有志の学生からなるOpen Talk Café事務局は2月11日、トランプ政権発足後の社会で、メディアや情報との向き合い方について議論するイベントを行った。登壇したのは、社会問題の現場を訪ねるスタディツアーを行うRidilover(リディラバ、東京・文京)を立ち上げた安部敏樹代表、ザ・ハフィントンポスト日本版の竹下隆一郎編集長、エウレカ(東京・港)の西川順共同創業者 取締役副社長COO&CFOの3人。要旨は以下。(オルタナS副編集長=池田 真隆)

会場は超満員となった=2月11日、東京港区にあるエウレカ本社で

■「メディアは体系立てた知恵をつくれ」

トランプ政権誕生の背景には何があるのか――。若者を中心に約100人が集まった同イベントはこのトピックから始まった。

竹下氏は、トランプ政権が発足したことで、オバマ政権が掲げていたダイバーシティやグローバル化に関する施策が止まり、「政治で理想を語る時代は終わった」と話した。

続けて、「トランプが勝つとは思っていなかった」とし、ハフィントンポストではトランプ関連の記事は政治欄ではなく、エンターテイメント欄に入れていたという。

当選した時、世界17カ国のハフィントンポストの編集長が集まり、会議をしていたが、「みんな顔が青ざめていった」(竹下氏)。

ファシリテーターを務めた、文部科学省の留学奨学金制度「トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラム」派遣留学生の渡部清花さん(東京大学大学院生)

安部氏は、「トランプが好きか嫌いかは別として、勝つと思っていた」と述べた。そう考えた理由はこうだ。「クリントンのような賢い人に反論できる術を持っていない人は、『どうせ自分が何を言っても変わらない』と胸の内で思っている。実際、こう思っている人は多いはず。トランプ政権の発足はそのことが表面化してきたことを表している」。

西川氏は社会を変えていくことを真剣に考える契機になったとして、ポジティブに捉えた。トランプ政権から社会の変え方について話題が変わると、安部氏がメディアのあり方について言及した。

「体系立てて伝えないで、ただ情報を垂れ流しているだけのメディアは質が悪い」と批判し、「どうやって体系立てて知恵をつくるかという教育的な視座や読者と一緒に育てていこうという観点が欠けている」と言い切った。

竹下氏は、「どうしようもない時代になっている」と警鐘を鳴らした。「新聞やテレビ局など金まみれのメディアではなくて、市民が情報を手に入れれば、お金に囚われない新しい情報が出てくると言われていた。しかし、市民が自由と発言権を手にしても、結果はこうだった。フェイクニュースや各自のイデオロギーに基づいた発信などが始まって、どうしようもない時代になっている」。

安部氏は、「メディアを読む側の言語化能力の差に格差がある。そういう中で、我々は十分な教育を受けてこなかった貧困層の人と対話できる能力があるのか?ということがむしろ問われているのではないか」と話した。

左から安部氏、竹下氏、西川氏

米国との付き合い方、どうする?

会場にいた学生から、「日本がこれから米国とどのような関係を築いていくのか不安に思う。国民の知らないところで物事が勝手に決められていくのではないか」という質問が出た。

安部氏は、「政府が他国と交渉するにあたって、情報公開できるものとできないものがあることは理解できる。変わっていくことを不安に思っても仕方がない。周辺環境が変われば当然、我々国民も変わっていかないといけない。むしろ積極的にどう関わっていけるかを考えていけば良い」と答えた。

竹下氏は、学生の意見に共感し、「自分も不安である」と明かした。「政権の人たちからも、自分たちでさえ何が起きているのか分からないと聞く」。

では、そんなときどうすれば良いのか。竹下氏は、「とことん自分を追求すべきだと思う」と主張。「トランプ側の人たちの意見も聞くべきだと言われると思うが、全くそうは思わない。そこは無視してよい。無理して今のうちから理解しなくても良いので、表面化したときにいかに対応できるのかが大事」とした。

安部氏は、ドイツの哲学者であるユルゲン・ハーバーマースが提唱した「生活空間とシステム」の概念を用いて不安になる背景を説明した。

ハーバーマースは、自分の居場所があると思う範囲を生活空間として、自分の居場所と思えない領域をシステムとした。情報量が増えて、社会が複雑化すればするほど、自分の認知を超える。自分の認知レベルを超えると、どう行動をすればいいか分からなくなってしまうという。

情報化社会になり、昔と比べると生活空間が減っている。この状態を自覚した上で、次のアクションを決めていったらいいのではないかと話した。

渡辺さんと一緒にファシリテーターを務めた、安田知夏さん(東京大学大学院生)。文部科学省の留学奨学金制度「トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラム」派遣留学生である

続いて会場からは、「日本で分断が起きているか」という質問が出た。安部氏は、「分断は日本で起きていると思う」とし、「分断は不可逆的にというか、ずっと起こっている。それを乗り越えなければならないとか、その人たちと話さなければいけないとか、口で言うのは簡単だが、今の世界情勢のなかで、それはやるべきではなくて、その分断は、分断として受け入れるしかないのかなと思う」。

「多様性やダイバーシティは一旦置いて、自分たちの国家、自分たちのコミュニティ、自分たちの仲良い人たちだけで、もう一回立て直していこうっていう動きが起きている」

竹下氏も、「分断は人間の本性」と考える。日本での難民の受け入れに関して、「難しいと思う」と考えを述べた。

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