「地方創生会議」という言葉が、6月10日と11日、2日連続でツイッターのトレンドランキングで1位に輝いた。これは、和歌山に住む大学生が高野山(和歌山県高野町)で開いたイベントの名称である。「地方創生」に携わるキーパーソンが47都道府県から300人集まった。当日は、「メディア」、「6次産業」、「フリーランス」などをテーマにした6つのトークセッションや「日本の魅力地図」をつくるワークショップを行った。(オルタナS編集長=池田 真隆)

全国47都道府県から300人が集まった

地方創生会議に登壇したゲストは多彩な21人。ロハスなライフスタイルを提案する雑誌「ソトコト」編集長の指出一正氏やシェアリングエコノミーを推進する、上田祐司氏(ガイアックス 代表執行役社長/一般社団法人シェアリングエコノミー協会代表理事)、クラウドファンディングCAMPFIRE代表の家入一真氏、そして、ブログ「まだ東京で消耗してるの?」で知られるプロブロガーのイケダハヤト氏らだ――。講演の要旨は下記。


■「ソトコト」編集長・指出一正氏
ぼくはとびきり熱いキーワードを持ってきました。「街を編集する」です。この価値観をみなさんと共有し、各都道府県で編集者が増えるといいなと思います。地域に住む皆さんも編集者として街に関わると、まちの解像度上がり、地域で面白いことが増えると思います。

少し前は「デザイン」という言葉がキーワードでした。そこから派生して「街のデザイン」や「コミュニティデザイン」という言葉がありましたが、次にそのバトンを受けるのは「編集」だと思います。なぜかというと、編集スキルは誰でもできるものだからです。デザインはスキルが必要ですが、ホームビデオや小学生の紙新聞作りも、「編集」になります。

よく「美味しい水」や「百選に選ばれた景色」についてアピールしている地域がありますが、実は差別化にはならないと思っています。どの地域でもあるからです。人が温かいという「人情」も。どの地域にも一定の人はいます。

だから編集者は冷静な目で見て、ドライに捨てるところは捨てなくてはいけません。今、どの情報を、みんなに伝えたら、まちが元気になるかが大切な視点だと思います。


■「ジモコロ」編集長・徳谷 柿次郎氏
地域に人を呼び込むためには「雰囲気作り」が必要で、私は「ファンタジー性」と呼んでいます。例えばプロレス=強そうというイメージがあると思います。ですが、その雰囲気をどう作るかは「人が勝手に持つ期待感」だと思います。

地域ではその空気感を、土地ごとに吹き込んでいる人がたくさんいると思います。「和歌山が空気感的に盛り上がっているからいこう」と感じさせると、取材する側も足が動く、そうゆう雰囲気作りです。それを地域と連動してどう仕掛けるかということが、大切だと思います。


■高野山三宝院 副住職・飛鷹 全法氏
私は務めていた渋谷のベンチャー企業から、1200年の歴史のある高野山のお寺に養子に入りました。最先端のテクノロジーから、伝統の古い世界に入ったことで、真逆のあり方が見えてきました。

伝統は古いものですが、古過ぎたものは伝統として継承されなくなります。伝統が過去から未来へのバトンリレーだとすると、今出合っている伝統に、私たちが新しさを感じないと次につながらないのではと思います。

高野山は涓塵(けんじん)という、今のクラウドファウンデングにつながる風習があります。このように高野山に残っている多くの伝統が、今の時代のヒントになるのではないでしょうか。そう考えると伝統に帰ることは決して後退ではなく、前進することではないかと思います。


■キャンプファイヤー代表・家入一真氏
去年、地域を巡って気付いたことは、「地方創生」という言葉は好きじゃないなって思いました。当時は言葉を聞く割に、匂いを感じない気がしました。従来のマジョリティのような、仕組みに当てはめようとしていると思いました。

でも、一人ひとりと出会う機会があり、話をすると、それぞれの思いや小さな物語がたくさんありました。ガイドブックに載っていない景色、食べログにないおいしい料理店のような小さな物語がたくさんあって、その集積が地方創生の本質ではないかと思いました。

その小さな声を作っていくために自分ができることを考えたら、地域パートナー制度でした。地域で頑張っている人に使ってもらえるサービスにするために、ローカルパートナー制度を作りました。地域に根ざした人と連携して、小さな魅力を積み重ねていきたいです。


■プロブロガー・イケダハヤト氏
ぼくは今、「イケハヤ経済圏」を作ろうと思えば作れます。法律や税のようなものもシステムを使えば作れます。日本円じゃなくても、各自のコインで生活ができるようになってくるようになってくるでしょう。地方は人が少ないので自由度がすごく高いです。家が10件持てたり、車を20台持てたりということも可能なのです。


■北陸大学経済経営学部教授・教育政策アドバイザー藤岡 慎二氏
高校がなくなることは、その地域に人がいなくなることなので、高校を守ることは地域を守ることだと思っています。生徒数を伸ばさないと高校はなくなってしまうので、その地域でしかできないカリキュラムをつくること、離島で塾がないので公営の塾を作ること、寮をつくることで全国から生徒を呼んできています。

