タイトル:電園復耕~大通りからそれて楽しく我が道を歩こう
なぜ人を押しのけて狭き門に殺到するのか?自分を愛し迎えてくれる人たちとの人生になぜ背いて生きるのか?
この書き下ろしは、リクルートスーツの諸君に自分の人生を自分で歩み出してもらうために書いた若者のためのお伽話である。(作・吉田愛一郎)
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◆山菜
この地域の春の山菜は、フキノトウから始まって、ワラビ、ぜんまい、こごみ、タラの芽などだが、今の時期はフキノトウとよめ菜の若芽くらいしかない。
家に米と醤油くらいはあるだろうから、白い飯によめ菜を混ぜて皆で喰おう。啓介とバースデーが車を降りるまでもなく、よめ菜が収穫できると、軽トラはすぐに出発した。
カラマツ林を抜け、上り坂を何度かギアチェンジをすると林の切れ目から家が見えてきた。煙突から煙が棚引いていた。さらに近づくと家の雨戸がいくつか開け放たれて、リズがベランダから手を振っているのが見えた。
敏夫が警笛を鳴らしてそれにこたえて軽トラをベランダに横づけした。それぞれハイとかお早うとか言いながら人と犬は車を降りた。リズも「ハーイ」と言って皆を迎えた。午前中寝ていたようで、目元がすっきりの灰色の目は穏やかに微笑んでいた。
家の中では四角い鋳物で出来たストーブに火が入り、昨夜まで張っていた氷はみなはがされ、板の間からは湯気が上がっていた。皆が靴を脱いでいるとリズがバースデーに向かって「ウェイ、ウェイ」と言った。
彼女はストーブの上で湯気を立てていた大きなカナダライをベランダまで運んで、犬の足を洗った。バースデーは足を拭かれるのももどかしそうに、部屋に走りこんだ。リズは茶色くなった湯をベランダに捨てるとベランダにも湯気が立って、なんだかあたりが和やかになった。
啓介が水道が直っているのを皆に告げると、すべてがもっと和らいだ。皆が畑から帰るちょっと前に水道屋の男が訪ねてきて、水道を直して帰ったのだとリズが説明した。水道屋の五味さんはリズを見て驚いたろうなと敏夫は一人でくすくす笑いながら台所に立つと、末広に米と炊飯器の場所を聞いた。
車の中で末広と敏夫は昼飯の相談をしていたのだと啓介は思った。「ホワイトライス アンド 草 オンリー」と末広が言った。啓介は「スチームド ライス ウィズ マウンテンベジタブルズ」と言い直してテーブルに積まれたよめ菜を指差した。
リズは不ぞろいな茶碗やコップをテーブルの上に並べると、ストーブに乗っていたやかんからそれぞれの湯飲みに湯を注いだ。皆はそれを有りがたく飲んだ。湯を一口飲んだ啓介がリズに畑で太陽光発電をすることを嬉しそうに説明した。
するとリズも自分がドイツの村にいたことを語りだした。なんでもその村は若者が都会に出て行ってしまった典型的な過疎の村だったらしい。しかしその村は村長の英断で奇跡的な変貌をとげたという話が始まると、啓介はたちまち聞き手に回ってしまった。リズは皆を見回すと、村長の英断を聞きたいかと尋ねた。一同は一様に身を乗り出して頷いた。バースデーはリズの膝の横にお座りしてリズを見上げていた。話の催促をするようだった。
文・吉田愛一郎:私は69歳の現役の学生です。この小説は私が人生をやり直すとすればこうしただろうと言う生き方を書いたものです。半世紀若い読者の皆様がこんな生き方に興味を持たれるのであれば、オルタナSの編集スタッフにご連絡ください 皆様のご相談相手になれれば幸せです。
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