気仙沼で6日間、自問自答し続ける大学生向けの合宿がある。参加者は、地元住民らと話し、山や海などの自然に触れながら、自分は何がしたいのかを徹底的に考え抜く。進路に迷っている大学生にはおすすめだ。(オルタナS副編集長=池田 真隆)

合宿では、自分の人生グラフをつくりあげる

合宿では、自分の人生グラフをつくりあげる

「大学生が、この場所で、これからしていきたいことを考え直すことにインパクトがあると思っている」――。この合宿を主催する認定NPO法人底上げ(宮城県気仙沼市)の斉藤祐輔・副理事長(29)は、企画した狙いをそう話す。気仙沼にこだわるのは、「復興へ前を向いている人たちが多く、街がパワーを持っているから」(斉藤)。

合宿では、全国から10人の大学生が集まる。6日間、寝食を共にしながら、「壁打ち」という名の対話を繰り返す。そもそもこの合宿を企画した背景には、同団体が大学生の進路の決め方に違和感を持ったからだ。

将来的にいまある仕事の半数がAI(人工知能)に代替されるという調査結果が出ている。就職しても、3年で3割が辞めている。斉藤さんは、「安心・安定を求めている学生は多いが、こんな時代だからこそ、『やりたいこと』を見つけてほしい」と強調。

同団体は、東日本大震災を機に立ち上がった。立ち上げたのは、斉藤さんと、理事長を務める矢部寛明さん(33)と、理事の成宮崇史さん(33)の3人。全員、出身は関東。気仙沼との出会いは、矢部さんが2008年にママチャリで日本一周をしていたとき。

そのときに、気仙沼にあるホテル「望洋」に無償で泊めてもらった。矢部さんは震災後、そのときの恩返しがしたい一心で、望洋に駆けつけ、復興支援を行った。2012年3月の卒業で、内定も決まっていたが、まだまだ復興への道のりは長いと感じ、内定を辞退した。

斉藤さんは、矢部さんとともに、気仙沼で活動しており、本格的に活動していくため、この街で復興支援を行っていた成宮さんに声をかけ、2012年5月に団体を立ち上げた。

合宿では輪になり、参加者が思いを話す。右端にいるのが斉藤さん

合宿では輪になり、参加者が思いを話す。右端にいるのが斉藤さん

同団体は、気仙沼の高校生のサポートを行う。街のためになる活動を行う高校生を支援する。企画内容は問わず、高校生がやりたいと思ったことを応援する。

だが、安易に高校生たちに手を貸すことはしない。周囲の大人たちにも協力は求めるが、あくまで高校生の自主性を尊重してほしいと伝える。企画から実行まで、すべて本人たちでやらせることで、自分と向き合う機会をつくっている。

これまでに高校生たちは、観光ツアーなどを企画した。気仙沼は国内有数の漁港都市。カツオやフカヒレなどが有名で、年間250万人が観光に訪れていた。しかし、震災が起き、その数は43万人にまで落ち込んでしまった。

震災後すぐに市場は復旧し、震災から3カ月後には市場で水揚げを再開した。しかし、大人たちは生活に関わる市場の復興を優先したため、観光には手が回っていなかった。その状況を見て、高校生たちが動きだした。

そのツアーでは、気仙沼の「恋人」にまつわるスポットを巡る。気仙沼は国文学者である故・落合直文の出身地。落合直文は「恋人」という言葉を日本で初めて使った人物。そこで、気仙沼市内にある恋人にまつわるスポットをリーフレットにまとめて紹介した。

高校生たちが気仙沼観光コンベンション協会へ恋人リーフレットを届けた贈呈式で

高校生たちが気仙沼観光コンベンション協会へ恋人リーフレットを届けた贈呈式

同団体では、高校生に企画を実行させ、成長させてきたノウハウがある。そのノウハウと経験を、大学生向けに応用したのが、今回の合宿だ。

この合宿の名称は、「SOKOAGE CAMP(ソコアゲキャンプ)」。2月12日から17日までと、2月20日から25日までの2期で行う。それぞれ定員は10人。参加者が直接的な支援を行うのではなく、自己分析を行うことがメインコンテンツ。自問自答を繰り返す中で、気仙沼の住民とつながりをつくり、この地で学ぶ。

初日は、全員で利用する施設の掃除から始める。環境は自分でつくれという思いを込めた。日中は地元住民らの話を聞き、どう生きたいのかノートに記す。夜は輪になり、思ったことを話し合う。気分転換に、気仙沼を見渡せる標高239メートルの安波山に登り、海にも入る。

自然に触れて、仲間との絆を深める

自然に触れて、仲間との絆を深める

合宿では、「教えることはない」と斉藤さんは言う。一見、矛盾したようにも聞こえるが、その理由はこうだ。

「どんな生き方があるのか、ロールモデルは提示するが、こちらから教えることはしない。合宿中は、その人の話を聞く。ずっと聞いている。いまどこに居るのか、これからどこに行きたいのかを自分で書かせる。はじめはとってつけたものだったり、表面的でかっこいいものだったりする。でも、だんだんと嫌な部分が見えてきて、それを吐き出させる。吐き出すことで、自分の現状が把握でき、その上で理想を考え、いまとのギャップを埋めていく」

斉藤さんは、「この合宿に来たからといって変われるわけではない」と、あえて突き放すが、そう言ってしまうのは、参加者に主体的に考えるようになってほしいという気持ちの強さから。

参加者には、キャリアについて立ち止まって主体的に考える機会がなかった人もいる。そのような人の中には、自分の気持ちが見つからずに、悩みに悩み、泣いてしまう人もいるという。そんなときには、「ぼくたちは答えを持っていない。どうするかは君次第だよ」と伝え、成長を見守り続ける。

・SOKOAGE CAMPの公式サイトはこちら

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