タイトル:電園復耕~大通りからそれて楽しく我が道を歩こう
なぜ人を押しのけて狭き門に殺到するのか?自分を愛し迎えてくれる人たちとの人生になぜ背いて生きるのか?
この書き下ろしは、リクルートスーツの諸君に自分の人生を自分で歩み出してもらうために書いた若者のためのお伽話である。(作・吉田愛一郎)
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◆奇跡の勝利
残り40秒。ダンは無線で4年生QBの村山に言った。「一か八かのパスを3回投げろ。誰かが一つとればそれでいい」
QBの村山は「えっ、でも」と言ったが、もう時間がない。
「ハイ」と言ってオフェンスは散った。ショットガンから村山に渡りパスがふわっと小さなレシーバーに投げられた。しかしその小さなレシーバーを見てダンは「アーイー」と叫んだ。
驚きのアーと失望のイーだ。その小さなレシーバーはさっきボールを蹴った片手の木村だったのだ。ボールを蹴った後、もたもたしてフィールドからベンチに下がる機会を失って、仕方なしにオフェンスの隅のワイドレシーバーの場所に止まっていたのだった。敵からも忘れられたかのように木村は完全なフリー。そこに村山は柔らかいボールを投げた。ボールは絶望的に浮かんで、覚悟を決めたように木村の胸に落下した。木村はそれを片手で胸に掻き抱いた、キャッチしたのだ。
そして20ヤードほど走ってフィールドの外に出て時計を止めた。ダンは狂喜した。狂喜しながらキッカーの中島を見た。中島は意識を取り戻してベンチでうつむいていた。なんだかまだぼーっとしているようだった。その中島に「フィールドゴールだ」とダンは叫んだ。
中島は頭を振りながら木村と交代。時間はあと10秒。センターからボールがでる。村山がそれをキッキングティーの上に置く。中島がゴールポストを見上げるとポストは歪んで見えた。いつものようにゆっくりと走り出して中島はボールを蹴る。ボールは少し右寄りに浮き上がってから失速した。
「頼む届いてくれ」
ボールはふらふらと落下してゴールポストのバーに当たって上に大きく跳ねた。
「入れ」
ボールは落ちてまたバーに当たった。バーに当たって向こう側にこぼれ落ちた。
「勝った」
ベンチに下がっていた木村がダンに跳びついた。電光時計は残り時間0と表示している。
上を向いて十字を切っているダンに冷たい水が浴びせられた。だれかがクロコダイルドリンクのタンクを持ち上げてダンに浴びせたのだ。祝福のシャワーを浴びてずぶ濡れのダンにスペーストレーナーのトレーナーが寄ってきて握手の手を差し出した。ルールもよく知らず、練習もあまりしない素人集団が、少しは名の知れたチームに勝ってしまった。「これを奇跡と呼ばずして、、、、」などと思っていたら、さらにドンテン返しが待っていた。
邪道とかまぐれとか言われているうちはまだよかった。しかし黒人選手サムは本当は東西大学の学生ではないらしいとの噂が立ちだすと事は悪い方に悪い方に転がりだした。フットボール連盟の要請で、東西大学が調べるとサムは聴講生で学籍を持っていない事が分かった。
そしてイミグランツの勝利は取り消され、今シーズンの出場も禁止となった。ダンは学長から叱責を受け、ヘッドコーチを辞するとチームもバラバラになってしまった。ダンはその後色々なアメリカのスポーツを日本に紹介し、それはそれぞれ日本に定着した。サーフィン、スケートボード、スノーボードがオリンピック種目になるなど誰が予想をしただろうか。
しかし今GICO保険会社の相談役をしているダンのそんなことや、幻のフットボールチームイミグランツの事を知っている人はとても少ない。
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