福島県とキリンは7月10日、福島県産農林水産物とその生産者の誇り「ふくしまプライド。」の情報発信や販路拡大を目的とした連携協定を締結した。今後はキリングループが持つ多様なリソースを活用し、福島県産品のブランド力拡大や人材育成への協力などを行っていく予定だ。福島県の生産者や行政とキリンとが協働し築いた信頼関係が、今回の連携協定として結実した。ここに至るまでのキリンの「本気」を紹介したい。(一般社団法人RCF=矢澤 弘美)
キリンは「生産から食卓までの支援」というテーマのもと「復興応援 キリン絆プロジェクト」(以下『キリン絆PJ』)を通じ、東北の主産業である水産業・農業生産者を対象に生産から流通まで一気通貫で支援、事業再開や6次化商品・品種開発などの成果を出してきた。福島県では水産業7案件 9756万円、農業20案件 3億3404万円を助成した。
■やると決めた以上はとことんやりきる「キリンの本気」
「金は出すが、口も出す」。キリン社員は積極的に地域に足を運び、本気で地域を元気にするために地域と共に考えてきた。地域に迎合せず、徹底的にビジョンへのコミットを求める。
例えば、案件発表や助成金の授与式などの「お披露目」には、首長など行政関係者、またメディアも必ず招待する。地域側では多くの場合「あまり呼びたくない」「今後の展望なんてまだ発表できない」などの声があがるが、それを許さない。
キリンが支援するのはプロジェクトの立ち上がり段階に過ぎず、そこで生まれた事業を今後担っていくのは地域、事業者たち自身だ。自らの退路を断つためにも、多数の方々の前で、しっかり今後の展望や計画を発表することは不可欠なステップと考えている。
「地域だけでは解決できない問題を本気で考えていきたい。目指す姿は孫が安心して暮らせる地域。地域が元気にならないと我々の事業も成り立たない。地域の方々が誇りをもって仕事をしていることと同じように、我々もこの活動に誇りを持っていきたい」(キリン CSV戦略部 絆づくり推進室 室長 中澤暢美氏)
この「地域への本気の姿勢」は福島に強烈な印象を残した。同社の企業価値も自然と高まり、連携協定の調整では「これまでの同社の福島県への支援実績には大変感謝している。とにかく前に進めていこう」という声が福島県庁内から実際にあがったという。
■地域側の「覚悟」を丁寧に引き出していく「キリン絆PJの本気」
RCFはキリン絆PJ事務局の一員として案件伴走に取り組んできた。キリンと地域、双方と共に様々な調整や推進を支援したが、特に難しいのは地域リーダー人材のコミットを引き出すことだった。
「リーダー候補の方が責任感を感じ『やはり代表はやれない』と言い出してしまったことがありました。聞き出していくと、『自分の抱える事業もある中でどこまで稼働をさいて成果をだせるのか』『複雑な地域の人間関係の中で目立ったことをして大丈夫なのか』という不安をお持ちであることがわかってきました。何度も何度もお目にかかってお話をうかがい、最終的に地域のためにがんばっていこうと腹をくくっていただき、組織を無事立ち上げることができました」(RCF 千田睦)
諦めず地域の方々の背中を押し丁寧に「覚悟」を引き出す熱意が、小さな成果を大きな信頼の輪に押し上げていった。
■「本気の連鎖」こそがヒトの心を動かす
2017年、キリン絆PJ「地域食文化・食産業の復興支援」は、ほぼ全案件の事業期間が終了。この6年間、生産者同士が生き残るため知恵を出し合い、震災前は希薄だった「生産者・地域間連携」が生まれるきっかけにもなった。
例えば絆PJの三陸水産業のリーダーたちを中心に結成された「フィッシャーマンズ・リーグ」、「石巻うまいもの」(宮城県石巻市)に代表されるプロジェクトの法人化など、今後の発展の見込みを含めると挙げればきりがない。それらは「多様な人々・セクターを超えた多様な巻き込み」にキリンがコミットしなければ、生まれることはなかった。
一方で「民間企業による支援」ならではの課題もある。プロジェクトについて今後の継続的な運営フォロー(ヒト、資金含めた)や、地域内外・プロジェクト同士の横連携推進、プロジェクトで開発した商品の販売協力など、キリンに対する継続支援の要望も、地域側からの声としてあがってきている。
多様な「本気」が集まり、熱量が心を動かし、本気の連鎖が新たな価値を生み出す。福島で、このうねりがさらに広がるようサポートを決めたキリン。RCFも絆を繋げ続けていきたい。
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