大震災を経験した東北の小さな漁師町にはどのような人が住んでいるのか。東日本大震災から6年が経過したなか、復興へ向けて立ち上がる人々の素顔を若者が追った。自宅や漁船が被害に遭い、親友まで失った彼/彼女らはどのような思いで日々を生きているのか話を聞いた。

舞台は、岩手県陸前高田市広田町。人口3500人で、広田湾に面した漁師町。震災時には、広田湾と太平洋の両側から津波被害を受け、本島と分断された。死者・行方不明者は50人超、1112世帯中400の世帯が全壊・半壊となった。町に1校あった中学校も津波で流され、150隻あった漁船も1隻を除いて全てなくなった。

広田町は外部のNPOを受け入れていなかったが、震災を機に、この町はある団体と出会った。20代の若者たちからなるNPO法人SETだ。

同団体では、毎年都内に住む大学生を広田町に連れてきて、住民とともに地域の課題を解決する企画を行っている。今回、SETの学生メンバーが広田町の住民にインタビューした。

■クールなワカメ漁師は大の漫画好き

広田のお兄さんは、漫画とゲームをこよなく愛するワカメ漁師だ。父親の病気で、急きょ引き継ぎ、謙虚に誠実に仕事をこなす。クールな性格だが、漫画とゲームの話題になれば、愛嬌のある顔を見せる。(NPO法人SET=野尻 悠・拓殖大学政経学部4年)

岩手県陸前高田市広田町。ワカメの養殖が盛んなこの町に1人のワカメ漁師がいる。伊藤正光(37)さんだ。ワカメ漁師を始めて7年目の若手漁師である。寡黙で仕事に誠実だが、漫画とゲームをこよなく愛するという一面も持つ。

ワカメ漁師の

ワカメ漁師の伊藤さん

伊藤正光(37)さんは、ワカメ漁師を始めて7年目の若手漁師である。伊藤さんは7年前、父親の病気によって、急きょこの仕事をすることになった。それまでは、カラオケや居酒屋などでアルバイトをしていた。

漁業の経験はなかったが、日々新たな発見があり、7年たった今でも漁師に対するやりがいや楽しさを感じている。

謙虚な姿勢は変わらない。漁船の運転を取ってみても、「まだまだ先輩にはかなわない」と言う。

ワカメ漁師の仕事場は海。相手は自然であり、その時々で状況は変わる。正解はなく、常に自分の頭で最善の答えをその場で出していかなければいけない。

しかし、それがまた面白さでありやりがいなのだと伊藤さんは言う。まるでテレビゲームを攻略して少年のような顔を見せる。

ワカメ漁はシーズンである2~5月以外にも、仕事は1年中ある。2月から5月はひたすら成長したワカメを刈り取り、他の月には、ウニ・アワビ・ナマコ漁をはじめ、開口モノの海藻を採ったり、製氷工場でサンマ船に氷を積むアルバイトをしていたりと、落ち着く時期はあるものの日々活発に動いている。

趣味は漁師とは結び付かないが、ゲームや漫画だという。チャットでつながりながらゲームをし、ネットで気に入った漫画を読み漁る。

最近面白いのはこれだよと、とても楽しそうに漫画を紹介してくれた。いつでも読みに来いよと言ってくれるので、伊藤さんの自宅は若者のたまり場になりやすい。

実際、伊藤さんが帰ってきたら若者が布団に寝ていたり、ソファーで横になって漫画を読んでいたりする光景が少なくないという。

伊藤さんの癒やしは、家に帰ると出迎えてくれる2匹の猫。外ではクールで、優しい性格だが、猫に触れるとより柔らかい口調になる。

広田町に住んでいる人からすると、伊藤さんの第一印象は、シャイで寡黙。だけど、仲良くなると、伊藤さんの話に魅了される。本当に人のことをしっかりと見てくれていて、若者からの信頼が厚いお兄さん的存在だ。

■若者に対して

伊藤さんはChange Maker Study Programの第1期から関わってくれている。新しく、広田町に来る若者に対して、「やるぞ!と意気込んで来るのもいいが、あまり気張らずふらっと来いよ。広田の自然だけでなく、ここの環境で育った人に魅力を感じて来てくれたらうれしい」と話した。

若者が広田に来てくれることを楽しみにしている。その若者たちと触れ合って楽しく暮らしたいと言う伊藤さんは、今日も黙々と海へ船を出す。

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