寮と公営の塾とその地域でしか学べないカリキュラムの3本柱で、その地域の子が行きたい、地域の保護者が行かせたい、地域外の人も来たいと思ってもらえるようにして高校を守ろうとしているのが高校魅力化プロジェクトです。


■衆議院議員・元内閣府副大臣 平 将明氏
もしかしたら行政はやりたいことを邪魔してばっかりだというイメージがあるかもしれません。でも実は、国はいまかなり柔らかくなっています。国家戦略特区がそうです。地域ごとに何かをやらせてほしいけどいまの法律ではできない。けれども、その地域だけ認められれば、その地域はアドバンテージになるんですね。

私が国家戦略特区で関わった秋田県の仙北市という7割が国有林のまちがあります。国有林はあれこれやってはいけないことが多いのですが、そこの市長が国有林で豚の放牧をやりたいって言ってきたんですね。

それを国家戦略特区で認めました。そうこうしているうちにドローン特区もやりたいということになって、仙北市はドローン特区になって、いろんな手続きを簡素化してやるようになり、田沢湖でレベル4の車を走らせたいと言って走らせるようになりました。

地域の経済を成長させるといったときに、国の成長戦略の政策をつくる際は、自由貿易の規制改革をします。だから特区は地方限定の規制改革です。特区をとりにいくのが一番良くて、年に1、2回は公募もしています。そういう意味で、意外と政治は柔軟になっています。だから政治を毛嫌いしないで相談してください。

■「日本の魅力地図」を冊子に

地方創生に関して、それぞれが持論を展開して盛り上がったが、実はこの大規模なイベントを開いたのは、和歌山大学観光学部4年の小幡和輝さん(22)だ。小幡さんは2012年から、和歌山の魅力を語り合う若者向けのイベントを開いてきた。

そのイベントでは、ゲストを呼んで、和歌山の魅力を語ってもらい、その後、参加者どうしで魅力を話し合う。今回の地方創生会議は、その全国版。全国からキーパーソンを招き、トークセッション後に、参加者が各都道府県の魅力をまとめた「地図」を作った。

体験談をベースにした「魅力」を書いていった

検索エンジンでも調べられない「日本の魅力地図」を目指した

このワークショップでは、「観光地」、「名産地」、「歴史」などその地域で一定の認知度があるものを用紙に書き、それについて観光大使になったと仮定して、アピールポイントを記述する。当日作成した地図は、約100Pの冊子としてまとめて、クラウドファンディングのリターンとして届ける予定だ。

■CFで406万円調達

小幡さんは、地方創生会議を企画するにあたって、企画費をクラウドファンディングで集めた。100万円を目標としていたが、最終的にはその4倍となる406万5000円が集まった。地方創生に関心のある人が全国47都道府県から集結するということで、後援にも、総務省や内閣府地方創生推進事務局などがついた。

小幡さんは、「地図を作るワークショップは僕が一番はじめに企画したイベントで行ったものです。高校3年生のときでした」と振り返る。「和歌山に住んでいる人が、地元の魅力を書き、それを1つの地図にしてくことで、地域の魅力を再発見することを目的としました」。

「今回はその全国版でした。この場所に集まる方達がどのような切り口で、地域の魅力を発信するのか。そして、ほかのテーブルを回り、他の地域の魅力を知り、それが交流のきっかけになればという想いでした。とても魅力的な地図が出来上がると思います」

レセプションパーティーでは和歌山県の食材を用いて、ミシュラン一つ星を獲得した一流のシェフらが腕を振るった

「地方創生アワード」では参加者全員がプレゼンテーター。みんなが応援したいと思った活動を表彰した

グランプリには「タビト學舎」の飯貝誠さん(右)が選ばれた。表彰したのは、小幡さん

■すでに次回イベントを企画中

小幡さんは小学校低学年から中学校まで不登校だった。「集団生活や規則が嫌だった」として、学校に行かずに部屋でゲームをして過ごしていたという。その後、地元の定時制高校に進学した。

高校2年生の頃、校内で偶然、NHKが主催する中高生向けイベントのチラシを目にした。NHKの番組に、全国から中高生が集まり意見を発言する趣旨のイベントであった。

チラシを見たときに、直感で行こうと決めた。しかし、イベントに参加した小幡さんは、「悔しさ」を感じたと話す。すでに活躍している同世代と出会い刺激を受けたからだ。

そこで、不登校だった経験を話せば、「自分でも誰かを勇気付けられるのではないか」と心機一転、ワークショップやセミナーに参加するようになる。

地域活性化にきっかけを持ったのもこの時からである。「地域活性化のセミナーに参加していたが、同じメンバーばかりで、内容も若者向けではないなと感じる話ばかり。だから、若者向けの地域活性化イベントを開催しようと思った」とイベントを主宰するようになった経緯を話す。

今回のイベントでは、地方創生のキーパーソンの横のつながりをつくることができた。すでに次回の開催に向けて動き出しているという。「引き続きどうぞよろしくお願いします!」とコメントをもらった。次回の企画はどのようなことを考えているのか、楽しみである。

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