タイトル:電園復耕~大通りからそれて楽しく我が道を歩こう

なぜ人を押しのけて狭き門に殺到するのか?自分を愛し迎えてくれる人たちとの人生になぜ背いて生きるのか?
この書き下ろしは、リクルートスーツの諸君に自分の人生を自分で歩み出してもらうために書いた若者のためのお伽話である。(作・吉田愛一郎)

◆前回はこちら

◆小川さん

所長は続けた「これからは毎日こんなふうさ」
台車が見つからないので皆はスーツケースやバッグを両手で抱えたり、幾つもぶら下げたりして出口に向かうと、税関職員の男性が末広を手招きした。

すると所長はまたも紙幣を挟んだパスポートに渡して「ドリンクビアー」と言った。職員は高笑いして紙幣を抜き取ると顎をしゃくって通れと促した。ニヤッと笑うわけでもない。周囲を伺うわけでもない、笑い話の一つでも聞いたように。しゃがれた声をあげて笑っていた。

その声を後ろに聞きながら出口を通ると、みすぼらしい服を着たタクシー運転手が何人か寄ってきた。ヒルトンホテルの横のビジネスセンタービルまでの値段交渉が始まった。タクシーといってもただのぼろ車だ。メーターもない。交渉によって金額が決まる。

口々に争うように値段を提示するドライバーの中で、安い値段を提示した2台のタクシーに分乗してナイロビ市内に向った。途中、末広が乗ったタクシードライバーが、料金をせり上げようとしてわめきだしたが、所長の「警察に行こう」の一言で騒ぎは収まり、二台のタクシーはビジネスセンタービルに真っ黒い煙を吐きながら到着した。

末広はてっきり青年協力隊の事務所に行くものだと思っていたのだが、所長が入って行く部屋にはNAL日本国民航空と書いてあった。

太った日本人の青年が現れ、所長が奥にいると言って皆を案内した。
「ケニアに来たらまず、小川さんに挨拶だ」
所長が振り向いて皆に言った。
奥のマネージャー室に椅子にもたれかかった、禿げ頭の眼鏡男が虚空を見つめ、コートを羽織っていた。皆がデスクの前に横並びになって挨拶すると男は「すみません。マラリアの発作が起きてしまって」と細いが良く通る声で言った。「どうぞお座りください」。所長は心配そうな顔つきになって、「お体が悪い時にすみません。日本からの新参者を連れてきましたので」と言った。

「ご丁寧に。小川と申します」と殆ど背もたれに寝ているような姿勢で小川が言った。
皆はそれぞれ「よろしくお願いします」と深々と頭を下げた。

「お辛そうなので出直します」と所長は言いながら皆を連れて退出した。後ろから「すみません、来週は大丈夫です」という小川の声が微かに聞こえた。
「日本人は誰でもケニアに入れば小川さんに挨拶するんだ」所長は自分に言い聞かせるように言った。「困ったことがあれば小川さんだ」
ビルを出るとそこは並木道だった。広い道路と強い日差し、高地なので空気は澄んで爽やかだった。大きな並木。白やピンクや紫の花が咲き乱れ、甘い香りが町中に漂っていた。それは紛れもないアフリカの臭いだった。

この続きは11月27日(月)に掲載予定です


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