日本で2015年末までに無人探査ローバー(探査車)を月面に送り込むプロジェクトが行われている。プロジェクトを動かしているのは、国内政府ではなく、民間組織である。日本初の民間組織からの無人月面探査の実現を目指す。



近年、中国などを始め新興国では国家戦略として月探査や火星探査を推進する動きが見られるが、先進国では国家予算削減の影響で、民間での宇宙開発が進んでいる。特に世界的に有名なIT長者にその傾向は多く見られる。

グーグル創業者のラリーペイジ氏は小惑星探査を手がけ、ペイパルの前身であるX.com社を設立したイーロン・マスク氏とアマゾンの創設者であるジョフ・ベゾス氏は共にロケット開発を行っている。いずれも、豊富な資金力と高度な技術力を生かし、民間主導の多種多様な方法で宇宙開発を手がける。

一方、日本の民間組織を動かしているのは、日本有数のIT長者ではない。本業は経営コンサルトの33歳の男性と、この活動に共感してボランティアとして協力する仲間たちだ。

その民間組織はホワイトレーベルスペース・ジャパン。経営コンサルタントの袴田武史さん(33)が代表を務め、開発を主導するのは東北大学大学院航空宇宙専攻の吉田和哉教授である。吉田教授は、小惑星探査機「はやぶさ」のサンプル取得機構開発に従事した実績を持つ。

同団体は、X PRIZE(エックスプライズ)財団が運営し、グーグルが冠スポンサーの民間無人月面探査の国際レースに日本で唯一出場している。期間は2015年末まで、世界15カ国25チームで競い合う。

ホワイトレーベルスペース・ジャパンが開発するローバー


このレースの基本ミッションは2つある。一つは月面で500メートル以上移動すること。もう一つは、ハイビジョン動画を地球に送信することである。ミッションを達成し、優勝したチームには2000万ドルが送られる。

ホワイトレーベルスペース・ジャパン代表の袴田氏は、「個人や企業を巻き込みながらプロジェクトを進めていきたい」と話す。「これまで宇宙開発の情報は少なく、ある意味ブラックボックス的な面があったが、私たちは開発過程もオープンにしていく」

個人を巻き込むために、クラウドファンディング「CAMPFIRE(キャンプファイヤー)」に掲載し、資金を集めている。月面に送り込むローバーのプロトタイプ作成費に充てる予定だ。

袴田武史さん


出資者には、プロトタイプモデルに名前を掲載できる特典やプロトタイプモデルの体験操縦会への招待券を得られるようになっている。

袴田さんが宇宙に興味を持ったのは、映画『スターウォーズ』を見てから。「子どもの頃にスターウォーズを見て、映画のように宇宙船が飛び交う世の中を実現させたいと思った」と話す。

日本の民間組織から宇宙開発に成功した第一号となり、宇宙産業の活性化を目指す。「月の写真や、月から見た地球を見ることで、改めて地球の尊さや存在価値を感じてもらいたい。民間組織だからできる柔軟性で、多くの人に宇宙を身近に感じてもらいたい」

プロジェクトに掛かる予算は最低でも数十億円とされており、資金調達が課題だ。袴田さんは、現在は本業の会社に週3日だけ通勤し、残りの時間で資金調達に動いている。

「このプロジェクトを成功させて夢が叶う瞬間を多くの仲間たちと共有したい。そして、宇宙産業を活性化させて低迷している不況を打破する突破口を開きたい」と語る。

袴田さんたちの夢を乗せたロケットの打ち上げは2015年10月を予定している。(オルタナS副編集長=池田真隆)


ホワイトレーベルスペース・ジャパン