄えはいい加減な兄ちゃんでしたが、彼らが世界を変えていました。

特に印象に残っているのは、インターネットを閲覧するためのブラウザを開発した、マーク・アンドリーセンです。当時、ぼくは31歳で、マークアンドリーセンはイリノイ大学を出たばかりの20代の若者でした。

塾生には、彼らと同じ年のマークアンドリーセンの話を出して、「君たちも世界を変えることができるんだ」と伝えています。

また、そもそもぼくが社会起業に関心を持った背景の一つには、インターネットがあります。インターネットのガバナンスは技術ではなく哲学だと思いました。

その一つに、インターネットは誰も回線を保障していない。それまでは、NTTが通信を保障していた。不具合があったらNTTが復旧に全力を尽くす義務を負っていました。しかし、インターネットは誰も保障していなく、最初のころは迷子メールも多々出ていました。

インターネットの広がりを表す言葉として、「ベストエフォート」があります。それぞれが自分の持ち場に関して、最善を尽くすという意味です。市民一人ひとりが回線を引くことで、インターネットがつながりました。

米国にはスマートバレーインクというNPO法人がありました。学校に無料でインターネットを引く団体です。ITに詳しい大人たちが、技術と時間を持ち寄り、各地域を活性化していました。

誰も保障していないのに、保障しているサービスよりも広がりが早くて、効率が良くて、なおかつ安い。もし、どこかの大企業がインターネット網を引くことにしていたら、まだ全然引けていなかったでしょう。

インターネットは、「ザ・インターネット」と言います。インターネットは全部つながっているということで、世界に一つしかないという意味です。こういうガバナンスが哲学であり、思想だと感じました。

シリコンバレーの経営者たちは、それまで日本で見てきた経営者とは違って、金儲けではなく、世界を良い方向に変えていきたいというフロンティアスピリットがありました。

彼らがインターネットを発展させることで、これまでの中央集権型の社会から自立・分散・協調ができる社会になるだろうと思いました。

参加者と記念撮影

参加者と記念撮影

――ソーシャルプロデューサースクールの前には、社会創発塾という私塾も開催しました。4期で合計200人が参加し、期ごとに応募者が倍増しています。自発性を引き出したいと思う人が増えている背景には何があるとお考えでしょうか。

鈴木:参加者は、日本の名だたる大企業に勤めている20代が多いです。なかには、医者もいる。彼らに共通するには、自分の思いに素直になれるコミュニティに所属していないことです。所属している会社では、ガバメントがきつく、自由がなくなり、歯車の一つになっています。

効率化の中で、上司も株価を気にして、部下を育てる余裕がなくなっている。そんな環境では、自発性が育たない。

一昔前は、若手の失敗は、上司が尻ぬぐいしていた。相手先も、「お互いさま」とそのミスを許容していた。社会全体で、若者を粘り強く育てていこうとしていた。

――余裕がない社会だからこそ、この私塾を立ち上げたのですね。

鈴木:会社の中でつくるのは無理だから、安心してバカになれる場所、失敗できる場所をつくろうと思いました。

――この私塾から自発性を鍛え、共生社会を目指しています。共生社会とはどのような社会でしょうか。

鈴木:競争のない社会なのですが、イメージとして、劇団に近いです。ぼくは大学のときに劇団に所属していて、音楽監督をしていました。

劇団には、ありとあらゆる役割があります。主演、脇役、そして、裏で支える衣装、大道具、小道具、照明、音楽、演出、脚本など。誰か一人でもかけるとできないので、お互いにお互いをリスペクトしていました。

でも、効率化を目指す工場では、その人がいなくなったら、入れ替えれば済む話です。劇団には、それぞれにちゃんと居場所と出番があります。

もっと芝居がうまくなりたいと努力します。それも、強制された努力ではないため、徹夜もいとわない。仲間たちと、うまく絡み合いながら、一人ではできないことが、できたとき、人目もはばからず号泣する。ぼくは大学時代の4年間を劇団に捧げてきましたが、これが資本主義の次にある世界だとイメージしています。

人は、高校野球に感動するように、レベルの問題ではなく、一生懸命な姿に涙します。幼稚園生の歌でも感動します。カラオケマシーンで歌ったら、10点も出ないような歌唱力でも、です。人の評価を気にせず、自発的にがんばっている姿に、人は心を動かされるのです。

・ソーシャルプロデューサーズのウェブサイトはこちら

・ソーシャルプロデューサーズスクールの説明会を1月29日開催。詳しくはこちら

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